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24話

 目が覚めたら、俺の部屋に居た。

 いつも通りの、むき出しの配管とコンクリートの天井。

 ……記憶が追い付くまでに数秒を要してから、慌てて部屋を飛び出た。

「あー、真クン、目、覚めた?ダイジョブ?異能の負荷が大きかったんだと思うけど」

 茜さんが苦笑いしながら手をひらひらさせているのを見て、なんとなく、俺はしくじったんだろうな、という事が分かった。

「うん、ゴメンね、なんか。……うん、途中まではうまく行ってたっぽいんだけどさ、桜が……気づいちゃったんだよね」

 ……そう言えば、桜さんは『エレメンタル・レイド』のカルディア・デバイスの実物を見ているんだったっけ。

 しくじった。

「真君。そう落ち込むな。少なくとも、発想はいい。今までの中で一番マシな案だ。……ただ、うん、俺達にも相談してくれると尚……いや、うーん、真君の異能はそれをやると上手くいかなくなることがあるんだよな、難しいか」

 古泉さんも困ったように笑いながら考え込んでしまった。

「ええと……カルディア・デバイス、駄目でしたか。町の人にも見せたつもりだったんですけれど」


 俺が吐いた嘘は、『ミリオン・ブレイバーズ』から『エレメンタル・レイド』のカルディア・デバイスを奪ったアイディオンが逃走した、というものだった。

 当然、幻影1つにそこまでの情報は入れられなかったから、実際に作った幻影は、『カルディア・デバイスらしきものを持ったアイディオンが『ミリオン・ブレイバーズ』から脱出してくる』というものだったが。

 そして、その問題のカルディア・デバイスは、『エレメンタル・レイド』がステージ上に居た時に身に着けていたカルディア・デバイスをぼんやりと思い出しながら作った幻影で誤魔化した。

 ……それが上手くいかなかったんだろう。桜さんが見て、嘘がばれた。

 それの保険として、アイディオンがカルディア・デバイスを持っている所を街行く人々に見せる為、アイディオンが下降するように幻影を作ったんだが。

「なんていうかさ、私達ってもう、真クンが嘘吐いて色々できるぞ、って分かっちゃってるから、割と都合のいいことが起こると無意識に疑っちゃうみたいなんだよね、ごめん」

 茜さんが謝ることじゃないし、むしろ、そこは俺の落ち度でもある。

 もうちょっとやり様があったよな、多分。

「……という事で、結果だけ見ると……アイディオンが『ミリオン・ブレイバーズ』の窓ガラス割っただけ、っていうか」

 ……うん。反省してます。




「いや、でも今俺達にできる最善手はこれだろうな」

「叔父さーん、矜持、矜持。忘れてない?大丈夫?」

 茜さんの言いたいことも分かる。

 つまり、こちらから仕掛ける事に変わりはないのだから、という事だろう。

「確かに、公には先に手を出すのはこっち、という事になるかもしれないが、一応、日比谷所長から貰った情報と真君のことがあるからな。先に悪いことしたのは向こうだ。俺達は裁けないものを罰そうとしているんだから……まあ、この程度は許容範囲だろう。しょうがない」

 元はと言えば、『ミリオン・ブレイバーズ』の行っている不正と悪事を罰する為に俺達はなんやかややっている訳で、その為に俺が『嘘を吐く』のは仕方のないこと、というのが古泉さんの理論らしい。

「そー来なくっちゃ!叔父さんの矜持の緩さ加減、私、だーいすきぃ!」

「そりゃどうも」

 古泉さん自身がそれについてどう思っているのかは……仕方なく、なのか、喜んで、なのかは分からないけれど、少なくとも、茜さんには好評らしい。

 ……さっきのは、確認、ということで、茜さん自身が『矜持』を大事にすべきだという考えでは無かったらしい。

 うん、茜さんは……間違いなく『むかついたらぶん殴れ』っていうタイプだもんな……。

「大体、こっちが先に手を出すにしろ、ばれなきゃいいんでしょ?ばれなきゃ。……真さんの異能ってこのためにあるみたいじゃないですか。よかったですね。やりたい放題ですよ」

 恭介さんがいつもの死んだ魚のような目のまま俺の肩を叩いてそう言うけれど、素直に喜んでいいんだろうか。

 ……でも、俺の異能が『ミリオン・ブレイバーズ』を潰すとっかかりになるなら、これは喜んでいいことだろう。

 うん、とりあえず喜んどくか。わーい。




「カルディア・デバイスを作り出した場合って、どうなんの?本物が2つになっちゃうの?それとも、本物が無くなっちゃうの?」

 喜んでばかりも居られない。

 今、『ミリオン・ブレイバーズ』では、アイディオンが突如として襲ってきて窓ガラスを割っていった、ということで警戒態勢に入っているはずだし、次の嘘を今すぐ吐くのでなくとも、次の嘘の準備はしておいた方がいい。

 事態はいつどのように急変するか分からないのだから。

「さっきのシナリオでいけば、本物が無くなるはずです。アイディオンによって本物が奪われた、っていう嘘でしたから」

「え、じゃあ、逆に本物がそこにある、って確認されてたら嘘がホントにならない、ってこと?」

「恐らくは」

 俺が作った幻影は、アイディオンが『ミリオン・ブレイバーズ』から出て来る所からだった。

 つまり、『アイディオンが『ミリオン・ブレイバーズ』内で何かをしたという事実を確認した人は居ない』。

 だから、『ミリオン・ブレイバーズ』内の人が騙されてくれるはずは無くて、『エレメンタル・レイド』のカルディア・デバイスが無くなったと思い込んでくれない人は大勢いた可能性があったわけだ。

 でも、逆に考えれば、桜さんと茜さんが嘘に気付いて初めて、俺の嘘で作られたカルディア・デバイスは消えたのだから……その間、『エレメンタル・レイド』のカルディア・デバイスを確認していた人は、2人以下……いや、違うか。街の人達が確認していた可能性もあったのか。

 けれど、街の人がそこまで多く騙されてくれていたとは思いにくい。

 ならば、『エレメンタル・レイド』のカルディア・デバイスは、そこまで人目に付くような場所に無かった、という事になる。


 ……当然、ここで考えられるのは3パターンだ。

 1つ目は、『エレメンタル・レイド』のカルディア・デバイスは『エレメンタル・レイド』の手から離れた場所で保管されている、というパターン。

 この場合、普段からそれは監視されている訳ではないのだろう。

 少なくとも、俺が嘘を吐いた瞬間は、あまり多くの人の目に晒されていなかったはずだ。

 ……実験中、とか、解析中、とか。

 或いは、もっと別の……『エレメンタル・レイド』自身の拘束の為、とか。

『ミリオン・ブレイバーズ』なら色々やりかねないだろう。


 2つ目は、『エレメンタル・レイド』自身がカルディア・デバイスを厳重に隠していたパターン。

 桜さんは襟からカルディア・デバイスが見えた、と言っていたが、もっと襟の高い服を着るなりすれば、外から見えなくなるだろう。

 このパターンの時は、『エレメンタル・レイド』が常にカルディア・デバイスを装備している、と分かっている人が周りに居なかった事になる。


 3つ目は、『エレメンタル・レイド』自身が、人目に付かない場所に居た、というパターン。

 ヒーローならカルディア・デバイスを手の届かない所に置きたがらないだろうし、厳重に隠してまで人目につく場所に出るとしたら、『エレメンタル・レイド』だという事を隠して外出する場合だ、と考えるのが妥当だ。

『エレメンタル・レイド』が外出できる状態にあるのかは分からないが……『発作』が起きるなら、部屋にいようと思うのは結構妥当だと思う。


 ……つまり、俺は、こう推測する。

『エレメンタル・レイド』は、多分、部屋に1人で引きこもっていた。

 そして、自分のカルディア・デバイスがいきなり消えたり、いきなり戻ってきたりするのを目撃したんじゃないだろうか。




「……うん。そうだね。『ミリオン・ブレイバーズ』側からしてみたらさ、窓ガラスが吹っ飛んだ、っていう事以外に、『エレメンタル・レイド』のカルディア・デバイスが消えたり出てきたりした、っていう情報も入っちゃってるのかー」

 当然、警戒されている恐れがある。

 別に警戒されるだけならいいんだが、人の目があると騙しにくくなるから面倒ではある。

「……いや、それもどうでしょうね。『エレメンタル・レイド』が黙ってれば警戒レベルは変わらないし、『エレメンタル・レイド』が喋ったとしたら恐らく、『発作』のことも『ミリオン・ブレイバーズ』に知れてるって事でしょうから、今更何かあっても取り合わない可能性は高い」

 成程。

 もし、『エレメンタル・レイド』が『発作』の事を何らかの理由で『ミリオン・ブレイバーズ』に対して黙っていたとしたら……自分自身の異変を知られたくない、という事だろう。

 だったら、カルディア・デバイスが消えて、すぐ戻ってきた、なんていう与太話をわざわざ教えようとは思わないに違いない。

 逆に、『エレメンタル・レイド』がそれを話そうと思うなら、『発作』についても『ミリオン・ブレイバーズ』に話していると思われる。

 しかし、それでも『エレメンタル・レイド』はヒーロー活動をしている訳だし、『持病』だと言っていた以上、俺と桜さんが見たあの時が初めての発症だったわけでもないだろう。

 だから……つまり、『ミリオン・ブレイバーズ』は『エレメンタル・レイド』の不調を見て見ぬふりしている、と考えられる。


「知れば知るほどブラックな内情」

「許すまじ『ミリオン・ブレイバーズ』」

 茜さんと恭介さんが仲良く遠い目をしているのを見ながら、恭介さんは1つ、息を吐いた。

「……まあ、『エレメンタル・レイド』にとってはとんでもないことだろうが……俺達にとっては、十分にありがたい状況だな」

『エレメンタル・レイド』が一人でいて、尚且つ、今日の俺の嘘にまつわる色々が大事になっていないとすれば、かなり俺達にとって美味しい状況である、と言える。

「……うん、やっぱり、『エレメンタル・レイド』をここに連れてくればいいと思う」

 俺達の今までの会話を聞いていたのか居なかったのか、桜さんがこくん、と頷いてそんなことを言った。

「真君がさっき、カルディア・デバイスにやろうとしたことを『エレメンタル・レイド』自身でやればいい。アイディオンが誘拐しようとした所を、助けるの」




 それから俺達はその作戦についてかなり念入りに議論し、そして……とりあえず、古泉さんが日比谷所長に連絡した。

「あ、すみません。はい。……え?あ、違います。それじゃなくて、ちょっと、そっちの暇な人を……ええと、余裕を持って10人位、お借りしたいんですけど……」


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