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50話

 フィールドが砕けた事の弊害は、3つある。

 1つは、賭けがそもそも無効になってしまう事。

 2つ目は、相手にとって地の利のあるフィールドで戦わなければいけないという事。

 そして3つ目は、フィールドを使えない以上、時間稼ぎがあまりにも足りなくなってしまった、という事だ。


 後方、分厚いシールドは数枚あるが、それもいずれは破られる。

 後から追加してもいるけれど、俺がそこにかかりっきりになってしまったら、本当に、こっちを打開できなくなる。

「……どうやったんだ?カジノが壊れるのは初めてだ」

 〈答える義理は無い〉

 コウタ君の問いかけにも、アイディオンは答えない。

 〈殺し合いを、するのだろう〉

 そして、その代わりに、とでもいうのか、剣を鋭く振るってくる。

 咄嗟にそれを避けるが、恭介さんが1人、逃げ遅れる。

「『カオス・ミラー』!」

 腹を斬られた恭介さんは、愕然としたような表情で……それでも、その震える手で、腰に吊るしてあったナイフを取り……胸に、刺した。


 しかし、それだけだった。

「なん……で……」

 恭介さんの目が、紫色の光を湛えて、見開かれる。

 異能は発動しているはずなのに、アイディオンには傷一つ付かなかった。




「『カオス・ミラー』!」

 茜さんが再び、恭介さんを呼び、凄まじい速さで飛んできて、恭介さんを攫うように連れ去る。

 多分、キスして治すんだろう。

 大分、思い切り刺していたようだったけれど……『ポーラスター』に拾われた当初の俺ですら、助かったんだ。

 きっと助かるだろう。

 助かるだろう、けど……。

「……まさか、効かないとは、な」

 コウタ君とソウタ君のフィールド。

 そして、恭介さんの道連れ作戦。

 ……『ポーラスター』は、もう切り札を2枚も、切ってしまった事になる。




 容赦なく振るわれるアイディオンの剣は、コウタ君とソウタ君に向かっていったが、途中で軌道を変えられる。

「こっち」

 桜さんが投げたナイフが、アイディオンの剣の軌道を変えたのだろう。

 桜さんはアイディオンを挑発するようにひらひらと飛び回り、少しずつ、ナイフを投げては攻撃を試みている。

 ……けど、あれじゃ、間に合わない。

 先に、桜さんの体力が底を尽きてしまうだろう。

 桜さんはそれを分かっているのだろうけれど、それでも、アイディオンを引き付けるために攻撃を続けている。

「……真君。どう見る」

 その隙に、古泉さんが俺に意見を求めてきた。

「異能を破る異能、じゃないでしょうか」


 コウタ君とソウタ君の異能は、破られた。

 恭介さんの異能も、効かなかった。

 そういえば、茜さんの投げキスも効いたようには見えない。

 ……これらについて、あのアイディオンが持っている異能が『異能を無効にする異能』だとすれば、納得がいく。

「……厄介だな。俺の異能は使えているが……」

 しかし、古泉さんはさっき、エネルギー反転による防御に一応、成功している。

 完全に異能を無効化することはできない、という事なのか……いや、違うか。

「あのアイディオンを対象にした異能だけが無効になっているんじゃないでしょうか」

 ……だとすれば、俺の『嘘』も、無効化されたのかもしれない。

 下手すると墓穴を掘りそうで、確認する事が出来ないけれど。

「となると、茜は回復要員で、恭介君とコウタ君ソウタ君は非戦闘員扱いだな」

 恭介さんの異能は言わずもがなだし、コウタ君とソウタ君も、同じような物だろう。

 ……切り札2枚が、こんな形で非戦闘員状態になってしまうとは。

 かなりの痛手だった。


 〈邪魔だ〉

 ふと、視界の端で、桜さんにアイディオンの剣が向かうのを見た。

 ……咄嗟に、Lv30アイディオンの剣の先、桜さんより手前に……別の、さっきの部屋で見たアイディオンの幻影を浮かべる。

 〈!〉

 それに反応して、アイディオンは咄嗟に剣の軌道を変え、剣は桜さんを避けて通っていくことになった。

 ……俺の幻影は、まだ無効化されていない、という事なんだろうか。


 悩む暇は無かった。

 俺は、後方のシールドの強化をこっそりと、目の前のアイディオンにばれないように行う。

 シールドの強化を行いながら、考える。

 ……どう見てもこの戦況は、不利だ。

 今、まともにアイディオンに対して攻撃できているのは桜さんと古泉さんだけだ。

 そして、桜さんの投げナイフは、それ自体、1つ1つは大きなダメージにならないし、古泉さんの攻撃はアイディオンよりリーチが短い以上、諸刃の剣になりかねない。

 回復役に徹する事になった茜さんも、1人で恭介さんと古泉さんを治せる程、回復は得意ではなさそうだ。

 ……なら、俺も戦いに行くべきだ。

 近接戦闘員として。

 ……もし、俺の『嘘』が、無効化されないなら。

 相手がそもそも、『嘘』だと気づいていないなら。

 そういう戦い方をすれば、俺が戦力になることも可能かもしれない。


 恭介さんが作ってくれた、例の剣を構える。

 熱を持つそれに、炎の幻影を纏わせて、シルフボードを勢いよく発進させた。

「っと」

 完全にアイディオンの死角から突っ込んだはずなのに、アイディオンは見もしないで剣を振ってきた。

 横から来たそれを何とか避けて、アイディオンに近接する。

 そして、剣を振って、アイディオンにぶち当てる。

 ……固い!

 その鎧だか表皮だか服だか分からないそれに阻まれて、刃がアイディオンを傷つける事は無かった。

 ……これは、桜さんのナイフも、期待できそうにない。

 俺のそんな様子を見てか、アイディオンがにやり、と笑ったような気配がし……次の瞬間、また剣が迫り、咄嗟に俺はそれを剣で受け止めた。

 ……俺がシルフボードに乗っていたから、弾き飛ばされるだけで済んだ。

 もし、そうでなかったら……剣ごと、叩ききられていただろう。

 俺の剣には、鉄パイプ以上の強度を持たせた、と恭介さんは言っていた。

 ……その剣が、半ばで折れていた。




 〈諦めろ〉

「すまないが、往生際は、悪い方、でねっ!」

 その後、俺は剣の幻影で戦ったりもしたのだが、結果は芳しくなかった。

 幻影でできた剣は、相手を傷つける前に消え失せてしまう。

 そして、その間にも桜さんと古泉さんは追い詰められていく。

 アイディオンにダメージが入っていない訳じゃない。

 けれど、足りなさ過ぎた。

 アイディオンの異能のせいか、古泉さんは反転し損ねて数発、まともに食らってしまっている。

 桜さんにだって限界はあるだろう。

 茜さんの攻撃は効かない。茜さんが身体能力強化をあてにして肉弾戦に持ち込むのは、それこそ馬鹿げている。

 コウタ君とソウタ君も、あれから数度、フィールドの展開を試してみているようだけれど、駄目らしい。

 そして何より、2人共フィールドを破られた反動なのか、消耗が激しかった。

 恭介さんは言うまでもない。

 恭介さんの異能が使えないなら、恭介さんが戦う手段はもう他に無い。そうでなくても、傷つき過ぎている。

 ……そして、俺は。

「おい、アイディオン、お前さっき、俺の剣を受けたよな」

 アイディオンが反応するのを見て、なんとか、続きの言葉を紡ぎ出していく。

「毒が塗ってあった、って言ったら、どうする?」

 〈そんなハッタリが通用するとでも思ったか〉

 ……嘘を吐く上で、一番有効なのは、こちらが優位に立っている事だ。

 相手が焦れば、苦境に立てば、その分嘘は通りやすい。

 ……こちらが劣勢の今、アイディオンに対して嘘を吐いても、今一つ効きが悪かった。

 或いは、これも異能によるものなのかもしれないけれど。

 このアイディオンに対して嘘を吐いても、『異能を無効にする異能』なら、簡単に嘘を見破れるだろう。

「っ!」

 古泉さんの押し殺した悲鳴は、俺をますます焦らせていく。

 駄目だ。これじゃ駄目だって分かってる。

 もっと冷静にならないと、相手を騙せない。

 ……いや、駄目だ。それじゃ駄目なんだ。相手は騙せない。

 騙せない相手を、嘘を吐いても見破られる相手を、嘘に嵌めなきゃいけない。

 古泉さんが大きな傷を負った以上、桜さん1人で長くもつとも思えない。

 だから、俺は……。

 ……いっそ、もう。

 ぶっ壊れてしまう事にした。




 シルフボードを発進させる。

 追いかけてくる誰かの声も無視して、後方へ。

 ……分厚いシールドは向こう側が見えない程分厚い。これなら、大丈夫だ。

 一応、もう一度補強してから、別のルートで中心部を出る。

 全速力で。

 いや、限界を超える勢いで。

 とにかく、速く。速く。速く。

 飛びながら、アイディオン達を遥か後方へ追いやりながら、まず、星間協会で配られた、俺の通信端末をそこら辺に叩きつけて壊した。

 それから、笑顔を作る。喜びの表情。歓喜の声。そして、達成感を想像して、信じる。

 思い込む。


 シルフボードによって加速した俺は、勢いよく建物の外に飛び出した。

 あちこち……恐らく、入口付近だと思われる個所で、ヒーロー達が戦っているのが見える。

 そのヒーロー達へ。

「やりました!勝ちましたーっ!」

 俺は手を振りながら、笑顔でそう叫んだ。


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