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64話

「いや、流石にさ、ヒーロー企業がアイディオンに加担するとは思えないんだけど……あー……でも、そーすると、『ポーラスター』を狙う理由にはなるのかなー……」

 ……でも、流石に、無いだろ。

 アイディオンと組む人間なんて、何考えてるんだ、っていう話だ。

 流石に、俺達への復讐の為にそんな馬鹿な事をする程馬鹿では無い……と思う。




「ま、理由はよく分からんが、『ポーラスター』がアイディオンに狙われている可能性についてはまだ否定できない。十分警戒してくれ」

 結局、こういう結論になった。

「ま、しょーがないか。私達としても情報が無さ過ぎて推察推察に推察にしかなんないもんね」

「そういうことになるな。……ということで、そろそろ次のアイディオンの基地に殴り込みに行くことになると思う。各自体調管理はしっかりしておいてくれ」

 思わず全員、古泉さんを見つめてしまった。

「……え?」

「真君も強化されたし、恭介君の話だとあともう1人分はカルディア・デバイスを改造できるみたいだからな。改造するなら桜ちゃんか俺か、って所か?どちらにせよ、戦力アップは間違いないだろう」

「……え?え?ちょ、叔父さん、戦闘明けに、言うに事欠いてそれ?」

 困惑している茜さんは、まだ数か所、包帯がとれていない。

「そうだ。情報こそ碌に無いが、このままでいたら、対策された上でまた街に攻めてこられるだろうからな。だったらこっちから打って出た方がまだマシだろう」

 古泉さんの理論には一理ある。

 どうせ戦う事になるなら、少しでも相手にとって不利になる条件を揃えたいものだ。

「ということで、近々また他のヒーロー事務所と会議することになると思う。恭介君、その時、新しいカルディア・デバイスの情報を他の事務所にも教えたい。構わないか?」

「大手に漏れないならいいと思いますけど」

「そこら辺は真君になんとかしてもらおう。ヒーロー事務所の内の幾つがカルディア・デバイスを改良できるかは分からないが、できたなら大幅な戦力の増加が見込める」

 また俺、『契約書を作る異能』みたいなかんじの事やるのか……。


「とは言っても、次はうちじゃない所がボス級の相手をするかもな、順番的に。会議をしてみないことには何とも言えないが」

 それもそうだ。

 前回は俺達がLv30アイディオンを倒したが、別に『ポーラスター』がやる必要はない。

 他所でできれば、そちらに任せてもいいはずだ。

「けどよ、俺達が居るんだから、こっちに回ってこねえ?」

「フィールド系の異能、ですから……」

「……会議をしてみないことには何とも言えない、としか、俺としてもなぁ……」

 尤も、恐らく星間協会の中では一番『ポーラスター』がボス級と戦うのに適している。

 俺は下手したら一発で戦況を完全にひっくり返せてしまうし、コウタ君とソウタ君は言わずもがな、フィールド系の異能持ちだ。

「とりあえず、真クンは前回みたいなのじゃない方法で盤面ひっくり返す嘘、考えといてよ。できればコスト低めなかんじの奴」

 茜さんはそう言うけれど、そもそも俺の嘘のコストって、どういう風に決まっているのか俺自身でさえ、良く分からないのだ。

「頑張ります」

 ……まあ、嘘のパターンを考えておくのは必要だよな。うん。




 その夜の事だった。

 部屋に戻って、シルフボードの手入れをして、ベッドに入って……いつも通り、浅く眠りの中に入った頃。

「古泉さん!」

 桜さんの悲鳴にも似た声で、俺は飛び起きた。


「桜?桜―、入るよー」

 俺と同じように、全員……古泉さんも起きて、桜さんの部屋の前まで来ていた。

 そして、茜さんが断りを入れてからドアを開けると……桜さんがベッドの上で半身を起こして……その大きな瞳からぼろぼろと涙をこぼしていた。

「桜っ!?どしたの、またなんか……怖い夢、見た?」

 なんとなく俺達は桜さんの部屋に入るのが躊躇われて、入口辺りでおろおろしていると、茜さんがさっさと中に入って桜さんの背中を撫で始めた。

 桜さんは頷いて……視線をこちらに向けた。

「古泉、さん……」

 そして、古泉さんの姿を見ると、桜さんの目から止まりかけていた涙がまた溢れだす。

「どうした、桜ちゃん。俺が死ぬ夢でも見たか?」

 古泉さんが安心させるように笑顔を浮かべて冗談めかすと、桜さんは目を伏せ……小さく、頷いた。

 古泉さんは一瞬笑みの種類を変えたが……すぐ、桜さんを安心させるためのものに戻す。

「大丈夫だ、桜ちゃん。……『見えた』んだろう?」

「そう。……『見えた』」

 桜さんにとっての『見えた』は、彼女の2つ目の異能……『未来を見る異能』によるものなんだろう。

『見えた』という事は、桜さんに見えたという、古泉さんの死は……多分、近い未来の事だ。

 古泉さんにとっては死刑宣告のようなものだろうに、古泉さんは落ち着いたものだった。

「どういう状況だった」

「凄く強いアイディオンと多分戦ってて……それで、古泉さんが、凄く、怪我、して……そこにアイディオンが攻撃する所で……目が覚めて……」

 ……正直、想像できない。

 この古泉さんが……その、アイディオンに負けて、死ぬ所、なんて。

「成程、つまり、正確には俺は死んだ訳じゃなくて、死にそうな状況になった、っていうだけだろう?なら大丈夫だ。むしろ、『見えた』ならいくらでも対処のしようはあるさ。未来は変えられる。……そのための、異能だろう?」

 桜さんは強く頷いて涙を拭う。

「ちなみに、俺が戦ってた奴はどんな異能持ちだった?分かってるのとそうでないのとで大分違う」

 古泉さんの言葉に、桜さんは少し思い出すように少しずつ、言葉を選んでいく。

「よく分からない、けれど……古泉さんが、動けなくなって、そこに、赤い、剣……じゃなくて、鎌……?が」

「赤い、鎌」

 桜さんの言葉に反応して古泉さんが発した声は、あまりに色が抜け落ちていた。

 思わず古泉さんを見やると、茫然としている、というにはあまりにも感情が読めない顔をしていて……しかし、古泉さんの表情は次第に明るく……どこか危ない明るさに変貌していく。

「そうか……そうか!赤い鎌のアイディオンか!そいつと俺は近いうちに戦う訳だな?」

 急に嬉しそうに話すようになった古泉さんに、桜さんは驚きながらもこくこく、と数度頷く。

「そうか……大丈夫だ、桜ちゃん。なら、尚更俺は死なない。俺は絶対にそいつに勝つさ」

 ……なんとなく、以前コウタ君が言っていた古泉さんの癖についての話を思い出して古泉さんの手を見ると、古泉さんは左手の薬指を右手で握るようにしていた。




 寝付けなくなってしまったらしい桜さんを茜さんが部屋に連れて帰り、俺達も各自、部屋に戻って眠ることにした。

 明日にでもアイディオンが攻めてこないとも限らない。

 いつだって、体調は万全にしておくべきだ。

 ……古泉さんの死を、桜さんが未来に見たとしても。

 俺達がやることは変わらないのだ。




 それから翌日の内に、星間協会のヒーロー達に連絡が行き渡り、翌々日には星間協会の面々がまた『ポーラスター』に集合することになったのだった。

「では、これより第4回、星間協会合同会議を開始する。司会は『ビッグディッパー』の『ライト・ライツ』だ。本日の議題は、先日のアイディオンによる集団侵攻と、次回の俺達の侵攻についてだ。手元の資料を見て欲しい」

 ……会議の前半は、アイディオンの集団侵攻の全体像と、それぞれの事務所の状況、戦力の分析などだった。

 アイディオンと戦っていたのはまず、『ポーラスター』。戦場は『ミリオン・ブレイバーズ』前。

 次に、『スターダスト・レイド』。こっちは『ミラージュタワー』。

 そして残り2つは、星間協会に所属している訳では無い事務所が2つ。

『ラディカルヒーローズ』と『ヴァルキリー』という、やはりそんなに規模の大きくない事務所だったようで、戦場はそれぞれ、人通りの多いショッピングモール前と、駅前広場。

 それぞれに『ノヴァ・ブレイズ』と『ビッグディッパー』が助太刀したらしいが、どちらもやはり途中までは絶えない増援に苦戦していたらしい。

 ……星間協会を狙った訳でも無かったようだし、となると、アイディオンの目的はやはり、『ポーラスター』だったのだろうか?


「急に増援が止んだと思ったら、まーた『ポーラスター』だって後で聞いてな。『スカイ・ダイバー』。Lv30アイディオンを倒した弊害か?」

「次は別の所がボス級のアイディオンを倒した方が良さそうですね」

「それについて、頼みがある」

 そして、次の侵攻について話が以降し始めた時、古泉さんが突然に声を上げた。

「次のボス級は、俺にやらせてくれ」


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