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30話

「……危険だ」

「どこかで折り合いつけようとしてる以上、俺達がリスク背負うのが道理かな、と」

 危険は2度ある。

 1回目は、『エレメンタル・レイド』に会いに行くとき。

 この時に俺が『計野真』だと……『ベイン・フレイム』だとばれたら、その時点でアウトだ。

 その場を逃げ切れたとしても、もし『カミカゼ・バタフライ』が分かる人が居たりしたら、芋蔓で俺もアウト。

 かといって、桜さんだけに行かせたら、それはそれで何かあった時のフォローがしにくい。

 更に、2度目は、『ミリオン・ブレイバーズ』にヒーローとして売り込みに行くという事自体。

 俺が『ベイン・フレイム』で、既に死んだ、と思われている以上は、別の能力を持っている俺が『計野真』だと思われにくいだろう、という打算はあるけれど、それ以上に顔を覚えられていた時の危険性は大きい。

「いざとなったら、『計野真』の双子の弟か何か、っていう設定にしますよ。それに、2度目の危険の時には既に『ミリオン・ブレイバーズ』のヒーロー達はこっちと敵対しないことになってるはずですから、向こうが俺をどうこうしようにも武力が使えない状態のはずです」

「そうは言ってもなー……真クンにとってリスキーすぎるって。『ミリオン・ブレイバーズ』がどんな真っ当じゃない方法考えて来るか分かんないじゃん」

「リスクだからやめとこうって言ってたことやるんだったら、せめて『エレメンタル・レイド』達を巻き込む方法はもうちょっとまともに詰めて考えないと」

 そう言われても、俺は……いや、方法はあるんだろう。

『ミリオン・ブレイバーズ』からヒーロー達が失踪した、という嘘を街行く人々に吹聴して回ればその通りになる可能性は割とあるし、そういう方法を取れば多分、上手くいく可能性はある。

 ……ただ、その結果、どうなるかは俺には良く分かっていない。

『ヒーロー達が失踪した』という嘘を吐いてしまえば、その嘘に含まれていない範囲の事は俺にはどうしようもないから、下手したらヒーロー達が本当に消えてしまう。

 かといって、もう少し詳しくしようとして『ヒーロー達がクビにされた』などという嘘を吐くためには、何故それを俺が知っているかの背景作りが必要だし、それを多数の人間……『ミリオン・ブレイバーズ』関係者より多くの人達に吹聴する、というのは無理がある。

 或いは、もう根本から嘘で解決してしまえ、としたとする。

『『ミリオン・ブレイバーズ』はソウルクリスタル取扱い違反を行っている』という嘘を吐いても、それは元々真実なんだから意味が無い。

『『ミリオン・ブレイバーズ』はソウルクリスタル取扱い違反を行っていて、それについての記者会見があるらしい』とかならいいかもしれないが、やっぱりこれも、細かさと騙さなければいけない人数がネックになるだろう。

 ……基本的に、『大勢に』かつ『細かく』嘘を吐くのは難しいのだ。

 だから、今回の事については……嘘を吐くとしたら、かなり大ざっぱな物になってしまう。

 そして、大ざっぱな嘘による影響なんて、俺には分からない。

 いざ、何かあってからでは遅いことを考えると……ここを嘘に頼るのは、心配だった。




 ああでもないこうでもない、と話しながら、しかし、『ぼくのかんがえたさいきょうのヒーロー』を考えてメモしていく手は止めず、そのまま小一時間が経過した。

 ……そんな時だった。

 不意に古泉さんが顔を上げ、それにつられて俺達も黙り、古泉さんの見ている方……事務所の入り口の方を見る。

 ちりん。

 ……視線が集まるのを待っていたかのように、呼び鈴が鳴った。


「……あれ、鳴るんだ……」

 桜さんがそう言う程だから、恐らく、ここの呼び鈴が鳴らされることは滅多にないのだろう。

『ポーラスター』への依頼があれば、電話で呼び出して依頼すればいい。

 わざわざここを訪れる必要はないのだ。

 ……咄嗟に、全員が思ったのは、『敵襲』だった。

 その可能性と、普通のお客さんの時の可能性を両方考慮してか、古泉さんが無言でジェスチャーして、俺達に隠れるように指示する。

 恭介さんがやはり無言でジェスチャーして先導して、4人とも恭介さんがラボ代わりに使っている部屋へ入った。

 恭介さんがやはり黙って、何台かあるPCの内の1台を操作すると、ディスプレイに玄関先の様子や応接間の様子が映し出された。

 どこかに監視カメラが付いているらしい。

 ……今まで全然気づかなかった。

「……予想外な客だ……」

 そして、恭介さんだけでなく、全員がそんな面持ちでディスプレイを見つめていた。

 映し出された玄関先には、そわそわと落ち着かなげにしている『エレメンタル・レイド』と『インフィニティ・プレッシャー』……他数名の人がいた。




 催促するように2度目の呼び鈴が鳴ったのを聞いて、恭介さんは……水性のマジックペンを机からとると、少し瞑目してから、左の手の平に何かを書きはじめた。

 ……恭介さんの目が、紫色に光を帯びている。

 変身はしていないけれど、異能を使っているらしい。

 初めて見た。

 恭介さんの異能はたしか……『恭介さんの状態の変化を対象相手1人にそっくりそのまま映す』だったはずだ。

 ……きっと、古泉さんを対象にしてやってるんだろう。

 そうすれば、恭介さんが手に書いた文字が、そのまま古泉さんの手に現れる、という事になる。

 なるほど。こういう時の伝令方法としては最適に近い。

 覗きこんで、恭介さんが手に書いた文字を見せてもらうと、『エレメンタル・レイド、インフィニティ・プレッシャー、他3名。迎撃は一応可』と、書いてあった。

「……あの、迎撃準備、って」

 小声で聞いてみると、恭介さんが何かを見せてくれた。

 ……ここの事務所の間取り図と……何か色々、書きこんであるけれど。

「玄関で不意討を食らわなくて済むように、ドアの位置には簡易シールドを張れるようになってるんで、それの起動と……それから、玄関先と室内数か所にあるトラップを」

 ……俺、この修羅場が終わったら恭介さんにこの事務所の仕掛け、教えてもらうんだ……。



 古泉さんは恭介さんからのメッセージを受け取ったらしい。

 少し間を置いてから、がちゃり、と、ドアが開く音がした。

 古泉さん達が玄関先で話し始めたらしい物音を聞きながら、ディスプレイを4人で眺める。

「あ、入ってきた」

 茜さんが緊張しながら、ディスプレイを指さす。

 玄関先を写すカメラからは人が消えて、応接間を写すカメラは古泉さん他5名のヒーロー達の様子を写していた。

 ……この様子を見る限り、『敵襲』ではないんだろうけれど。


『……まあ、とりあえず、どうぞ』

 古泉さんがソファを勧め、ヒーロー達はそれぞれ、ソファに腰を下ろした。

『で、わざわざ『ミリオン・ブレイバーズ』のヒーローが5人も、どうしたんですか』

『変身してこなかったんですが……流石ですね』

 ちなみに、『エレメンタル・レイド』も他の4人も、変身していないから、パッと見たら普通の人だ。

 けれど、『エレメンタル・レイド』の顔は分かるし、『インフィニティ・プレッシャー』は変身前後であまり見た目が変わらないようだ。

 恭介さんは残り3人の顔も知っているらしいけれど。

『皆さん、有名人ですから。……それで、ご用件は』

 古泉さんが問うと、少しだけ沈黙の時間があり……予め決めてあったのだろう。『エレメンタル・レイド』が口を開いた。

『依頼があって、来ました』

『依頼、ですか。……訳ありなんですね?』

 古泉さんが不審げに尋ねると、『エレメンタル・レイド』は、はい、と、小さく、けれど強く頷いて……こう、言った。

『俺達のソウルクリスタルを、元に戻してもらいたいんです』


『元に戻す、って……まさか、ソウルクリスタルを破損でもなさったんですか?だとしたら、うちで扱える内容じゃないですね。一応、何でもやります、と看板は出してますが、流石に限度がある。それはソウルクリスタル研究所にでも頼まれてはいかがでしょうか』

 古泉さんは、如何にも不可解だ、というような表情を作ってそう返した。

 ……当然だ。

 ソウルクリスタル研究所と『ポーラスター』のつながりは公になっていない。

 そして、『ポーラスター』が、『ミリオン・ブレイバーズ』のソウルクリスタル取扱い違反の実態を掴んでいることも。

 カマかけかもしれないし、ここは当然、知らないふりをするのが正解だ。

『それから、依頼はもう1つあるんです』

 しかし、『エレメンタル・レイド』はそんな古泉さんを気にするでもなく、さらに続けた。

『『ミリオン・ブレイバーズ』の、ソウルクリスタル取扱い違反の告発をしてもらいたい』


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