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42話

 卵は出汁巻き卵ではなくかきたま汁だった。

 ……本当は出汁巻き卵にする予定だったらしいんだけれど、2人増えてしまったから断念したらしい。

 なんとなく居心地悪そうにしているコウタ君とソウタ君は、古泉さんの向かい辺りにくっつき合うようにして朝食を食べている。

「さて、今日の予定を確認するぞ。茜は出勤しながらついでに見つけたらアイディオン殴り倒してから行け。桜ちゃんは無理のない範囲でアイディオンを見つけて倒してくれると嬉しい」

 茜さんも腹を決めたのか諦めたのか、ハードなスケジュールだろうに、はいよ、と明るく返事をする。

 桜さんはいつも通り、静かに頷くだけだ。

「恭介君は朝食後すぐ、コウタ君とソウタ君のカルディア・デバイスの制作を始めてくれ。俺と真君はコウタ君とソウタ君の診断書を取って、そのままちょっと1組織潰してすぐ帰って来よう」

 恭介さんは何かぼそぼそ言いつつ頷く。

 コウタ君とソウタ君は困惑しながらも、『契約書』の事を思い出したのか、頷いてみせた。

「……ということで、真君は道中で作戦会議をしよう。……今回の殴り込みのメインは君になるだろう。すまないが何とかしてくれ」

 昨日の『契約書』もそうだが、古泉さんは中々に突然無茶な事を言う人らしかった。

 けれど、それはつまり、認められている、ということでもあるのだろう。

 俺の事をよく分かってくれている、ということでもある。

 それは少し腹立たしくもあるけれど、嬉しいことでもあった。




 茜さんと桜さんが窓から飛び出していくと同時に、コウタ君とソウタ君は戸惑いながら恭介さんに着いて実験室に入っていき、今、異能検査されている所だ。

 多分、異能検査しながら装備について色々聞いているんじゃないだろうか。

 ……当然、2人よりも2人の戦い方について、俺達の方が想定が進んでいるんだから、恭介さんもとい古泉さんの意見が反映されることは間違い無いけれど、それでも完全に俺達の意見だけで決めたくない、と言うのは俺だけの意見じゃないだろう。

「……さて、細部は本当に道中で、という事になるだろうが、今回の作戦だな。……今回、真君にはコウタ君とソウタ君と戦ってもらおうと思ってる」

「コウタ君とソウタ君に、組織を賭けた賭けをしてもらって、俺が勝てばいい、ってことですか」

「簡単に言えばそうなる」

 成程、コウタ君とソウタ君の異能は、『賭けの結果を強制する能力』でもある。

 それを使えば最悪俺とコウタ君とソウタ君だけでも組織を潰してしまえる、ということか。

「ただ、問題はコウタ君とソウタ君が果たして、そんなものを賭けられるか、という事なんだ」

 賭けたはいいけれどそれを実行できない、となったら、2人の首を絞めかねない。

 組織と俺との『賭け』との板挟みになって、2人が余計に大変な思いをすることは避けたいと思う。

「コウタ君とソウタ君の異能は……2人がディーラーになるしかないんだろうか。もし、2人以外の人が『賭けをする』なら、そこの問題は如何にして組織のボスを引きずり出すか、という点だけになるが」

 それは2人に聞いてみないとなんとも言えないが……もし、そうでなかったとしても……。

「最悪、一芝居打てば何とかなるかもしれません」

 正直、俺の異能と双子の異能は、共闘する上で相性が良すぎる。

 2人がどの程度組織に異能について明かしているのかにもよるけれど……そこに『嘘』が入り込む余地があるなら、俺の三文芝居でも十分、何とかなりそうな気はする。




 細部を古泉さんと話し始めた辺りで双子が部屋から出てきたので、俺と古泉さんが1人ずつ抱えて窓から飛び出す。

 空中に飛び出してからたっぷり5秒程度、2人は驚いたのか固まり……それから、文句が飛び出て来た。

「お、おい!もうちょっと……その、なんか無いのかよ!」

「すまんなぁ、多分これが一番速いんだ。君達が滅茶苦茶に早く移動できるとか、空を飛べるとかなら話は別なんだが」

「ぼ、僕達このまま……抱っこされっぱなし、なんですか?」

「病院まで我慢してもらえるかな、ごめんね」

 俵の様に担ぐのも可哀相だし、正面から抱えると前が見えないし、とりあえず横抱きにしてしまったけれど……うん、よく考えたら、これも相当酷いな。ごめん。


 双子は少し文句を言った(文句の9割はコウタ君の方だったけど)ものの、すぐに黙って、作戦会議をさせてくれた。

「君達の異能では『ディーラー』を君達がやる必要があるのかな?」

「あ、つまり、俺かソウタが『賭け』の片側にならなきゃいけないか、って事?……多分『客同士』でもできるんじゃねーかな。俺とソウタの異能って結局は、『カジノを生み出す』って事なんだよな。そこで客が楽しんでくれるならそれでもいい気がする。ソウ、どう思う?」

「うん、僕もそう思う。やったことは無いけれど……やってくれる人が居るならディーラーが出しゃばらなくてもいいかもしれない。その代わり、制約がまた新たに付くかもしれないけれど……」

 成程、出たとこ勝負、か。

 不安要素ではあるけれど、その程度ならまだ俺の『嘘』でカバーできる。

「……あー、うん、話してるの聞こえたけどよ、つまりあれだろ?ボスとそっちのどっちかが賭ける、っていう話だろ?それ、ボスを引きずり出すまでの手段はそっちにある、って考えていいんだよな?」

「それは大丈夫。俺が何とでもするから」

 自信を持って答えると、コウタ君は、へえ、と言うように目を輝かせた。

「また変な契約、するのか?でも、それにしたってそれに持って行くまでの手段が足りないよな?……まだ何かあるんだろ」

 察しがいいというか、この程度察せないと賭け事なんてできないのかもしれないけれど。

「まあ、多分大丈夫だよ。まだ手段は内緒だけど、そこは安心してくれていい」

 もう俺の『嘘』は始まっている。

 今はとにかく、この双子に俺の嘘を信じさせておくことだ。

「ま、真君なら大丈夫さ。うちでは一番新人だが、実力は十分にある。……病院が見えてきたぞ。下降するからしっかり掴まっておけよー」

「へ?……うわあああああああああ!」

 古泉さんは……わざと、だろうか。

 重力を完全に元に戻したらしく、コウタ君を抱えたまま自由落下していった。

「こ、コウが……」

 ソウタ君が俺の腕の中で何とも言えない顔をしているけれど、そこに不安や恐怖は無い。

 古泉さんを信用してくれているんだろう。

「俺は古泉さん程乱暴じゃないけど、捕まってて」

 はい、と答えて、ソウタ君は俺の肩の辺りを掴んだ。

 ……俺も、そこそこ信用されているようだ。

 ……やっぱ、ご飯、かなぁ。




 双子を病院に放り込んで、俺達は待合室で細部を詰めていくことにした。

 最悪、俺のアドリブになるし……なんとなく、そうなる可能性は高そうだけれど、それでも色々なパターンを考えておくに越したことはない。

「やっぱり、先に2人には帰ってもらった方がいいだろうな。じゃないと、あっちのボスだって2人に勝負を預けようとはしないだろうし」

「それから古泉さんと俺で殴り込みに入る、っていう所までは固定した方がいいですよね、きっと」

 不穏な会話になる為、待合室の、できるだけ隅っこで話している。

 勿論、盗み聞きには細心の注意を払っているから、そういう心配も無い。

「そこから、いかにボスを引きずり出すか、だよなぁ。……そもそも、その場に居るのかな」

「あ、いっそ、古泉さんが『ボス』を引きずりながら登場すればいいんじゃないですか?『エレメンタル・レイド』の時みたいに」

「あー……うん、そうだな。うん、それでいこう。……俺、悪役っぽいよなぁ、それ……」

 ……そんな話をしていると、双子がそれぞれ紙を持って戻ってきた。

「しんだんしょ、貰ってきたぞ。けど、こんなもんどうすんだよ」

「使うかもしれないから念の為、ってだけだよ。ま、使わなくて済むに越したことはないんだがなぁ」

 2人分の診断書を俺のリュックサックに入れて……また、俺達はそれぞれ双子を抱えて空を飛ぶことになった。

 ……双子は嫌がったけれど、しょうがない。

 飛べないヒーローは運ばれる運命にあるのだ。




「よし。じゃ、手筈通りに頼む。俺達は適当に様子を見ながら出ていくから」

「わ、分かった。……けど、大丈夫なのかよ、こんな金……」

 コウタ君の手には、分厚い封筒が握られている。

 そこにはお札がその厚み分、ぎっしりと入っているのだ。

 ……俺がリュックから出したもの、だが……当然、それは俺のリュックの中で生まれた。

 つまり、幻影。嘘である。

「も、もし失敗したら……」

 大金を手にして緊張気味の双子に、古泉さんが目線を合わせて言う。

「大丈夫だ。君達はきっとやり遂げられるし……もし失敗しても、俺も、真君も居る。心配するな。君達が思っている以上に、俺達は強いし、君達も強いぞ?」

 そして、古泉さんは真剣な表情で続ける。

「もし、もう駄目だと思ったら逃げていい。俺達を置いて行ってもいい。君達は君達自身の事を第一に考えて動きなさい」

 そう言って、古泉さんは内ポケットから、おそらくポケットマネーだろう、折り皺のついたお札を出してソウタ君に渡した。

「すまんな、今はこれぐらいしか出せないが……ソウタ君の給料だ。もし逃げることになったらその費用にしてくれ」

 2人は、分厚い封筒と折り皺の付いたお札の意味の違いが分かったらしい。

「なんで……なんで、俺達にこんな事、するんだ。飯食わせて、寝床与えて……カルディア・デバイスも作ろうとしてるし……」

「なんで、あなた達は……僕達にこんなに親切にしてくれるんですか?」

 勿論、フィールド系の異能使いが欲しい、という理由もある。

 けれど多分、俺達の理由はそれだけじゃなくて……多分、多分、もっと根本にある、はっきりした理由があるのだ。

「そりゃ、俺達はヒーローだからなぁ」

 俺達は、ヒーローなのだ。

 職業としてだけでは無く、その心もそうでありたい。


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