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54話

「さて、手っ取り早く稼ぐにはどうすればいい!」

「アイディオン倒すー」

「そして俺達にはアイディオンの拠点の情報という極めて金蔓にしやすい情報がある訳だが!」

「そもそもそのアイディオンと戦いやすくするためにカルディア・デバイスを改良したいんでお金が必要なんですよね」

 最早、恒例と言ってもいい。

『ポーラスター』はまたしても金欠だった。




「Lv30アイディオンを倒したのに金欠ってなんか、おかしくね?」

「Lv30のソウルクリスタル自体は売る訳にもいかないしなぁ……ノルマ分と生活費を差っ引いたらそんなもんなんだ」

 今までのひどすぎた生活環境を元の水準に戻したら、またしても金欠、という悲しい事態に陥っている。

 ほら、今まで茜さんのモデル業の稼ぎに手を付けてなんとかかつかつの生活をしていた訳で……。

 やっと『ポーラスター』は黒字になった、と言えるのだが。

「Lv12位のアイディオンならさー、結構大手も倒しちゃ『うちはこんな強いアイディオンを倒しました!』ってやってるじゃん。でも、私達はそれやっちゃうと大手に潰されかねないしさ、できないわけじゃん。……不公平じゃん!」

 茜さんの言い分も尤もだ。

 別に、名声が欲しい訳じゃない。

 ただ……知名度と、それに伴って増加するであろう依頼の数は……欲しいんだよな、うん。




 それでも、今月分のノルマが達成済み、というのは心のゆとりでもある。

 つまり、これから先で狩ったアイディオンは全てそのまま、稼ぎとなる訳で。

「一狩り行ってきまーすっ!」

 先月とは違って、かなり生き生きと茜さんが出ていく。

 やっぱり、こう……稼ぎに直結する、というのはやる気になるのだ。

「真さん、俺達も行きたいから付き合ってくれよ」

 コウタ君とソウタ君は高レベルのアイディオン相手なら、その異能を行使できることがある。

 異能を使う練習も兼ねて、アイディオン狩りをすることになった。

 勿論、低レベルのアイディオンに対しては殆ど無力なので……俺が付いていくことになったのだ。

 俺も異能としては似たり寄ったりだけど、『火』の嘘なんかは低レベルのアイディオンに割と有効なのだ。

 コウタ君とソウタ君程の確実性は無いけれど、その分俺の方が幅広く色々な事ができると言える。

 ……そして何より、俺が2人の付き添いに選ばれたのは、俺一人でも大抵のアイディオンをなんとかできる、と、判断されたからでもある。

 つまり、俺は着実に成長しているし、着実にそれを認められている、という事なのだ。

 これは単純に嬉しい。

 やっぱり、稼ぎとかもそうだけれど……自分の成長とかも、目に見える形で実感できると違うよなあ、と思う。




「真さん、あれは僕達でもいけますか?」

「8なら……うん、一応やってみて。駄目だったらすぐに退避。俺が炎の壁出すから」

 少し、3人で空を飛びまわっていると、Lv8のアイディオンを発見した。

 ……アイディオンは先月に比べれば、ややその数を戻している。

 つまり、探し回っても見つからない、なんてことはあまり無い。

 それでも、Lv8ともなると、比較的高レベルなのだ。その数は少ない。

 コウタ君とソウタ君の訓練の為にも、できるだけ2人には異能で戦う経験を積んでほしい。

 よって、2人の異能が効くかグレーゾーンのアイディオン相手でも、とりあえずまずは双子が異能を使ってみる、というのがここ最近のお約束になっていた。

「ええっと……こんにちは!僕たちのカジノへようこそ!」

 2人は訓練の結果、『とりあえずフィールドを展開する』ことが可能になったらしい。

 勿論、そこで契約が成立しないと戦えないらしいのだけれど、最初に相手を2人のペースに巻き込める、というのは大きな違いだろう。

 ……双子とアイディオンの姿が消えて、とりあえず俺は手の鉄パイプ……剣を作り直してもらう金と暇が無かったので、とりあえずまた鉄パイプで代用しているのだが……手に馴染む感覚のそれを握りしめていた。

 いつでも急発進できるように、シルフボードの準備もしておく。


 ……そして、ほんの1分もしない内に、2人が出てきた。

「やりましたー!」

「いいカモだったぜー!」

 2人はソウルクリスタルを掲げて、嬉しそうにしていた。

 2人には、彼ら自身の身を守る程度の力は身に着けておいてもらわなくてはいけない。

 けれどこの様子を見る限り、そこはきっとクリアできるだろう。


 ……それから、前回の、Lv30アイディオンとの戦闘から、もしかしたら2人のフィールドを傷ついた仲間のシェルターとして利用できるんじゃないか、というアイデアが出てきたのだ。

 フィールドの発動条件を変えられないか、フィールドでの時間の速さを調節できないか、等、2人には試行錯誤してもらっている。

 或いは、俺も……『完璧なシェルター』の嘘を吐ければよかったのだ。或いは、『怪我が治る嘘』とか。

『ポーラスター』は割と、攻撃一辺倒だったんだなあ、というような事が今回の戦闘で分かった。

 俺自身も、もうちょっと柔軟に色々できた方がいいんだよな、きっと。




 ということで、それからLv4とLv6のアイディオンを1体ずつ、俺が狩ってから帰還した。

 帰還、した、のだが……。

「どうしたんですか?」

 桜さんがいつも通りの表情に乏しい表情で机の上を見つめ、古泉さんがやや引き攣った顔で机の上を見つめ、恭介さんが死んだ魚のような目で机の上を見つめていた。

「ああ、お帰り。……いや、なんだかね、その…………依頼、が、届いてなぁ……」


 古泉さんの歯切れの悪さといい、何かあるんだろうなあ、と思いながら、桜さんが手渡してくれたそれを読む。




『依頼内容:人探し

 期限:3日

 依頼料:前金で300万・依頼達成で300万

 探し人:天原茜』




 ……まず、この『ポーラスター』事務所に郵送物が届く、という事が1つの驚きですらあるのだが、それがよりにもよって、これだ。

「……な、なあ、茜さんって、借金踏み倒したりしてんのか?そういうことなのか?」

 コウタ君が神妙な顔でそういうことを言うが……それは無いだろう、流石に。

「人探しにしてはすごい金額ですよね、これ。期限も短いし、ここに茜さんが居るって分かってるんですよね、きっと」

 ……古泉さんの表情を見る限り、多分……『ヤバさ』の種類が違う。

 個人情報が漏れた、とか、そういう話じゃなくて……。

「古泉さん。もしかして……依頼人は、古泉さんの、お姉さんですか」




「……よく分かったなぁ、真君。……ほら」

 手紙の差出人の所には、『天原 惟子』とあった。

「……茜さんって……その、もしかして……」

「……家出同然にここに転がり込んできたんだよな……」

 古泉さんが頭を抱え始めた。

 いや、そんな家出少女をヒーローとして雇う事に問題があると思うんだけれど。

「一応、言い訳させてもらおうか」

 なんとなく、俺の視線に何かを感じたらしい古泉さんがため息とともに、茜さんを雇った経緯を話し始めた。




「茜の両親……俺の姉と、義理の兄、は……茜にとってあまりいい親じゃなかった。少なくとも、俺はそう思ってる」

 桜さん、それに、特にコウタ君とソウタ君が複雑そうな顔をした。

 桜さんは……どうだろう。俺は覚えているから桜さんも覚えていると思うけれど……コウタ君とソウタ君は、下手したら両親の記憶が殆ど無い可能性すらある。

 だから……なんとなく、親、というものに憧れみたいなものが多分あるんじゃないかと、思う。

 俺にだって、多分、無いとは言えない。

 古泉さんもなんとなく、そこら辺は察しているのだろう。

 さっきから歯切れが悪い。

「……小さいころから英才教育を詰め込まれていてね。同世代の子供達と遊ぶ機会も殆ど無くて。……茜の親は過保護だったし……その、茜が自分たちの理想から離れるのが嫌なタイプでね」

 今一つ、俺達は実感がわかない。

 そういう経験をしたことが無い、という事もあるし、そもそも、そういう人と出会った事が無い、という事もある。

「茜を1つの人格として見ていなかった、って言ったら分かりやすいかな」

「ますますわかんねー」

 最早、コウタ君は理解不能の極地に到達してしまったらしい。

 古泉さんは苦笑しながら続けた。

「茜が思い通りに動かなかいという事が我慢できない人たちだったんだよ。だから、茜は高校の途中まで、完全に親の言いなりで……洗脳みたいなものだったのかな、あれは」

 洗脳、と言われて、やっとコウタ君とソウタ君はなんとなく、分かったらしい。

 ただ、それが『親』によるもの、となると……やっぱり、複雑なんだろうけれど。

「茜が高校を卒業する3か月前位かな。茜はモデルとしてスカウトされてね。……その時、世界が変わったみたいだったらしいぞ。目が覚めた、って言ってたっけな。それで、茜はモデルを始めたいと思った。……けど、両親の反対にあってね。そこで生まれて初めて、茜は両親と大喧嘩したらしい」

「うん。あれが私の第二の誕生だったね、今思うと」

 あっけらかん、とした声に振り向くと、茜さんが帰って来ていた。


 なんとなく、気まずい。

 ……けれど、茜さんは一切気にしていない、というような様子で話を続ける。

「そんでさ、私のモデルのスカウト、親が勝手に断りやがって。……そこでまた大喧嘩。そんで、もーやってらんない、ってなって、荷物纏めてスクールバッグに詰めてさ、翌朝、ふつーに学校行くふりして、そのままドロンしてやった、って訳。だから、私の学歴、高校中退ね。……もしかしたら卒業できてることになってんのかもしんないけど」

 茜さんは机の上の『依頼』の手紙を手に取り、一読して、また机の上に放り出した。

「で、とりあえず私さ、心から信頼できる友達とか、居なかったし、とりあえず叔父さんの所に無理言って匿ってもらったの。……で、割と協力的だった叔父さんの所に住ませてもらいながら、改めてモデル業始めた、って訳」

「俺も迷ったんだがな、姉と義兄の考え方と反りが合わないのは前から感じていたし……茜も自分で自分の事を決めていい年齢だと思ったしな。許可した」

 古泉さんが釈明のように、そんなことを挟む。

 ……うん、別に、古泉さんが悪いことをしたとは思ってない。

 確かに、家出した女子高生を匿う、って、こう……うん、やめとこう。


「……ま、それでさ。『空崎アカネ』としてモデルやってたんだけどさ。1年経たない内に割と人気でちゃって、それで両親にバレて……モデルの方の事務所に押しかけてきて……」

 そこでいきなり、茜さんの言葉が途切れた。

 茜さんは珍しく……言いづらそうに、視線をそこら辺に彷徨わせて、がしがし、と頭を掻く。

「……娘が人気モデルだなんて鼻が高い、自慢の娘だ、とか、勝手な事、言うから……ブチ切れて、親ぶん殴って、そこのモデル辞めた」

 ……俺は親とそういう大喧嘩をしたことは無い。

 むしろ、そういうのがちょっとだけ、憧れでもある。

 ……けれど、何だろう。

 その親、というものを、支配者、と置き換えたら、なんとなく分かる気がしたのだ。

「で、叔父さんがその経緯聞いて、冗談で『じゃあヒーローやってみるか?』っつって、適性検査したらマジで適性あったから、バッサリ髪切ってショートにして、服もお嬢様系ごっそり捨てて、んで、ヒーロー業始めたのよ。ついでに、うっかりスカウトされて、今度は『パラダイス・キッス』としてモデル業復帰してさ。今に至る、って訳」

 そこまで喋って、茜さんは机の上にあった……恭介さんの紅茶のカップを攫って、中身を飲み干した。

「つまり、ご両親とお会いになる気は……?」

 ソウタ君が恐る恐る、といった具合に聞くと、茜さんは。

「ゼロ!最近のビールのカロリーとか糖質とかプリン体とかが真っ青になるレベルでゼロ!」

 威勢よく、そう言い切った。


「……なんだけどさー、正直、お金の為ならいっかなー、って気もするんだよね。この額だし」

 しかし、その後にそう、続けもしたのだ。

 茜さんは机の上の依頼書をもう一度手に取って弄ぶ。

「茜」

「叔父さんだってそう思わない?ちょっと会ってまた文句言ってぶん殴ってやればそれで300万だよ?」

「茜!」

 珍しく、古泉さんが声を荒げた。

 俺達が思わず固まった所で、茜さんは気まずげにまた視線を彷徨わせる。

 古泉さんとは、目を合わせようとしなかった。

「……ちょっと、昼寝してくる。その依頼、どうするかはあなたが決めて。……『スカイ・ダイバー』」

 そして、茜さんは普段の茜さんからは想像ができない程、疲れたような、弱ったような……そんな声で言葉を置き去りにして、部屋へ入っていってしまった。


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