表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/164

53話

 帰ったら、恭介さんがソファで茜さんの太腿を枕に寝ていた。

「あ、お帰り。静かにね」

 枕にされている茜さんが、しー、と、口の前で指を立てる。

「どうしたんだい、恭介君」

「60時間起きっぱなしだったから寝かせた」

 恭介さんは今、Lv30のアイディオンから得られたデータの解析に忙しい。

 なまじ、ものがものだから……下手に表に出したら、どこかに潰されかねない。

 だから、恭介さん1人で何とかするしか無くて……何日も、こんな生活が続いているんだとか。

「とりあえず丁度今、休憩挟ませがてら隙をついて寝かせたとこ。晩御飯まで寝かせといていいよね?」

「ああ。茜もゆっくりしてていいぞ。今月のノルマはもう達成済みだし……仕事も来ないしな」

 Lv30アイディオンのソウルクリスタルは、提出できない。

 下手に提出しようものなら出所を聞かれるし、聞かれたら大手に潰されかねないし。

 ……しかし、あの場にはLv10以上のアイディオンがゴロゴロしていた訳で……帰りがけに残党狩りをして、しこたま儲けてきたんだとか。

 Lv30アイディオンのソウルクリスタルがノルマに入れられないのは他の事務所のヒーロー達も分かっていた事だし、むしろ、俺達はソウルクリスタルを山分けする、となったら貰う側だったりしたらしい。

「じゃ、ちょっと寝てる恭介君相手にいちゃつくっていう空しい所業してくるねー」

 よいしょ、と、茜さんは片腕で恭介さんを担いで、恭介さんの部屋に消えていった。




「……茜さんって、恭介さんと付き合ってるのか?」

 コウタ君にそんなことを聞かれたのは、夕食の支度を始めた所でだった。

 今日の夕食の当番は俺なのだ。

 コウタ君とソウタ君が……珍しく、コウタ君から手伝いを申し出てきたから、少し違和感はあったんだけれど、こういう事だったのか。

「多分ね」

 俺が答えると、双子はほわー、と、感嘆なのか何なのか、よく分からないため息を吐く。

「多分、っていうと、真さんもよく知らないんですか?」

 ……正直、俺も本人達に正面切って聞いたわけでは無い。

 ただ……うん。

「状況証拠が……」

 朝、茜さんが恭介さんの部屋から出て来るとか。

「ま、そうだよな。あれだけくっついてりゃ、逆に付き合ってない方がおかしいよな」

「あんまり気が合いそうなかんじでも無いですけれど……」

 明るくて派手な茜さんと、暗くて地味な恭介さんは……うん、なんで付き合ってるのか、と言われたら正直よく分からない。

 いや、二人ともいい人だと思うし、俺はいいと思うけれど。

「割れ鍋に綴じ蓋って奴か?」

 どっちかっていうと、美女と野獣……いや、獣、じゃないよな……草……?それとも、獣は茜さんの方だろうか……。


「ところで、古泉さんって結婚してらっしゃらないんですか?」

 ソウタ君もそういう事に興味があるタイプだったか。

 ……単純に、2人が今までいた環境によるものかもしれないけれど。

「いや、そういう話は聞いたことが無いけれど……」

 無いけれど、無いとは言えない。

 単純にあの人も謎が多いし……俺は、親しくなってきたとは言っても、まだこの『ポーラスター』に来て3か月経っていないような状況なのだから。

「でもあの人、何か困ったりすると左手の薬指、触るよな」

「あ、コウも思った?僕も思った」

 ……しかし、コウタ君とソウタ君は……うん、凄いな。

 古泉さんの癖なんて、気にした事が無かった。

 けれど、よくよく思い返してみたら、確かに……そうだった、かもしれない。

「……この職業、だからさ。もしかしたら、奥さんが『いた』かもしれないよな」

 俺の言葉に、双子は、はっとしたように顔を見合わせる。

「……ここに寝泊りしてる時点で、離婚してるか……死別してるか、だもんな、多分」

「古泉さんが別居するタイプだとは思えないんですよね」

 ……なんとなく、古泉さんのソウルクリスタル……『2つ目』は、そういうことなのかな、と、ふと、思った。


 古泉さんについて……そういう事が気にならないでもないけれど、俺達が気にすることでもないだろう。

 俺達が首を突っ込んでいい事だとも思えない。

 コウタ君とソウタ君もそれは分かっているらしく、とりあえず、この話はここで終わり、という事になった。




 それから、数日経った頃。

 応接間に居たら、突然、恭介さんが部屋からふらり、と出てきた。

「終わりました」

 そして、手に持っていた紙の束をあたりにぶちまけて……その場で絨毯に倒れて、寝てしまった。

「……うわー、うわー……恭介君、お疲れ様……とりあえず運んで来るね、っと」

 桜さんが散らばった紙を集めて、茜さんが恭介さんを運搬していく。

「……データの解析結果、みたい」

 桜さんは一通り、紙の束に目を通してから机の上に乗せる。

 俺達もそこに群がって紙を順番に見ていく。

 ……最初の数枚は、アイディオンの居場所についてだ。

 あのLv30アイディオンは結構律儀に情報を開示したらしい。

「これだけあれば当分、ノルマには困らなさそうだな……」

 古泉さんがどこかぶっ壊れた笑みを浮かべている。

 ……喜ばしいことだ。当然、喜ばしいことだ。

 アイディオン達の居場所が分かって、それを叩ける、となれば、当然、喜ばしいことだけれど……。

 ……それに伴う労働と、不確定要素は計り知れない。

 今回の勝負だって、俺の嘘が通ったからなんとかなったようなものだったし、その嘘だって、不確定要素が多すぎる。

 大体、あのアイディオンが他の拠点に居るアイディオンに俺達の情報を流していないとは限らない。

 ソウルクリスタルを俺達に渡すまでに間に何かしようと思えば、できたかもしれない。

 アイディオンの事はソウルクリスタルと同じぐらい、分かっていないのだから、何ができて何ができないかなんて、不確実極まりないのだ。


「こっちから先は……あ、これ、俺が見ても分かんねー奴だ。パス」

 コウタ君にパスされた紙を見るけれど……多分、カルディア・デバイスの回路なんだろうな、ということ位しか分からない。

 古泉さんはそれを見て少し目を光らせたから、なんとなく分かる部分があるのかもしれないけれど。

「これは起きたら恭介君から説明してもらわないといけないな。……下手したら、俺達全員分のカルディア・デバイスは作り直しだ」

 つまり……その回路が、相当出来がいい、っていう事なんだろう。

 出来のいい回路を使えば、当然、俺達のヒーローとしての能力も上がる。

 少しでも能力を上げられるなら、当然、そうすべきだろうけれど。

「……お金、あるの?」

 しかし、問題はこれなのだ。

「桜ちゃん、いい質問だな。……無いよ」

 爽やかな笑顔で古泉さんはそう言う。

 ……まあ、うん。

 知ってる。


「ええと、これは何でしょうか」

 そして、最後の1枚は……正直な所、俺が見ても分からなかった。

 記号の羅列。そうとしか言えない。

「アイディオンの文字、かな」

「あいつら、俺達と違う文字使ってんの?」

 ……これも、恭介さんが起きてからだな。




 結局、恭介さんが起きてきたのは夕飯が終わってからだった。

「他のアイディオンの拠点については分かると思うんで飛ばします」

 お茶漬けをもそもそと食べる恭介さんを囲んで、俺達は解説を聞いている。

 食べにくいんですけど、と、恭介さんは不満げだったけれど、茜さんが黙らせた。申し訳ない。

「次の情報はカルディア・デバイスの回路でした。簡単に言うと、変身形態を複数登録しておけるような回路です」

 さらり、と恭介さんは言うが、それは……相当に凄いことなんじゃないだろうか。

「単純に効率もいいんで、予算が許せば全員分のカルディア・デバイスを作り直した方がいいかもしれません。もし予算が無ければ、真さんのだけでも」

「……なんで俺、ですか?」

 全員分のカルディア・デバイスの効率を上げたい、という事は分かる。

 当然そうすべきだ。

 けれど、そこで優先すべきなのは……俺より、古泉さんか桜さん、つまり、単純に戦力になる人から、にすべきじゃないんだろうか。

「恰好で騙せるならそうした方がいいんで。……たとえば、剣士っぽい恰好と魔術師っぽい恰好、2パターンあれば嘘のパターン、増えるじゃないですか。あとは、『俺の変身は二段階あるぞ!』みたいな嘘が吐けるとか……別人のふりができたらそれだけでも価値がある」

 成程、そういう事か。

「Lv30アイディオンとのアレでさ、真クンの切り札っぷりは分かっちゃったし。もし効率上げることで真クンが21日も寝なくて済むようになるならさ、そうした方がいいじゃん」

「俺、正直あれはずるいと思った」

「賭け事を提供する側としては一番嫌なお客さんなんですよね、真さん……」

 双子には散々な言われようなんだけれど、事実だからしょうがない。

 ……確かに、どうしようもないような相手に勝てる『可能性』の広さなら、俺が一番だ。

 けれど、それも不確定さ故、というか。

「……いいんでしょうか、俺で」

「単純な戦闘力としてはそんなに高くないが、真君が居れば、いろんな事ができるだろう。そうしたら、俺達だって戦いやすくなるかもしれない。全体の底上げをしようと思ったら、真君を強化するのが一番手っ取り早いんだ」

 古泉さんが俺を安心させるようにそう言ってくれた。

 ……うん、それで、『ポーラスター』の役に立てるなら。

「ただ、問題は……恭介君、予算は」

「一人当たり……このぐらい、ですかね」

 こそこそ、と、恭介さんと古泉さんが話して……すぐ、結論が出たらしい。

「よし。とりあえず、稼いでから考えよう!」

 結局、こういう事なのだった。


「ちなみに、3つ目は?」

「それは俺にも分かりません」

 そして、最後の、記号の羅列については恭介さんも分からないらしい。

「アイディオンの文字なのかなー、やっぱ」

「この文字でアイディオンが日記付けてたりすんのかな」

「さあ……」

 ……まあ、他のアイディオンの拠点を潰していくうちに分かってくるだろう。多分。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ