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23話

「……ここに?」

「ここに」

 発作が起きた『エレメンタル・レイド』を、ここに運び込む。

 確かに、そんな状態の『エレメンタル・レイド』なら、カルディア・デバイスを外すことにも抵抗できないだろうし、カルディア・デバイスの不調を『善意で』検査する分には問題ないだろう。

 ……ただ、問題は、ここは……。

「どうやって廃墟のど真ん中まで誘導するかが問題だなあ……」

 街中で発作を起こされたら、どう考えても病院に運び込む方が余程自然だ。

「……いや、いっそ、その為に街中の数か所にアパートでも借りておけばいいのか……」

 古泉さん、逆転の発想。

 拠点に運び込むのが大変なら、拠点を運んでしまえ、と。

 確かに、それならばこちらの素性を隠すこともできるだろう。

 なかなかいい作戦に思える。

 ただ1つの問題を除けば。

「……うち、無駄にアパートとか借りておく余裕、あったっけ?」

「……無いな」

『ポーラスター』は零細ヒーロー事務所。経営はかつかつ。余剰のお金なんて、無いのだった。


「……いや、でも、発作が起きている人を善意で助ける、というのは方針としてはいい。というか、今現在、それが一番マシな方法だろうしなぁ」

「つまり、『エレメンタル・レイド』をストーキングして、発作を起こしたところでどこかに連れ込む、と」

「うわーあ、恭介君が言うと途端に犯罪臭い」

 ……多分、恭介さんが言わなくても犯罪じみてると思う。


「っていうかさ、『ミリオン・ブレイバーズ』のオフィスの外で延々と『エレメンタル・レイド』を出待ちして、出てきたら後つける……ってのさ、無理が無い?」

「というと?」

 それぐらいしかないんじゃないだろうか。

 街を歩いている『エレメンタル・レイド』を見つける、というのは難しいように思うけれど。

「いや、だってさ……少なくとも、真君は外出が制限されてた訳でしょ?」

 ……。

 成程。

 もしかしたら、『エレメンタル・レイド』は……後をつけようにも、どこかに連れ込もうにも、そもそも外に出てこないのかもしれなかった。

「外に出ているかどうかはアイディオンの討伐記録を請求すれば分かりますけど……そう考えると望み薄な気もしてきますね」

 盲点、と、恭介さんが天井を仰いでげんなりする。

「……とにかく、『エレメンタル・レイド』をどうにかしようとしたら、まず『エレメンタル・レイド』自身が外に出てこないといけない。次に、『エレメンタル・レイド』が発作を起こさないといけなくて、更にその場に俺達が立ち会っている……或いは、その場に駆けつけられる必要がある。更に更に、そこからどこかに連れ込んで検査……か」

 そう考えるとかなりシビアな気がしてきた。

「アパート借りるのは……まあ、お金で解決できるけどさ。発作のタイミングなんてどうしようもないし、ましてや外に出てきてくれないんじゃさ、どうしようもないよね」

 3段階の難題が積み重なって、先が見えない。

『病気』というとっかかりは見つけたのに、それを活用する手段が無い。

 ……ひどくもどかしい気分だった。




「……とりあえず、今日はここまでで。ノルマもあるからな。明日からまたアイディオン狩りもある。……ひとまず報告会はこれでお開きにしようか」

 古泉さんがそう言って、全員解散となった。

「あーあ、もう一歩、ってとこなのになー」

 茜さんが悔しそうに言いながら、欠伸をかみ殺す。

 今日は茜さんも出ずっぱりだったから疲れているのだろう。

「『エレメンタル・レイド』と接触する方法があればいいんですけどね」

「んで、接触ついでにカルディア・デバイスの検査させてください、ってかー?そんなのできんのかなー……ふあ」

 ……あれ。

 待てよ。

 ……ああ。

 ああああ!

 思わずでかかった声を押さえる。

 俺なら、できるかもしれない。

 不安要素はある。成功しないかもしれない。

 でも、やってみるだけならタダだ。やってみる価値は十分にあるだろう。

 ……だから、ここの人達にも知られない方がいい。




 翌日。

 俺と桜さんと茜さんは、アイディオン狩りの為に外出した。

「あーあ、いーい天気―。こんな日はこう、景気よくアイディオンがいっぱい出てきてくれりゃーいいんだけどなー……あ、真クンなら出せるのか」

 俺と、茜さんと桜さん。俺を除いたとして……2人ほど、嘘を信じてくれるオーディエンスがいれば、アイディオンは本物となって現れる。

「いや、それやっちゃうとマッチポンプもいいとこだし、本末転倒か。うん、冗談冗談」

 勿論、それがアイディオンの総数を……アイディオンがそもそもどのぐらいいるのかも俺達には分からないけれど、とにかく、アイディオンを1体でも減らすこと、そして人への被害を少しでも減らすことが俺達の仕事なのだから、当然、アイディオンを増やすような事はしたくない。

 ……だから、『ミリオン・ブレイバーズ』のスカウトを妨害する時に出したアイディオン。

 あれのソウルクリスタルは、ノルマにカウントしないことにしたのだった。

 それが俺達のプライド、というか……守りたい一線だった。

 だから別に、アイディオンを『出して倒す』事自体に忌避感は無い。

 茜さんも、『訓練とかにいいかもね』と言っていた位だし、俺もそういう使い方なら問題ないと思う。

 ましてや、武器として、俺が使うのであれば。


「どうする?桜、真クン。街の方、行ってみる?」

 俺達が見回っているのは廃墟もいいところの、つまるところ、『ポーラスター』の周辺のエリアだ。

 当然、ここら辺で戦う分には町への被害なんてものを気にしなくていいので、『ポーラスター』で人気の狩場になっている。

「そうですね。もうちょっと街の方、行ってみましょう」

 ……だから当然、戦うならこの辺りの方がいい。

 けれど、今日は街の方に行かないといけない。

 茜さんの意見に乗って、俺達は多少街寄りの方へ向かった。


「ま、街に出た位で見つかったら苦労しないんだけどねー」

 今日は、運が良いのか悪いのか、アイディオンを見かけない。

 街に近づいても、アイディオンは居ない。

「……街の方が、競争率が高いから……」

 また、居たとしても他のヒーローが既に交戦中だったりするので、俺達の出番はないのだった。

「あー、くそ。ホントにさ、なんでこう、見つけたい日には見つかんなくて、別にいなくていいときにはわんさか出て来るのかな、アイディオン、ってのは」

 茜さんはげんなりしているようだったが、俺にとっては都合がいい。

 どーすっかな、と、思案顔の茜さんと、いつも通り何を考えているのか良く分からない桜さん。

 2人から意識を離して……2人のずっと後に見える、高いビルを見て、イメージする。

『ミリオン・ブレイバーズ』のビルの窓ガラスを割って、アイディオンが脱出する姿を。




 甲高くけたたましい音が、そして、鈍い音が立て続けに響く。

 直後、悲鳴。

「何っ!?」

 茜さんと桜さんが瞬時に反応して、その方向を向くと……既に、街を行きかう多くの人がそれを見て、それを『信じていた』。

 突如、アイディオンが窓ガラスを割ってオフィスビルから出てきた事を。

 ……これでいい。

 これで、このアイディオンは本物になった。


「よっしゃ、獲物ぉっ!」

 茜さんが反応して、すぐにそのアイディオンに向かって飛ぼうとするより前に、アイディオンが動く。

 窓を破ってすぐ、地上すれすれまで下降したアイディオンは、すぐにまた高度を上げて俺達の居る方へ飛んできた。

「なーんてイイコなのよ、あれっ!わざわざこっち来るよっ!」

 あのアイディオンの制御は、一度下降した時点で俺から離れていた。

 もうあれは俺の『嘘』じゃなくて、本物になったのだから。

 だから、ここは完全に運だった訳で、素直にありがたい。

 猛スピードで突っ込んできたそれに臆することなく茜さんは立ち向かい……投げキス1発で、撃ち落とした。

 ……後で聞いた所によると、上下の間隔を狂わせる攻撃だったんだとか。

 そして、墜落したアイディオンが地面に衝突するより先に、強い風が吹いて、アイディオンの体が優しく受け止められて地面に降ろされる。

 地上の破壊を押さえるために桜さんがやったようだ。

「よーし、じゃあサクサクやっちゃお」

 茜さんが地面に落ちたアイディオン目がけて、力強い踵落としを決め、その後を追うように桜さんが投げたナイフが突き刺さる。

 俺も見ているだけじゃ申し訳ないので、火の玉をぶつけて援護する。

 アイディオンは抵抗したものの、茜さんの状態異常系攻撃で行動の自由を奪われ、桜さんのナイフと俺の火の玉が確実にダメージを蓄積させていき、殆ど街の被害は無いままにアイディオンを討伐することに成功した。


「Lv6かぁ。ま、上々かな」

 アイディオンの討伐が終わり、アイディオンは消え去った。

 そして、残ったソウルクリスタルを拾い上げて茜さんは満足げに頷き。

「……あれ?何これ」

 そして、それに気づいた。

「……これ、カルディア・デバイス?」

 茜さんのその声を聞いたか、聞かないか。

 そこで、不意に俺の意識は途切れた。


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