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38話

 善は急げ、という事で、古泉さんはその日の夕方の内に茜さんを連れて出ていった。

 ……そして、その後ろを俺が追跡する。

 戦力としては古泉さんと茜さんで十分なのだが、万一、余程変な異能が相手だった場合、巻き込まれた2人が手も足も出ない、なんてことも考えられる。

 その為、俺が2人を追跡することになったのだった。

 ……何故桜さんじゃないか、といったら、『繁華街に居たら職質まっしぐらだから』。

 俺なら、恰好と態度に気をつければ夜の繁華街を歩いていてもそこまでおかしくない……と思うし、職質されたとしてもさらっと躱す位の事は出来る。

 けど、桜さんは……儚げな美少女が夜の繁華街をふらふら歩いていたら、誰でも職質する。

 職質ならまだいいが、変なのに絡まれたら追跡任務事態に支障が出る。

 ……ということで、最終的に機動力も決め手となり、俺が追跡者となることになったのだった。




「ほいじゃ、行ってくるよん」

 最初から2人でいたらおかしい、という事で、茜さんと古泉さんは繁華街で合流することにしたらしい。

 ……茜さんは今日も別人に化けている。

 強くウェーブのかかった明るい茶色のロングヘアに、そういうお店の女性が着ていそうなワンピースドレス。

 駄目押しの派手な化粧とアクセサリーで、もう完璧に別人になっていた。

 この間の『エレメンタル・レイド』相手にした時の変装も凄かったし、『180変化ぐらいする』のは本当らしい。

「……じゃ、ま、真君、頼んだよ」

 古泉さんはいつも通り、スーツを品よく着こなしている。

 ……これ、本人に言うと悪い気がするから言わないけれど、繁華街を歩く人にしては少々品が良すぎる。

 けど、うん、まあ、茜さんが隣に居ればプラマイプラス位にはなりそうな気もする。




 俺は古泉さんの後を追って、のんびりシルフボードで流しながら飛ぶ。

 古泉さんは件のスーツ姿でいつも通り上に落ちたり下に落ちたりしながら飛んでいく。

 そうして町の方に出てきて、そのまま、今まで行ったことの無いエリアの方へ飛んでいく。

 ネオンと街灯が明るく、そしてその明るさと賑わいの割に、妙な昏さを感じるエリア。つまり、繁華街、である。




 古泉さんの後をそれとなくのんびり追ううちに、茜さんが古泉さんと合流した。

 ……茜さんが古泉さんの腕に抱き付いて、そのまま寄り添うように歩き出す。

 茜さんの演技力は凄いな。……完全にそっちのお店の人にしか見えない!

 声こそ聞こえないものの、そこそこ楽しそうに茜さんが何か古泉さんに話しかけて、古泉さんが営業用の笑顔を浮かべながらそれに応える、というようなかんじらしい。

 傍から見ていて、全く違和感なく、街に溶け込んでいる。

 ……いや、若干、浮いてはいる。

 仕方ない。茜さんは派手な美人だし、古泉さんは品のいい美形だ。

 派手さはこの町に溶け込んで違和感にならないし、品の良さは……不思議な事に、この町では胡散臭さに変わるらしい。よって、『妖しく』はあるけれど、『怪しく』はない。

 つまり……後に残るのは、美男美女、と。それだけなのだ。

 人目を引く。とにかく、人目を引く。

 茜さんが居るからか、そういう女性たちは古泉さんに声を掛けない。

 古泉さんが居るから、そういう男性たちは茜さんに声を掛けない。

 声こそ掛けないものの、その分か、視線は存分に注いでいるようだった。

 その視線を古泉さんは無いものとしているらしく、逆に、茜さんは存分に感じて、しかしそれを楽しんでいるらしかった。

 ……成程。大物に見える。

 逆に言うと、金蔓には見えないっ!


 古泉さん達はある程度大通りを歩くと、途中で脇道に逸れた。

『襲って下さい』という事だろう。

 古泉さん達が入っていった路地裏は狭く暗く、その先に店があるようなかんじでも無い。

 俺もそっちについて行くと流石に怪しいので、俺も何気なく別の路地裏に入り、そこからシルフボードで上昇して、近くの建物の上から見ることにした。

 うまく物陰に隠れるようにしながら高度を上げて、建物の上に着陸する。

 建物の上には巧い具合に給水タンクらしいものがあり、そこに隠れれば大通りからの視線は遮れそうだ。

 そこに陣取りながら、古泉さん達の観察を続ける。

 ……茜さんが酔ったふりをしているらしい。

 ストーリーとしては、その茜さんの休憩の為に、少し人通りの無い静かな所に入った、という所だろうか。

 ……あるいは、もっとアダルティな理由づけかもしれないけれど、流石にそれは俺も知らない。

 なんとなくいたたまれなくなって、視線を外して大通りの方を見る。

 ……ふと、視線が大通りの手前に留まった。

 俺の居る建物の、1つ隣、つまり、大通り側。

 その建物の上に居る人影が見えた。

 念の為、その人から見えないように、給水タンクに隠れながらそちらの様子を窺う。

 ……俺より年下に見える。

 白いシャツに、クロスタイ。

 ……これは……多分、ターゲット、だろう。


 少年がしている恰好は、この年でするには少々不自然な格好だ。

 フォーマルすぎる、というか。

 何処かの店の制服なのかな、とも思ったけれど、そもそもこの年でここら辺の店に雇ってもらえるわけがない……いや、そういう違法スレスレの店が無いとは言い切れないけれど……。

 しかし、言える事があるとすれば、どこかの店の従業員だったとしても、こんな建物の上で、人の視線から隠れるようにしながら古泉さん達の方を見ている、となれば……怪しい、という事だろうか。


 古泉さん達は、順調に裏道に入っていく。

 そちらも見ながら、隣の建物の上も窺うと、少年は……携帯端末で、誰かに連絡しているらしかった。

 声は聞こえない。近づけば聞こえるかもしれないけれど、今はそのリスクを冒すべきじゃないと判断する。

 ……まずは、古泉さんに連絡だ。

 端末を取り出して、コールすると案外すぐに古泉さんが出た。

「もしもし、古泉さん。今、古泉さん達から10時の方向の建物の上に居るんですけれど、俺の隣……8時ぐらいの方向の建物の上に、ターゲットっぽい少年が……」

 少年に聞こえないように、小声で端末に向かって話す。

 俺の視界の先で、古泉さんがさりげなく、茜さんに構うような仕草と共に、ちらり、とこちらを見た。

「確認した。……そっちは泳がせておいてくれ。来るなら来るだろう。大丈夫だ。また何かあったら連絡してくれ」

 聞いているかもしれない誰かに対しての警戒なのか、古泉さんはいつもと少しばかり違う口調と声色でそう言うと、電話を切った。

 ……ちら、と、隣の建物の少年を見ると、少年はどこか不安げに古泉さん達の方を見ていた。

 その様子は年相応か、それよりも幼い位に見える。

 とてもじゃないが、賭け事を持ちかけるようには見えなかった。

 ……しかし、恐らく彼が依頼者に賭け事を持ちかけて、依頼者から金品を巻き上げたのだろう。

 そうでなかったとしても、こんな所から古泉さん達を見ている時点で怪しいことは確かだ。注意しておくに越したことはないだろう。




 そのまま、路地裏で古泉さんが茜さんといちゃつき始める、という名演技を始め……そのまま3分ほど、経過しただろうか。

 少年は、端末に向かって何かを訴えかけるように喋っているようだが、内容は分からない。ただ、その表情は不安げで、やはり、依頼者から聞いていた印象からはかけ離れているように感じた。

 そのまま少年の観察を続けていると、少年は通話相手からいきなり切られたらしい。

 不安げな顔のまま、端末を耳から離して、不安げに眺める。

 そして、顔を上げて、今度は古泉さん達の方を。

 ……目を疑った。

 古泉さんと茜さんの隣に、いつの間にか少年が居て、何事か、古泉さんに言っているようだった。

 服装はここからだとよく見えないが……恐らく、白いシャツに、黒のクロスタイ。

 何より、俺がさっきまで観察していた少年と姿かたちが良く似ている。

 似すぎている、と言ってもいい。

 思わず、さっきまで観察していた少年を見ると、そこに少年は依然として居て。

 ……分身した?

 いや、違うか。賭け事を強制するような異能だったら、分身までできるとは考えにくい。いや、分からないけれど。

 分からないけれど……双子、とか、兄弟、とか。

 そういう回答の方が、説得力があるだろうか。


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