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39話

 2人の少年を注意深く観察し続ける。

 やはり、よく似ている。

 只、唯一にして最大の違いはその表情、雰囲気……そういうものだ。

 古泉さん達に話しかけている方の少年は飄々として、強気な態度でいるようだ。

 しかし、建物の上でそれを見ている少年はどこか不安げで、気弱そうな印象を受ける。


 古泉さん達の方に現れた少年は古泉さんに何か話しかけているらしかった。

 ……依頼者の話から考えるに、多分、賭けを持ちかけてるんだろう。

 何を話しているのかは聞こえないが、古泉さんが何か言い、茜さんが古泉さんの腕に抱き付き、何か言い……そして、少年がにやり、と笑った所までは、見えた。

 直後。

 ……古泉さんと少年の姿が、消えてしまったのだった。


 後には、茜さんだけが残されて、困惑した様子で辺りを見回している。

 俺も出ていくべきか、と思ったが、依頼者は普通に生きて帰ってきている。

 依頼者の話を信じるならば、少年の異能は賭け事に関する事で……人に害を成すものとは思えない。

 それに、少年自身も消えている以上、古泉さんだけがリスクを背負わされているとも思いにくいし……第一、古泉さんがそうそう簡単に危ない目に遭うとも思えない。

 古泉さんが大丈夫だと判断した上でのこの結果なのだろうから、俺は俺の仕事をするべきだろう。

 ……とりあえず、隣の建物の上で、真剣に古泉さんと少年の消えた辺りを見えている少年。

 彼への注意を怠らないようにしよう。

 彼が何をしても、いつでも対処できるようにしておこう。




 そう意気込んだ矢先、古泉さんと少年が現れた。

 ほんの1分程度だっただろうか。それとも、それよりも短かったかもしれない。

 しかし、その様子は1分前とは大きく変わっている。

 ……少年は悔しそうに古泉さんを睨み、古泉さんは余裕たっぷりの笑顔でそれを眺めていたが、何か少し会話した後すぐ、茜さんに頬にキスされてそのまま昏倒した。

「コウッ!」

 そして、それを見た隣の建物の方の少年が悲鳴に近い声を上げ、古泉さんと茜さんに視線を向けられ、はっとしたように逃げ出そうとする。

 その足が建物の屋上を蹴ったその瞬間に、俺はシルフボードを発進させて回り込んだ。

 突如現れた俺に面食らったらしい少年はその場でよろめき、しかし、咄嗟に転がるようにして方向を変えて逃げようとする。

 ……当然、逃がす訳が無いんだけれど。

 少年はそんなに足が速い訳でも無かった。

 少なくとも、シルフボードに乗った俺が簡単に捕まえてしまえる程度には。

 ……担ぎ上げた時、やや軽すぎるのが気になった。




「う、くそ、離せ!」

 少年の力はそんなに強くなかったので、暴れられても俺の力で押さえこめた。

 一応、俺はちゃんとしたカルディア・デバイスを装備したヒーローだ。

 この少年も異能持ちだったとして、俺にそうそう勝てると思わないでほしい。

「おーおー真クン、お疲れ様―」

 そして、茜さんと古泉さんも、もう1人の昏倒した少年を抱えて俺の方へ近づいてくる所だった。

「ね、ショーネン。一応聞いとくけどさ、これ、君のお兄ちゃんか弟かなんか?それともドッペルゲンガー?」

「……答える義理は、無い、です」

 茜さんが尋ねると、少年は追い詰められた小動物のような目でそう返す。

「ふーん。あっそ。ま、いいや」

 しかし、あっさりと茜さんはそう言って、あっけらかん、と笑ってみせた。

「とりあえず事情もありそうだしさ、うちおいでよ。いいよね、叔父さん?」

「ま、そうしなきゃいけないだろうな。聞きたいこともあるし」

 気の抜けた会話に戸惑った少年は、しかし、次の瞬間茜さんによって寝かされてしまった。

「じゃ、帰ろっか。流石に三つ子、って事は無いでしょ」

 真クン、そっち持って帰ってね、という、なんとも言えない茜さんの言葉にとりあえず頷き、俺の腕の中で寝てしまった少年を抱え直して、俺はシルフボードを発進させた。




「おかえ……何故、2人も」

「いやー、ただいまただいま。ね。びっくりだよね。まさかの双子っぽいよ、これ」

 帰ったら恭介さんが慄いた。

 依頼者は『相手は双子』なんて言ってなかったし、確かに驚きはしたけれど。

 恭介さんはそそくさ、と部屋に戻っていった。

 ……単純に、他人率が高くなる、っていう意味での慄きだったんだろうか。


 昏倒したまま目を覚まさない2人は、とりあえず多少服装を楽にさせてソファに寝かせた。

 彼らを横目に、古泉さんからあった事を説明してもらう。

「真君も見ていたと思うが、最初は彼が声を掛けてきた。『そこのお姉さん、綺麗ですね』から入ったな。その後、茜とちょっと話した後、俺に賭けを持ち掛けてきた。……うん、賭けは強制じゃなかったな。異能を使われたかんじは無かった」

「私も感じなかったかな。うん、そんでさ、そこのショーネンが掛け金5万、って出してきたら、ゲームは叔父さんが決める、っていうかわりに叔父さん、賭け金50万に吊り上げたんだよね」

 ……あれ。『ポーラスター』って、今、火の車……。

「で、負けたらお互い身柄を拘束されてでも働いて返す、って事にしてな」

「それ、古泉さんが下手したらとんでもないことになってたんじゃ……?」

「だろうなぁ。俺、手持ち3千円だったし……」

 やっぱりこの人、色々な意味でとんでもない。

「ま、自信のあるゲームを選ばせてもらったからな。勝つ自信はあった」

「ちなみに、何のゲームを?」

「碁」

 ……それ、賭け事に向くゲームじゃない……いや、うーん、相手がそれで納得していたならいいのか……うーん?

「ちなみに、ゲームの内容聞かれたときには『ほら、あれだ、えーと、ボードの上に白と黒の石並べるやつ』って言った。それに少年も了承したからな」

「叔父さんってナチュラルに最低だよね。私叔父さんのそういう所好きだよ」

 成程、相手はオセロだと思った訳か……。

 この年の少年だったら、碁のルールすら知らなくてもおかしくないんだよな……。

「……それで、いざゲームスタート、という事で……とりあえず、近くの碁会所行くか、と思ったら、この少年がそこで異能を発動したらしい。気づいたら、この少年と2人で、どこかのカジノみたいな場所に居た」

 古泉さんと少年が消えた時があったけれど、それはそういうことだったらしい。

 ……瞬間移動でもしたんだろうか?

 いや、そういうかんじでも無いよな……。

「そこで……ま、ゲームについて一悶着あったが……少年の意思で無効にできないらしくてね。そのまま一局打って圧勝を収めたら、その瞬間、元の場所に戻ってた。……精々1分位だったらしいね、俺と少年が居なくなってたのは。でも、俺とこの少年は普通に1時間ちょっと対局していたから……幻覚の類じゃなくて、珍しいが……フィールド系の異能、なんだろうな」


 フィールド系の異能、というものは、極めて珍しいタイプの異能だ。

 自分や相手に働きかける……茜さんや恭介さんや古泉さんのような、直接的な能力では無く、桜さんのように、自然に働きかけたりするタイプでも無く。

『フィールド』を生み出して、そこで戦うタイプの異能なのだという。

 そこにはある程度の制約が科せられることが普通で、その『フィールド』では、その『フィールド』のルールに従って戦う事になるのだ。

 発動に必要な条件が重い事が普通だが、その分強力な異能だと言える。

 相手を自分の土俵で戦わせられる、となれば、相当有利だろうから。

 今回のケースだと、『カジノみたいな場所』のフィールドで、『賭け』で戦う、という条件だったのだろう。

 そして恐らくは『賭けの条件』がルールとして組み込まれて、『賭けを放棄しない』といったかんじの制約が科せられていたのではないだろうか。

 ……もし掛けたものがお金では無く、命とかだったら……恐らく、本当にそうなっていたのだろう。




「で、どーすんのこれ。起こすにしてもさ、このまま起こしちゃって大丈夫なの?縛り上げとく?」

「下手にそんなことしたら間違いなく警戒されるしなあ……異能の発動条件も良く分からないし……いや、多分、相手が賭けを了承した時点で、なんだろうけど、はっきりしないしなぁ……」

 そして、俺達は2人の少年を目の前に、頭を悩ませることになったのだった。

「一応、賭けの代償をきっちり払ってくれるなら、働いて返してもらえる訳だから多分、この少年を拘束する事は出来るんじゃないかと思う。そういう異能なら、だが。ただ、こっちの……もう1人の方は、なぁ……」

 一応連れてきてしまったが、実際に古泉さんと賭けをしたのは1人で、もう1人は特に何もしていない。

 一応仲間なんだろうな、位の証拠しかない。

 ……いや、まあ、他人の空似、というには無理がある位似てるけど。

「どうにか、この少年たちの事情を聞いたうえで協議できればいいんだがなぁ」

 依頼人から依頼を受けている手前、俺達はこの少年をこてんぱんにした上で返金・返品させなくてはいけない訳だが……。

「どう見ても、まともな環境じゃないじゃん、この子達が居るのってさ。……なんか、事情ありそうだよね」

 ヒーローとしての性なのか、茜さんも古泉さんも……俺より幼い少年、それも、恐らくは栄養失調気味であろう様子の彼らを見て、そして、寛げた襟の内側に打撲傷が見えた事もあり……酷いことをする気にはなれないらしかった。


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