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17話

「もょもと」

「えっ恭介君どうやって発音したの」

「もょもと」

「もみょ……も、もよ……みょ……も……?」

「やめなさい。というかなんで君達がそんな古いゲームのネタを知ってるんだ。そして真君のヒーローネームをそれにする気か」

「……ヒーローっていったらコレかと思いまして」

「さては真面目に考える気が無いな?」


 俺のヒーローネーム付けは難航していた。

 ネックになっているのは、それらしいヒーローネームにしてしまったら、名前から能力がばれてしまう、という事。

 相手が騙されてくれないと意味が無い異能だ。

 だから、名前からは極力情報を出さないように……そしてあわよくば、名前だけで騙せれば、という。

 しかし、それ故に難しい。

 俺は、場合によってはエレメント系の炎術士のふりをしたり、剣士のふりをしたり、時には幻術士のふりをしたほうがいい事もあるかもしれない。

 しかし……『可変的です』みたいな名前にしたら、それこそ本末転倒というもので。

「『正義の味方』みたいな名前にしないか?汎用性もあるし」

「まあ、それは一つの手段ですけどね。有名どころだと『ライト・ライツ』さんとか、『ヴァイス・キラー』さんとか」

「けどそれってつまんないじゃん!インパクト薄いしさー」

 ……そして、俺を置き去りにして、古泉さんと恭介さんと茜さんが頭を捻り続けていた。

「やっぱりこだわりたいじゃん!折角の名前だよ?」

 こだわりたいらしい。

 俺としては……この人たちが決めてくれた名前ならなんでもいいかな、と思っている。

 多分、しっくりくると思うんだ。

「え、というかさ、さっきから私達だけで考えてるけど、真クンからの希望とかって、無いの?私達で決めちゃっていいの?」

「はい。むしろそうして欲しいぐらいです」

 なので、茜さんの不安そうな顔に笑って返す。

「ん、そっか。じゃ、気合入れて考えよっか!……制限時間30分、各自1つ考えて、審査員は真クン!真クンのお眼鏡にかなうのが出なかったらもう一本って事でどーよ」

「じゃあ、とりあえずそれで各自考えてみるかぁ……」

 何やら真剣に考え始めた人達を見て、無性にうれしいような、くすぐったいような気分になった。




「はい、タイムアップー!じゃ、一斉にせーの、でいこう」

 それぞれが辞書を引いたり、『ヒーロー名づけ辞典』なる本を読んだりしながら30分が経過して、遂に発表、という事になった。

 ご丁寧に、全員が紙に書いたらしく、これを一斉に見せる事にしたらしかった。

 茜さんは全員を見回して一拍おいてから、せーの、と声を掛け。

「うわ、叔父さんと方向性被った!」

「茜の方がスマートなかんじだけどなぁ……恭介君のは、強そうだな」

 全員がお互いの紙を見た後。

「真クン、じゃ、判定よろしく」

 今度は一斉に俺を見た。

 俺が決定するのも烏滸がましいような気がするんだけれど……。

「……じゃあ……」




「じゃ、これで書類出してくる。参加するのは『パラダイス・キッス』。それと、裏方として千波恭介を派遣、と。これでいいかな?」

 記入が終わった書類を古泉さんから受け取った茜さんがチェックしていく。

「……私は?」

 今回の依頼に参加しない桜さんは少し不満らしい。

「桜ちゃんは俺と観客席に紛れるかんじだな。一応、桜ちゃんはうちの切り札だから、あまり切らなくていい所では切りたくない」

「え、ちょっと叔父さん、叔父さんが桜連れて歩くの?それ大丈夫?職質されない?」

 茜さんが古泉さんの言葉に焦ると、古泉さんは何とも言えない顔をした。

「……しょうがないだろう。茜はこういうショー向きだし、真君を下手に『ミリオン・ブレイバーズ』の目の届く所に連れていくのも考え物だ。俺が裏方に回ってもいいが、桜ちゃんと恭介君を2人にしておくとそれはそれでなんか……効率が、悪くないか?」

 桜さんと、恭介さん。

 ……あまり自己主張をしない、浮世離れしているというか、大人しいというか……そういう桜さんと、自分の世界に入りがちというか、社交的ではないというか……そういう、恭介さん。

 どう考えても、なんか、まずい。

 観客席で偵察、という事なんだろうが、なんというか……さりげなく、目立たないように、とか、できないんじゃないだろうか。

 この2人が並んでヒーローショー見てたら、間違いなく浮く。

「だからさ、叔父さんじゃなくて真君入れればいいじゃん。変装するなりすればそこまで目立たないでしょ。どうせ『ミリオン・ブレイバーズ』のヒーローショーとか、人いっぱいになるんだろうし」

「……リスキーじゃないか?どう思う、真君」

 確かに、俺と桜さんなら、職質されることは無いだろう。

 しかし当然、そこにはリスクがある。

 もし会場に本那さんでもいたりしたら、一発アウトだ。

 ……しかし、茜さんの言う事も尤ものような気がする。

 だって、向こうは俺の事を知んだと思っているんだ。

 死んだ人間をわざわざ探したりはしないだろうし、顔を隠すなりすれば、人ごみの中で見つかる道理が無い。

「俺は大丈夫だと思います。……桜さんは?」

「私も、古泉さんより真君と行った方がいいと思う。……同年代の人となら、別に怪しくない」

 桜さんの同意も得られた以上、古泉さんとしても反対する材料は無いらしい。

「分かった。まあ、変装に関しては茜がやってくれるだろうし……有事の際にも、桜ちゃんが居れば大丈夫だろうし、大っぴらに戦えないような場所でも真君なら上手くやれるか……」

 じゃあ俺は一人でぶらっとヒーローショー眺めるおっさんの役かぁ、と、古泉さんはぼやいた。

 ……おっさんって程おっさんでもないような気が……。

「古泉さんっておいくつですか?」

「俺?37。若い連中と比べるともう十分おっさんなんだよなぁ」

 ……サバ読めば30前半で十分通ると思う。




 古泉さんが書類を出しに行くと、俺は茜さんに引きずられて買い物に連れていかれた。

 今晩の食料の買い出しと、俺の変装用の服と……それ以前に、俺の日用品の為だ。

 今の所、俺が着ていた服と、恭介さんに借りた服を着まわしているような状態で、恭介さんにも申し訳ない。

 日用品に関しては、俺の食器が足りなくて俺だけ割り箸だったりする程度なのだが、折角だから揃えよう、という事になったのだった。

「……っていうかさぁ、ヒーローショーに参加、って、悪役の方でかなー、やだなー。ね、どう思う?」

 俺が押すカートにぽんぽん、と服を放り込みながら茜さんが話しかけて来る。

 一応、俺に気を遣って話しかけてくれているんだろう。

 ただし、茜さんが7割8割喋っているが。

「ヒーローショーを見たことが無いので今一つ分からないんですけれど、ヒーローショーってそもそも何をやるものなんですか?」

 折角なので、今まで疑問だった点を聞いてみることにした。

「あ、見たことない?……えっとねー、ま、目的はさ、広告。ヒーローを広告塔として使ってるとこ、あるでしょ。ああいうのの裾野を広げる、っていう意味と、あとはもう、市民の意識向上だよね。ああ、このヒーローたちが頑張ってるんだ、って思ってもらう、とかさ。……あとは、集客だね。そんで、金落としてってもらう、っていうか。娯楽の提供、っても言えるけど」

『ポーラスター』では、広告塔の位置に茜さんが居る……んだろう。多分。

 茜さんが一番メディア露出しているらしいし。

 こういう事に一番慣れているのは茜さんなんだろう。

「その目的で何やるか、って言ったらね、そのヒーローの異能とか特技とか生かして、なんかやるの」

 その『なんか』が気になるんだけれども。

「劇だったり、一発芸大会みたいなのだったり、色々。私の場合は……うーん、この抜群のプロポーションを活かしてだな、歌って踊って……観客席に投げキスしながらとりあえず片っ端から誘惑してる。案外釣れるのも男ばっかじゃなくてさ、結構面白いよ」

 いや、そういう話じゃなくて。

「あとは……瓦百枚割りとか?幻影でなんか見せるとか?あ、叔父さんは観客抱えて空飛ぶ、っていうのが十八番。桜ちゃんと恭介君は出たことないね」

 なんとなく、想像がつき始めた。

 確かに、異能を持っていない人からすれば異能を間近に見られる機会は限られている。

 間近で見られる機会があるなら、いい集客になるだろう。

「ま、こんなご時世だしさ。そういうショーやって市民に娯楽を提供するのは私としてもやぶさかではないんですよ、っと。……服、こんなもんでいっか?」

 俺自身はそこまで着るものにこだわりは無い。

 だから余程変な物でもない限りは文句も無いので、茜さんに頷いておく。

「多分、こういうの似合うと思うんだよね」

 茜さんのセンスはいいみたいだから任せてしまったが、任せて正解だったような気がする。

 何より、速かった。滅茶苦茶に速かった。

 女性の買い物って、もっと時間がかかるイメージが勝手にあったんだけれど。

「じゃ、お会計してくるから待っててねー」

 ちなみに、お金は……申し訳ないことに、『ポーラスター』の金から出ている。

 俺の給料から天引きしてくれ、と言ったら断られてしまった。

 何でも、着の身着のままの俺を捕まえてきてしまった以上、その生活基盤を整えるのは企業としての責任だから、ということだった。

 俺が着の身着のままだったのは『ポーラスター』の所為じゃないし、むしろ、『ポーラスター』に拾ってもらえなかったら間違いなく死んでいた訳だから、やっぱり申し訳ない。

 この分は働いて返そうと思う。


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