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16話

「……つまり、その時に『ミリオン・ブレイバーズ』のヒーローと接触して情報を得てこい、って訳ですか」

 恭介さんが妙に嫌な笑顔で……こう、妙に暗いというか、妙にあくどいというか、そういう笑顔をうっすら浮かべる。

「どうせLv10も出て来るんでしょ?馬鹿だよね、出さずに隠しておけばこっちだって泣き寝入りするしか無かっただろーにさ。わざわざチャンスくれちゃって『ミリオン・ブレイバーズ』ったら太っ腹ぁーっ!」

 いぇーい、と、茜さんが恭介さんとハイタッチを交わしている。

 ……泣き寝入りするしかなかった、って。

 まるで、これから『泣き寝入り』しなくてもいい、みたいな言い方だ。

 けれど……いや、まさかな。

「出さないと使えないし、使えないなら置いておく意味があんまり無いんで出さざるを得ないとはいえ、こういう形にするのは相手が馬鹿としか言いようが……いや、でも確かにエレメント系が全部使えるヒーローなら戦闘以外でも出したくなるか……」

「まあ、こっちとしては有難い限りって事で!あーあ、楽しみだなあ、楽しみだなあ。Lv10さえ向こうに居なければ割と何とかなりそうだなあとは思ってたんだよね!」

 まさか……とは思いつつ、あくどい笑みを浮かべる恭介さんと茜さん、その2人を見ている古泉さんの様子を窺っていると、桜さんが隣から、珍しく声を掛けてきた。

「良かったね。『ミリオン・ブレイバーズ』、潰せるかもしれない」

 ……やっぱり、この人たち、そういう話してるの?




 戸惑っていると、古泉さんが意外だ、とでもいうような顔をした。

「真君だって『ミリオン・ブレイバーズ』のやったことは許せないだろう」

「当然です」

 驕る訳じゃないが、俺は……普通のヒーローとして戦える程度には、強い。

 Lv6のアイディオンに負けない程度には強い。

 なのにそれができなかったのは、『ミリオン・ブレイバーズ』から支給された装備と、『ミリオン・ブレイバーズ』の対応の所為だと思う。

 そして、俺は運よく助かったものの……恐らく、俺以外の、俺と似たような境遇だったはずのヒーローの卵たちは、きっと孵されることなく叩き割られたのだろう。

 見ず知らずの他人とはいえ、彼らの心情は思うに余りある。

『計野真』としても、『ヒーロー』を名乗る者としても、許せない事は確かだ。

「でも……それを告発するには証拠も、俺の能力も足りないっていう事は分かっています」


 告発しようにも、恐らくは『証拠の無い虚言』として処理されるだろうことは想像に難くない。

 俺が体験した事は俺しか知らないし、それを本当だと証明する証拠も在りはしないのだから。


 そして、告発しようと動いたら、間違いなく俺は口封じされる。

 そして、その時に俺の口を封じに来るのは……『ミリオン・ブレイバーズ』のヒーローだろう。

 万全を期そうと思われたら、間違いなくLv10を仕向けてくるはずだ。

 ……Lv10の、エレメント系オールオーケー、物理も精神攻撃も耐性がある、なんていう化け物みたいなヒーロー相手に勝てるとは思わない。


「そうだな。……残念だが、材料が足りないのはどうしようもないな。今の状態で頑張っても、精々いいとこ企業イメージのダウン程度だろう。真君の命を賭けるには軽すぎるな」

 その『いいとこ企業イメージのダウン』では、到底満足できない。

 けれど、向こうとしてはそれだって迷惑だろう。

 当然潰しに来ると覚悟しておいた方がいい。

「で、真っ向からやろうと思っても、うちは零細ヒーロー事務所。一番強いのが『カミカゼ・バタフライ』Lv9。その桜ちゃんだって、1対1の長期戦に持ち込みさえすれば必勝だが、複数相手だと先に体力が尽きるだろうし、精神攻撃系の耐性も低い。つまり、万能では無い。あと、単純な人数も少ないな。ヒーローは全部で5人。戦えるのは実質4人だ」

 ……古泉さんは、いつの間にか『俺の』話では無く、『ポーラスター』の話をしていた。

「方や、『ミリオン・ブレイバーズ』にはLv10のヒーローが居る。Lv10が2人以上居る可能性だってあるだろう。しかもそいつの内の1人は確実に、エレメント系の化け物だ。うん、真っ向からやって勝てる相手じゃないな。どうせ向こうが来るとしたら完全に殺す気で来るんだろうしなぁ」

 ここまで古泉さんは話して、俺に向き直る。

「ここで真君に聞いておこう。まず、1つ目だ。君は、『ミリオン・ブレイバーズ』に鉄槌を下すつもりはあるか?」

「あります」

 当然だ、という思いを込めて古泉さんを見つめ返せば、古泉さんは嬉しそうににやり、と笑う。

「まあ、当然だな。よし。……じゃあ、次。その手段についてだが……そうだな。2つあるな。1つは、潜入捜査。真君がやるのは難しいだろうから……顔の割れてない恭介君にやってもらう事になるだろう。君をスカウトしたという奴に近づいて、スカウトされる。そして、真君と同じ道を辿る。その過程を全て、克明に記録する。最後の最後で逃げて、その材料をぶちまければ終了だ」

 当然、問題点もあるだろう。恭介さんが3か月拘束されるという事と……。

「ソウルクリスタルを削り取られるかもしれないんですよね」

 俺の『前の』カルディア・デバイスは、感覚からしても、日比谷所長の口走ったことから考えても……ソウルクリスタルの一部を削りとって作られたものだった、と考えるのが妥当だ。

「その通りだ。……だから当然、『ミリオン・ブレイバーズ』に潜入するという事はリスク以外の何物でも無い」

 だったら当然、そんなことを恭介さんにさせることはできない。

 ましてや、それが『ミリオン・ブレイバーズ』の利益になってしまうかもしれないのだから。


「そして、2つ目だ。叩き潰す。……単純だな。本当に殴りこんで叩き潰す。それだけだ。それ故に難しくもあるが……何より、こっちのデメリットは、告発できない、っていう事だな。結果としては、『ミリオン・ブレイバーズ』はある日いきなり潰れた、という事になる」

 そんなことを真面目に言われても困る。

 それは一番とっちゃいけない手段だ、っていうこと位、俺にも分かる。

 それをやったら、どっちが『ヒーロー』か分かったもんじゃない。

 ……いや、或いは……告発できなかったとしても、その罪を問う事が出来なかったとしても、そうしてでも潰すべきなのかもしれない。

 これ以上の犠牲を出さない為、という事ならば。

 ……けれど、これが正解じゃないはずだ。

 きっと、まだ何かある。


 そんな俺に応えるように、心底楽しそうに、古泉さんは3つ目を口にした。

「そして、3つ目。別口から叩いて潰す。恐らく、『ソウルクリスタル取扱い違反』で叩けるはずだ」




「『ソウルクリスタル取扱い違反』」

「なぁにそれぇ」

 俺も分からなかったが、茜さんも分からなかったらしい。

 そんな俺達を見て、恭介さんが説明してくれた。

「まず、ソウルクリスタルの破壊・損傷は罪なんで」

「あ、じゃーさ、『ミリオン・ブレイバーズ』が作ったカルディア・デバイスに使われているソウルクリスタルが削り取られた一部だって証明できればいいってことだよね」

 ふんふん、と納得していた茜さんが、はた、と気づいたように慌てだす。

「え、それさ、もしかして……『うちはソウルクリスタルを破壊・損傷した訳では無く、それを使ってカルディア・デバイスを作っただけですぅー』とか言われたらアウト?」

 そして、表情一つ変えずに。

「アウトですね」

 ……それは、結局1つ目と同じで、証拠不十分になっちゃうんじゃないだろうか。

「なので、どっちかっていうと俺達が狙うべきは、『削れた』ソウルクリスタルじゃなくて、『くっついた』ソウルクリスタルなんですよ。それなら、間違いなくそのソウルクリスタルを使ったカルディア・デバイスを使っている……Lv10ヒーローを、しょっぴけるんで」


「日比谷さん曰く、『ミリオン・ブレイバーズ』のLv10ヒーローのソウルクリスタルは、あまりにも多面的過ぎる、まるで、複数の人からとってきたものを無理矢理繋ぎ合わせたようだ、という事でした」

「……そんなこと、できるの?」

 珍しく桜さんが反応したのは、恐らく……桜さん自身が異能を2つ持っているからなんだろう。

「日比谷さんが昔研究していたらしいんですよ。勿論、複数の人のソウルクリスタルを無理矢理繋ぐ、っていうんじゃなく……なんつうのかな、その、2人のソウルクリスタルを共有させる、みたいな。2人でパワーアップ、みたいな……とにかく、それも殆ど頓挫したんで、それ以来そっちの研究はされてない、っていうのが実情らしいんですけどね。できないとは言えないんですよ」

 その研究を『ミリオン・ブレイバーズ』内で進めていたら、十分あり得る、っていう事か。


「え、でもさ、Lv10ヒーローしょっぴいても何も変わらなくない?『ミリオン・ブレイバーズ』が知らぬ存ぜずすればさあ、そのヒーローだけの責任にできるじゃん」

 茜さんはそう言って、ソファに思い切り体を沈める。

 確かに、あの会社なら、ヒーローを切り捨てるのは得意だろう。

 ……でも。

「……大事に作って育てたLv10のヒーローを潰されたら、潰した相手を潰しにくる……っていう事ですか?」

「正解。そういう事だな。そして、そうなれば俺達に大義がある訳だからとりあえずそこで潰して……その後で、『ミリオン・ブレイバーズ』内の捜索、囚われていたヒーローの卵たちの救出や、残りの悪事を白日の下に晒す、っていう流れになる」

 そして、その時にはLv10ヒーローは居ない。

 その点、俺にとってかなり有利になると言える。

 ……当然、『比較的』だが。

「と、いうことだ。……真君。仮にもし、今回が駄目でも今後も、『ポーラスター』は『ミリオン・ブレイバーズ』を潰せそうなチャンスがあったら積極的に行こうと思う。君もヒーローの一員だ。付き合ってもらうぞ」

 ……違うのか。

 俺にとって有利になる、んじゃなくて、『俺達にとって』有利になる、のか。

「じゃ、そーいうことだから、真クン。君一人で楽しい思いはさせないからよろしくねん」

 茜さんが軽い調子でウインクを飛ばし。

「その技術、俺、気になるんですよね……盗めるかな。盗めたら……応用するとしたら……」

 恭介さんがぼそぼそ言いながら自分の世界に入り込み。

「私も、手伝うよ」

 桜さんがいつもの調子でぽつん、と言う。

「……ま、真君。じゃあ早速、君のヒーローネームを決めよう。君も『ポーラスター』のヒーローとして公に活動してもらわなくちゃいけないからな」

 さっきまで、『ミリオン・ブレイバーズ』との戦闘を思って緊張していたのが嘘みたいだ。

 ……楽しくなってきた。


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