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33話

 俺は、『ミリオン・ブレイバーズ』のソウルクリスタル取扱い違反と、ヒーローの卵の使い捨ての被害者だ。

 ただし、俺が証拠になれない理由は2つあった。

 1つ目は、その証拠がもう無い、という事。

 使い捨てられた事を証明するものはもう無い。

 俺自身の証言か、『ポーラスター』の人の証言しか証拠になるものは無いのだ。

 ましてや、ソウルクリスタル取扱い違反に関しては、その証拠自体がもう消えてしまっている。

 俺のソウルクリスタルは多分……俺自身の思い込みによって、元に戻ってしまっている。

 一度破壊されたソウルクリスタルが戻ることは無い、という常識がある以上、バラバラにされた証拠として俺のソウルクリスタルを使う事には無理があった。

 そして2つ目は……俺が告発したら、間違いなく『ミリオン・ブレイバーズ』は俺を口封じに来るだろうという事。

 そして、その時に『ポーラスター』の戦力では対抗できないだろう、という事だった。

「もし、告発した真君が『ミリオン・ブレイバーズ』に狙われても、『エレメンタル・レイド』が私達の味方をしてくれるなら……勝機は十分、あると思う。他にも味方が居るなら、もっと」

 しかし、いくら裏切り者がいたとしても……味方が居るなら、戦力の増強だけじゃない、敵の減力にもなる。

 少なくとも、最大の戦力だと危惧していた『エレメンタル・レイド』はこちらの味方……だと思う。

「でも、証拠が無いじゃん。もっかい真クンのソウルクリスタル、ぶっ壊すん?」

「うん」

 あっさりと頷いた桜さんに、茜さんが驚く。

「え、ちょ、今度こそ戻らないかもなのに?」

「証拠を見せなきゃならない人って、意外と少ないと思う。だから、ソウルクリスタルを調べなきゃいけない人にだけ、『嘘』を吐けばいい。……私達と、日比谷所長、とで、5人。5人までなら、嘘を吐いてもそれが『ホント』にならない」

 桜さんの言っていることには、当然リスクがあるから……もっと、俺のソウルクリスタルが治った、という事実を伝えておく人を増やしておくべきかもしれない。

「それに、真君が『ミリオン・ブレイバーズ』に見殺しにされた証拠なら……もしかしたら、ある、かも」


 一旦部屋を出た桜さんが、何かを持って戻ってきた。

「これ」

 ……それは、ど真ん中にナイフが突き刺さって破損している……連絡用に、と渡されていたあの端末。

「……ぶっ壊れてるじゃないですか、これ」

「恭介さん、直せる?」

 桜さんは、恭介さんになんとも滅茶苦茶な事を言う。

 流石の恭介さんも嫌そうな顔をしながら、それでも端末を眺め始めた。

「いや、流石にちょっとこれは……どう見てもメモリ……あ……ん?……あー……」

 そして、端末を持って、ぶつぶつぼそぼそ言いながら部屋を出ていった。

「あの様子だと直りそうだね。或いは、メモリだけ出して情報抜き取れるかも」

 まさかあのぶつぶつぼそぼそを聞き取れたとは思えないから、茜さんはこういう状態の恭介さんを見て、どういう意味か判別する事が出来るんだろう。

 付き合いが長い、って事なんだろうか。

「でも、メモリが出せても、多分碌な情報は入ってませんよ」

「え、音声情報とか、入ってるもんじゃないの?あの端末でやり取りしたんでしょ?」

「いえ、結局、あの端末では一度も」

 俺の言葉に、茜さんと古泉さんが渋い顔をした。

「まあ、最初から使い捨てる気ならそうするか……」

「いや、でもほら、真クンの意識が飛んでから確認の為に声かけたりしてる可能性はあるしさ、端末自体も一応、証拠としては使えるんじゃない?」

 ……他にも情報がある可能性はあるし、前向きにいこう。




 夕食後、恭介さんが端末を持ってやってきた。

「メモリから情報、抜けました。殆ど何も入ってなかったんですけど、録音データ分析したらマイク入れっぱで話してたっぽいのが少し入ってました。それから……真さんが死亡した記録と、その後に……ちょっと、喋ってる音声が」

 証拠にはなりそうです、という恭介さんの言葉より、『俺が死亡した記録』というのが気になって、古泉さんに聞いてみた。

「死亡した……か。その後に音声が入っていた事を考えると、機械の破壊が原因じゃなさそうだしな……その前に攻撃を受けて、それで端末がいかれたのか……真君は一回ぐらいどこかで、仮死状態になっていたのかもしれないな」

「……心臓が止まったとか?」

「ありえますよね、その位なら」

 あ、ありえるよね、程度の話なのか。

 あっさりしている茜さんと恭介さんを見る限り、あまり不安がらなくても大丈夫そうだ。良かった。

「とりあえず、これでヒーローの卵使い捨ての方に関しては証拠ができた、と言えます。あとはソウルクリスタル取扱い違反の方ですけど、こっちはどうしますか?」

「……やるとしても、『エレメンタル・レイド』達のソウルクリスタルを治してからの方が訴えやすいけれど、そうすると戦力減でもあるんだよなぁ……」

 古泉さんも頭を悩ませているが、結局はそういうことだ。

「……いざとなったら、私だけでヒーロー3人は押さえてみせる」

「うん、ま、桜ちゃんだけに仕事させるつもりはないよ。俺も……2人は確実に、いけるな」

「じゃ、私も2人は何とかしてみせよーじゃないのよ、っと……これで7人か。うん。じゃ、いけるいける」

 流石に、半分が裏切った、なんてことはないだろう。

 俺も戦えない訳じゃないし、その程度ならなんとかなると思う。

「……じゃあ、ヒーロー達のソウルクリスタルを治すのが最優先、その後で告発、って流れだな。とりあえずは『エレメンタル・レイド』達と接触、かぁ……いけるかな」

 古泉さんは電話に向かっていき、『エレメンタル・レイド』と話し始めた。


 ……そして、数分で電話は終わり、古泉さんは笑顔で言った。

「ソウルクリスタルを預けてくれることになった。明日の朝4時に取りに行く手筈だ」

 ……その時に一勝負ある可能性は大いにあるよな……。




 その日は早く寝て、翌朝……未明、3時。

「おはよー」

 眠たげな茜さんと恭介さんが食堂に入ってきて全員揃い、簡単に朝食を摂った。

 その後、各自身支度……変身して、応接間に集まる。

「分かってると思うが、今回は戦闘になるとは限らない。ならないならならないに越したことはない。しかし、万一そうなってしまった場合はとにかく無傷でいることを最優先するように。敗走じゃない。戦略的撤退だ。そしてそれはこの後の勝利への布石。俺達の目的は戦って勝つことじゃない」

 恭介さんを除く俺達はこれから、『ミリオン・ブレイバーズ』のオフィスに向かい、そこで『エレメンタル・レイド』からヒーロー達のカルディア・デバイスを受け取って、ソウルクリスタル研究所に逃げる。

 ソウルクリスタル研究所では恭介さんがスタンバイしている予定だ。

 そこで徹夜明けの所員相手に嘘を重ねればいい。

 それができなくても、嘘を吐く相手はいくらでもいるだろう。

 古泉さんの言葉にうなずいて、俺達は窓から飛び出した。(恭介さんは普通に玄関から出た。)




『ミリオン・ブレイバーズ』のオフィスの近くのビル街、そこに並ぶビルの内の1つに、俺達は着地した。

「今から、桜ちゃんと真君は直接23階の窓から入って、『エレメンタル・レイド』と接触、ソウルクリスタルを手に入れる。敵が襲ってくるとしたらその時だから、そこで茜と俺で迎え撃つ。そこで、計画通りなら桜ちゃんと真君2人で、最悪の場合は真君にだけ先に逃げてもらう事になる。ここで俺と茜が食い止めている間に真君はそのままソウルクリスタル研究所に向かってくれ。話はもうついてる」

 この中で一番機動力があるのは俺と桜さん。

 しかし、桜さんは最大の戦力でもあるから……いざその時になってみないと分からないだろう。

「じゃあ……いくぞ」

 古泉さんの合図とともに、俺と桜さんが発進する。


『ミリオン・ブレイバーズ』のオフィスビルに近づくと、上から誰かが降ってきた。

 ……事故でも飛び降り自殺でも無く、明確に俺達を狙ってきている攻撃だと判断。

 桜さんが風を操ってその人を吹き飛ばし、事なきを得る。

「こっちだ!」

 23階の窓からは『エレメンタル・レイド』が顔をのぞかせていたので、俺達はそこへ飛び込むようにして入った。

「これがソウルクリスタルが加工されたカルディア・デバイスだ。俺のも含めて、全部で8個ある」

 袋の口を開けて中を確認させてもらうと、中には見覚えのあるようなカルディア・デバイスが8つ、確かに入っていた。

「お預かりします」

 予め持ってきていたリュックサックにその袋を入れて、背負い直す。

「すまない、頼んだ!」

 焦燥感と不安と期待がない交ぜになった『エレメンタル・レイド』の声を聞きながら外に出ると、もう古泉さんと茜さんが交戦中だった。

「真君、一人で大丈夫?」

 戦況を見るに、やや押され気味、という所か。

 それを見た桜さんは、俺にそう尋ねる。

「当然」

 俺が答えると、桜さんは1つ頷いて、地面に落ちていくように飛んでいった。俺は構わず、シルフボードを全速力で発進させた。


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