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46話

 依頼人の云々が終わると、古泉さんと茜さんが組織云々の後処理を始めた。

 茜さんが窓から飛んでいき、古泉さんはデスクワークらしい。

 茜さんは手に入れてしまったお金の事や、コウタ君とソウタ君関係の手続きをしてくるんだとか。

 そして、古泉さんはというと……パソコンの前で、難しい顔をしていた。

「どうしたんですか?」

「ああ、真君。ちょっとコレ、見てくれるか」

 古泉さんが見せてくれた画面には、何かのリストが並んでいる。

「顧客リストらしい。……ここだ」

 ……古泉さんが指し示す先に、『本那秀介』と、あった。




「『ミリオン・ブレイバーズ』の、逃げた重役の内の1人、だよな」

「はい」

 あの人、決して明るくない組織と、何かの取引をしていた、ということか。

「これ、いつのリストでしょうか」

 取引がどの程度最近まで行われていたのかによって、酷くその結果は変わってくる。

「……多分、『ミリオン・ブレイバーズ』が崩壊した後、だろうな」

 それは。

 ……古泉さんは以前、難しそうな顔をしている。

「コウタ君とソウタ君にも、聞いてみるか。何の取引だったのかすら分からないんじゃ、手掛かりにしにくい」


 コウタ君とソウタ君にリストを見せるが、2人は首を傾げるばかりだった。

「っつってもよ、俺達の仕事って、結局カモ見つけて金巻き上げる位なもんでさ。後は組員の娯楽がてら使われるとか、コドモじゃないとできねえような事とか。……だから実際の取引とかがどうなってたのかは正直よくわかんね」

「多分、いろんなものを扱ってたんだと思うんです。仲介、っていうか、運び屋みたいなことやってたりとか。僕たちがそういう事に使われたこともあります。……だから余計に、何を取引していたかは……ごめんなさい」

 成程、それなら分からなくても仕方ないだろう。

「実際に組員たちに聞いてみるのが手っ取り早いんだろうがなぁ」

「あ、それなら問題ねえだろ。あいつら、困ったらここに来るんだろ?絶対困るからすぐ向こうから来るって」

 コウタ君の言う事は尤もだ。

「いきなり取引の仲介が消えて困るのはみんな一緒なので。……大変だろうなぁ」

 それこそ、あの組織よりも後ろ暗いような組織や、個人の取引相手、様々な相手達から猛攻を受けることになるのだろう。

 勿論、そうなってくれれば逆に分かりやすくもあるのだけれど。

「いや、しかし、『ミリオン・ブレイバーズ』なら話は別なんだ。……うん、ちょっと行ってくるか。真君、悪いがまた一筆書いてくれ」

 コウタ君とソウタ君は首を傾げている。その内説明しなきゃなあ、と思いつつ、今はとりあえず、紙にペンを走らせることを優先した。




 そうして古泉さんは、例の組織に飛んで行った。

 とりあえず、『本那秀介』の取引内容を聞いて、それ次第でどうするかを決めてくるらしい。

 上手くいけば、ここで捕まえられるかもしれない。

 ……実は、今やそんなに怨んでる訳じゃない。

 いや、『俺個人』の怨みは、もうそんなに無い、と言うべきか。

 正直、もうどうでもいいかんじですらある。

 だって、もう俺には『ポーラスター』があって、そこで……そこそこ楽しく暮らせているし、ヒーローとして活動する機会も貰っている。

 衣食住にも困らないし、正直もう、望むものは全部、手に入ってしまっているのだ。

 ……けれど、俺以外にも被害に遭った人達は居て、その人たちの殆どは……。

 そういう意味では、『ミリオン・ブレイバーズ』は倒すべき悪で、きちんと罰を受けるべきで、その対象が逃げ回っているなら、捕まえて罰さないと、とも思う。

 多分、これが正義感、というやつなんだろう。

 歪まない限り、ヒーローの最も強い武器となってくれる心だ。

 俺は、この心に対して嘘は吐きたくなかった。




 夕食の支度が終わった頃、古泉さんが戻ってきた。

 浮かない顔をしている。

「お帰り。その様子だと、あんまし結果は良くなかったの?」

「そうだな。多分、あの組織がらみで捕まえるのは難しいだろう。けど、ま、情報は手に入ったよ」

 とりあえず夕食を、という事で、全員食卓に着いて食べ始める。

 今日のメニューはコロッケだった。

 ……俺は小麦粉担当だった。

 桜さんが成型担当で、コウタ君が卵担当で、ソウタ君がパン粉担当。茜さんが揚げる担当だった。

 人数が増えたら楽でいーね、と、茜さんが笑っていたけれど、その分作る量も増えるんだよな……。

「『ミリオン・ブレイバーズ』の本那が取引していたのは、ソウルクリスタル複数と、何かの情報、だそうだ。何かの情報をどこかに渡して、その金を受け取って、ソウルクリスタルを買った、ってかんじらしいな。……情報でしこたま儲けてるらしいから、恐らく……確信は持てないが、ソウルクリスタル合成のノウハウを売ったんじゃないか、と思う」

「じゃ、これから先、大手の監視が捗るね。いきなり高レベルのヒーローが出てきたら注意しとかないと、ってことでしょ?」

 茜さんは言外に、『大手でも無きゃ、そんな大金出せないでしょ』と言っている訳だろう。

 大体、そんな情報を裏から買いたがるところがそうそうあるとも思えない。

「……でも、『ミリオン・ブレイバーズ』の事もあるから、どこも警戒、してると思う」

 そして、桜さんの言う事も尤もだった。

 大体的に報じられた『ミリオン・ブレイバーズ』のソウルクリスタル取扱い違反は、民衆の記憶に新しい。

『ミリオン・ブレイバーズ』の不正と、それに関する報道は十分に見せしめとして働いたはずだ。

 ……そうじゃなきゃ、俺達が働いた甲斐が無い。

「……逆に出てきにくい、って事になったか。とりあえず、どうせアイディオン討伐隊に参加する他のヒーロー事務所と顔を合わせる機会がそろそろあるし、その時に根回ししておく、っていうのが俺達に今できる最善だろうな」

 監視の目は多い方がいい。

 どのぐらいのヒーロー事務所が今回のアイディオン討伐に参加するのかは分からないけれど、『ヒーローの要らない世界を作る』事を一緒に目指している事務所なのだろうから、数は少なくても、きっと助けになってくれるはずだ。

「それに、積極的に監視してくれるだろうヒーロー事務所にも心当たりがあるし」

 ……そして、古泉さんが少しばかり、にやり、とした以上、きっとそこにはまだ何かあるんだろうな、と思わざるを得なかった。




 翌日。

 コウタ君とソウタ君のシルフボードの練習に付き合っていた所、古泉さんに呼ばれて事務所に戻る。

「……うわぁ」

 そして、そこでは、応接間のソファで死体の様になっている恭介さんと、机の上にある、2つのカルディア・デバイスを皆が見ていた。

「すごいよ、恭介君、前代未聞のカルディア・デバイスを28時間で作っちゃったよ」

 凄い凄い、と茜さんが興奮気味に言うと、ソファの上の死体がそっ、と、手を動かして親指を立てて見せた。

 恭介さん、寝てはいないらしい。

「じゃあ早速、変身してみてくれ」

 古泉さんに促されて、双子がそれぞれ、瓜二つのカルディア・デバイスを手に取った。

 首に着けるタイプのそれを装着して……。

「わ、凄い。力が沸いてくるみたいです」

「いや、凄いけどさ、変身って、どうすんだよ」

 成程、2人とも、変身した事が無いのか。

 カルディア・デバイスを触るのも初めてだろうし。

「体の重心を右に倒して、左腕は肘を少し曲げて、右手で顔を覆うようにしながら真っ直ぐ前を向いてカルディア・デバイスに集中して下さい」

 ……。

 双子はああでもないこうでもないとやりながらなんとかポーズを取って、無事変身した。

 ……成程、カジノのディーラーのような恰好だ。

 白いシャツに燕尾服めいた裾のベスト。そして、クロスタイ。

 カルディア・デバイスは変身時、クロスタイの中央に来るようになっているらしい。

「わ、凄い」

「うわ、うわー……」

 双子は興奮気味に自分たちの恰好を見て、飛んだり跳ねたりし始めた。

 恭介さんはそれを見て、今度こそ寝落ちしたらしい。

 お疲れ様です。

「あ、ありがとうございます!」

「あ、ありがとうな!恭介さん!」

 双子の興奮交じりのお礼は、届いたのか届いていないのか。

 全く反応しない恭介さんは茜さんに抱えられて部屋に連れていかれた。




 ……ということで、コウタ君とソウタ君の登録に俺が駆り出されることになった。

 来月から早速ヒーロー活動してもらわなくちゃいけないし、2人の身分を保証するものとしても、ヒーローの登録は急ぎたかった。


「慣れてきた?安定してきたな」

 ヒーロー協会に着く頃にはもう双子もシルフボードに慣れてきていて、飛び方もそこそこ安定していた。

「ま、俺達そこそこ小器用だからよ」

「先生がいいからですよ」

 性格からして、コウタ君の方はその内アクロバット飛行もやりたがるかもしれない。

 もうちょっと上達してきたら、アクロバット飛行も見せてみるかな。




 ヒーロー協会は、夕方と言う事もあり、空き気味な印象だった。

 さくさくと手続きを済ませて、さくさくと2人の測定も終えた。

 何かと2人は戸惑い気味ながらも、どちらかというと興味の方が勝るらしい。

 あちこちきょろきょろしながら、あれは何、これは何、と俺に聞いてくる。

「真さん!これ、どうなんだ?ヒーローって普通レベルいくつぐらいなんだ?」

「真さんは7で、茜さんが6だろ?古泉さんも7、で、恭介さんが2で、桜さんが9、ですよね」

「あ、じゃあ俺達、ちょっと低めなのか……」

 2人のレベルは、5。

 そりゃ、戦闘向きの能力でもないし、そんなもんだろう。

 異能レベルは8で、身体能力の方は5。

 しかし、能力の戦闘向きでは無い面を考慮して、このヒーローレベルになったらしい。

「……ま、どうせ俺達が直接戦う、ってよりはさ、街とかに被害を出さないバトル・フィールドづくりに使われるんだろ?」

 コウタ君はそこまで分かっているらしい。

「僕達も工夫次第では色々できそうだけれど、真さんみたいに汎用性は無いし、サポートに徹した方がいいかもしれないよね」

 ソウタ君も、そこら辺は割り切っているようだ。

 ……ちなみに、俺の異能についてはもうバラしてある。

 2人とも驚いていた。それこそ、『騙された!』とか、言われたほどだ。

 ……けれど、ここで明かしておかなかったら今後の活動に支障をきたすかもしれないし、第一、俺の異能が本当に『契約書とかを作る異能』になってしまったら大問題なので、1人でも多くの味方にちゃんと俺の異能を把握しておいてもらいたいのだ。

「ヒーローの仕事は戦うことだけじゃないし、そういう事でも2人は活躍してもらわなきゃいけないと思う。……それから、多分、近々、戦闘でも、そうなると思う」

 Lv30のアイディオンとの戦闘。

 俺にも正直、どんなものなのか全体像が見えない。

「けど、俺達の一番の強みは、一人で戦わなくてもいい、って事だと思うから」

 期待してるよ、と笑いかけると、コウタ君とソウタ君はそれぞれ笑みを浮かべて頷いてみせてくれた。


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