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44話

 相手がドロップした時、自分のカードを公開しなくていい。

 このルールはつまり、ドロップした相手に、これが『嘘』だったのか、『本当』だったのかを教える必要が無い、という事だ。

 嘘吐き放題。幻影を使うまでも無い。


 1セット目は、ワンペアが揃っただけだった。

「3枚変えてくれ」

 相手が3枚、カードを変えた。

 つまり、普通に考えれば相手はワンペア以上が揃っている、という事になる。

 ……うん。

「俺はこのままでいいかな」

 俺は手に持っていたカードを机に伏せて置くと、相手は殆ど顔に出さなかったけれど……意外そうな顔をした。

「コール」

 当然、ここで掛け金1なんて面白くない事をするつもりはない。

『ストレート以上が揃っている』俺は当然、チップを積んだ。

「レイズ」

 そのままにっこりしてやれば、相手はドロップを宣言。

 俺は手札を伏せたままディーラーであるソウタ君に返して、相手のチップ1枚をもらう。

 ……とりあえず、ジャブぐらいにはなったかな。




 相手が2枚変えた時は1枚変えてフルハウスのふりをした。

 相手が1枚も変えずにレイズしてきた時にはちょっと悪いが、幻影でフォーカードを作らせてもらった。

 ……そうしているうちに、俺が嘘を吐かなくても、幻影を使わなくても、相手が勝手に思い込んで騙されてくれるようになった。

 こうなったらドツボなんだよな。

 すっかり空気に飲まれてしまった相手を見て、つくづく俺の異能って怖いな、と思う。

 この空気を作り出す為に色々と事前にやっておかなきゃいけない訳だけれど、逆に言えばそれだけで俺は『最強』になれるのだ。

 ……あとは、相手次第、という所が大きいのが難点かな。

 今の所、一発で嘘を嘘と見破られたことは無い。

 大抵の人は、見えたものは信じてしまうし、一度空気に飲まれたらそれを疑う、なんてことはしない。

 大体、異能は1人1人違うものなのだから、相手が『嘘を吐く異能』である、と考えるより先に、他の異能を想定してしまう、というのが大きな要因になるのだろう。

 けれど、もし相手が……例えば、視覚に頼らない人だったら、俺はどうやって相手を騙せばいいのだろうか。

 言葉か。音か。

 じゃあ、その相手が聴覚すら無かったら、どうすればいい。

 ……俺の弱点は、そこだろう。

 例えば、落盤事故に巻き込まれたとする。

 その時、桜さんなら風を操って脱出するなり、降ってきたものを弾き飛ばしたりできる。

 古泉さんなら、自分にかかった運動エネルギーを反転させればいい……のかな。

 茜さんと恭介さんについてはちょっと思い当たらないけれど……俺もまた、そういう時に異能でなんとかする、という事ができない。

 俺は、知性が無い相手や、そもそもの無生物相手にはあまり有効に戦えないだろう。

 その場に騙せる相手が居なければ、俺にあるのはLv9の身体能力とシルフボードぐらいな物なのだ。

 ……そんなことが今後あるか分からないけれど、一応気を付けておこう。




 そうして、勝負は俺の圧勝で終わった。

 途中でイカサマを疑われたが、異能を疑われたわけでもないので幾らでも言い逃れはできた。

 つまり、『イカサマ』は疑っているけれど、そのカード自体は信じている、という状態だったというか……。

 疑う所を相手が間違えていたのだ。

 ……大体、ディーラーが向こう側の人間である以上、そういうイカサマをしようとしたら俺が双子と繋がっていないといけない訳で、だとしたらこの賭けに乗った相手が悪い、という事になるんじゃないだろうか……。


 10ラウンド終わって俺の勝利が決まると、カジノは霧の様に消え、元の場所に俺達は立っていた。

「……さて。じゃあ、勝負も付いたことだ。賭けたものは回収させて貰おうか」

 古泉さんが非常に嬉しそうに、負けて絶望している彼らに追い打ちを掛けた。

 つまり、彼ら自身の身柄と、お金の請求だ。なんかよく分からないデータもおまけで付いてくるが。

 古泉さんがお金の金額を検めたりしている間に、俺は紙にペンで文字を並べていく。

「……と。よし、きっちり2218万円あるな。真君、どうだ?」

「書けました」

「OK。……じゃあちょっとそっち、頼めるか」

「分かりました」

 古泉さんはこっちをやるらしいから、俺はボス相手にちょっと仕事をしてこよう。

『賭け』の異能の効果なのか、それとも本人がすっかり諦めたからか、大人しくついてきてくれるボスを連れて、別室へ行く。


 わざわざ別室へ行くのは、俺の異能の特性上仕方ないことだ。

 ……俺が『嘘を吐く異能』を持っていると知っているのは、俺を含めて、『ポーラスター』の5人、それからソウルクリスタル研究所の日比谷さんぐらいしかいない。

 そして、この場でこの場に居る数十名全員に、うっかり『契約書を作る異能』か何かだと勘違いされでもしたら……多分、本当に俺の異能は『契約書を作る異能』か何かになってしまうのだ。


「じゃあ、この書面にサインを」

 紙には、簡単に説明すると、こんなことが書いてある。

『この組織に所属する人間は全員今後真面目に働いて生活すること』

『この組織に所属する人間はコウタとソウタを除いて全員この組織に居た事を忘れること』

『コウタとソウタを除くこの組織の人間の身柄は各人に返却する』

『悪いことしようとしたらそいつは死ぬ』

『『ポーラスター』の不利益になることはできない』

『困ったことがあったら『ポーラスター』に来なさい』

 ……こんなかんじの書面なもので、ぽかんとされた。

「俺も異能持ちなので、この書面の内容は絶対です」

 さ、どうぞ、と、ペンを渡すが、あまりの内容のせいか、中々サインしようとしない。

「この内容で文句があるなら全員物理的に『忘れて』貰いますよ」

 メモ用紙に『氷』と走り書きして机の上に叩きつけて氷の幻影を浮かべると、慌ててサインしてくれた。

 ……阿漕さんかあ。ぴったりな名前だなあ。

「これでいいのか」

「構いません。本名じゃなかったとしても異能は有効なので」

 にこにこしながら俺の名前も書いて、書き終ると同時に文字を光らせる。

「試そうとか、しない事です。あなたの部下を嗾けて悪いことさせようとしたら、それが『悪いこと』ですからね?死にますからね?いきなり心臓発作かなにかが起きますからね?」

「わ、分かった……」


 釘を刺しておいてから、古泉さん達の居る所へ戻る。

「終わったか」

 古泉さんに笑顔で答えると、古泉さんも爽やかな笑顔を浮かべてよし、と頷いた。

 こっちはこっちで目的のものも見つかったんだろう。

「それでは今後、真面目に働くにあたって困ったことが何かあったらこちらへ」

 古泉さんは阿漕さんに名刺を渡して、コウタ君とソウタ君を一気に担ぎ上げた。

「ひゃ」

「うわ」

 突然の事に驚く2人を見ても、そこに居る人は誰も古泉さんを止めようとはしない。

 もう説明済みらしい。

「それでは、この2人の異能持ちはこちらで頂いていきます。それではこれから心を入れ替えて真面目に頑張ってください。では」

 古泉さんが悠々と引き上げていくのを俺も追いかけることにした。




「ただいまー」

「お帰りー。いちお、そこそこの収穫はあったよ。……ま、桜と2人で半日頑張った割には少ないけどね」

 事務所に戻ると、もう桜さんと茜さんが戻って来ていた。

 机の上には幾つかのソウルクリスタルがある。

「恭介君は」

「まだっぽい。さっき様子見てきたけど、フィールド系2つ連動させるとか無理ゲー!って喚いてた」

 フィールド系の異能は珍しい上に、双子2人で1つの異能、となると、ますます厄介なのだろう。

 そこらへんの事は俺にはよく分からないけれど、とりあえず大変そうだという事だけは分かった。

「……だそうだ。明日か明後日からになるな、コウタ君とソウタ君の訓練は」

「訓練、って……」

 古泉さんの言葉に、双子は困惑している。

 そんな双子に、古泉さんは笑顔で答えた。

「事後承諾みたいになって申し訳ないが、正式にうちの事務所で働くヒーローにならないか?」


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