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148話

「どうせこんなことになるだろうと思ってたぞ!『スカイ・ダイバー』!やっぱりお前、俺達に手柄を譲る気、無いだろ!?」

「まあまあ、そう怒ってくれるなよ、『ライト・ライツ』」

「怒るわ!なんなんだお前の所は!化け物揃いか!」

 朝食から数時間。

 昼時になって、他の事務所のヒーロー達が集まってきた。

 そして、案の定古泉さんが怒鳴り散らされていた。

 ……まあ、本気で怒っているわけでもないから、古泉さんもにこにこしているわけだけれど。

 そんな『ライト・ライツ』さんと古泉さんの所へコウタ君は駆けていくと、ちょいちょい、と『ライト・ライツ』さんの服の裾を引っ張った。

 思わぬ位置からの可愛らしい主張に意気を削がれた『ライト・ライツ』さんがコウタ君の方を向くと同時に、コウタ君は胸を張って堂々と言った。

「俺がやってやったんだぜ!」

 ……コウタ君はまだ十分に子供である。

 栄養状態が良くない状態で育ったからか、コウタ君もソウタ君もあまり背は高くない。

 ……つまり、俺から見てもそこそこ子供だが、古泉さんや『ライト・ライツ』さんから見たら多分、とてもとても子供なのだ。

 そんな子供が胸を張って嬉しそうに言ってきたら……。

「お、おお……うん、そうか、がんばったな……」

 流石の『ライト・ライツ』さんも、コウタ君の頭をなでるしかない。




 笑いを噛み殺しすぎて呼吸困難ギリギリになってしまった古泉さんを茜さんが回収していき、代わりに桜さんがやってきた。

「真君」

 そして、「ちょっと」というように俺の袖をつまんで引っ張るので、桜さんについていき、人の居ない方……食堂の方へ移動した。

「どうしたの?」

 やや深刻そうな顔をしている桜さんに話を促すと……桜さんは俺を見て、言った。

「……いないの」

「え?」

 何が?と聞く前に、桜さんは続けた。

「いないの。アイディオンが、これから行くところに、1体も」




 一瞬何のことか分からなかったが、すぐに桜さんの異能の事だと分かる。

「つまり、そういう未来が見えた、っていう事?」

 未来を見る異能で、制御できない部分……つまり、『一瞬』よりもずっと後の未来が見えた、ということだろう。

「アイディオンが居なかったなら、アイディオンを全部倒した後、っていう事は?」

「ううん、何もいなくて、おかしいね、って皆で言ってるところだったから……」

 成程、なら、桜さんの見たものは確かに『アイディオンの基地に行ったのにアイディオンが居なかった』という未来、という事になるだろう。

「……だから、私、お留守番していた方がいいかもしれない、と思って……」

 アイディオンが基地に居ない、という事が罠の可能性を考えて、という事か。

「とりあえず、古泉さんにも話してみよう。俺達が街に残る役になってもいいんだし」

 むしろ、他の事務所のヒーロー達は俺達を街に残したがるかもしれない。

 そろそろ俺達も手柄を取りすぎだし。

 ……いや、無いな。こちらから志願しない限りはそうならないだろう。

 彼らだって馬鹿じゃない。現実を見られない人達でも無ければ、自信過剰でも無いし、何より、人命を優先して考える、つまり安全策を取ろうと考える人達だ。

 なら、『何かあってもとりあえず『ポーラスター』が居れば大丈夫』というように考えて、俺達を基地に連れていきたがるだろうな。

 それでも志願すれば多分、街に残ることはできるだろうけれど。

「……見えたの、少しだけだから……本当に居なかったかは、分からないの。異能で隠れてたかもしれないし、そうじゃなくて、本当に居なかったかもしれないし、罠かもしれないし、ただ居ないだけなのかもしれないし」

 ああ、桜さん自身、どうするべきかが分からないからとりあえず俺に、という事だったのか。

「どう動いても大丈夫だ。だってコウタ君が居る」

「……あ」

 コウタ君が時間を止めてくれれば、その間に街へ戻ってくることも、その間に基地へ向かう事もできるはずだ。

「……だから、この相談はコウタ君にもした方がいい。……それから、恭介さんに相談すれば街のシールドの強化をソウルクリスタル研究所あたりからツテで頼めるかもしれない。街の方はそれで多少は何とかなるんじゃないかな。或いは、また鳥籠をたくさん作ってもいいんだし」

「そっか……うん、あの鳥籠、また作っておいた方が、いいかもしれない……うん。ええと……」

 そこで桜さんは少し言い淀んで、口を開きかけて、また言い淀む。

「……どうしたの?」

 俺が促すと、桜さんはちらり、と俺を見て、また少し考えて……やっと口を開いた。

「……あの、ね?真君が鳥籠を作って、コストで寝ちゃった事があったでしょう?」

 あった。

 尤も、翌日の朝に起きられたけれど。

「あの前、私、未来が見えたの」

 ……そういえば、あの時桜さんが妙に嬉しそうにしていたような気がする。

 何が見えたのか聞こうと思って寝てしまったんだったっけ。

「アイディオンが、皆いなくなる未来が、見えたの」




「……え?」

 突然、読んでいた漫画のネタバレをされたような、推理小説の犯人を教えられてしまったような、そんな気分になる。

 それは喜ばしいことではあるのだけれど……あまりに呆気なく言われてしまうと……こう、なんだろう……。

 ……しかし、桜さんの表情を見る限り、あまり喜ばしい話ではなさそうだ。

「アイディオンがね、戦いの果てに、居なくなるの。……桜が、咲いててね。綺麗で……そこで真君が」

 そこで桜さんは一旦口を噤む。

 形の良い唇が一度閉ざされ、それから、解けて薄い笑みの形になった。

「……教えてくれたの。『これでもうヒーローが要らない世界になった。もう戦わなくていいんだ』って」

 俺が、か。……桜さんの見た未来の俺は、その時どんな事を考えているんだろう。

「でも、それは多分、今日じゃないの」

「……まだ桜の季節には早い、か」

 少し表情を陰らせた桜さんにそう言えば、桜さんは1つ頷いた。

「だからきっと、今日、大きな戦いがある訳じゃないと思う」

「罠だったとしても、って事?」

「そう」

 成程。だからと言って手を抜いていい理由にはならないけれど、多少、心の安寧には役立ってくれそうだ。

「分かった。ありがとう。……でも、どうしてこの話を?」

 桜さんは少しきょとん、として……それから、頬を桜色に上気させた。

「……その、真君には聞いておいてほしかったの……」

 ……ええと……うん、その時が来たらきっと、分かるだろう。うん……。


「そっか。……うん。俺が生きてるうちにアイディオンが居なくなる、って分かって良かった。……でも、なら猶更、その未来を変えちゃいけないんじゃないか?」

「そう。……だから、私達、きっと、基地には行った方がいいと思う。コウタ君もいるから、きっと大丈夫だと、思う……」

 桜さんには未来が見えるが、その未来までの道筋が全て見える訳じゃない。

 バタフライ・エフェクトともいうが、何の関係もなさそうな、極々小さな何かが起きただけで、大きな何かが変わってしまう事だってあり得るのだ。

「……まあ、一応皆には話しておいた方がいいと思うよ」

「うん。そうする」

 桜さんがこくん、と頷いたところで、応接間の方から茜さんの笑い声が響く。

 ……何か面白いことでもあったんだろうか。あったんだろうな。

「じゃあ、行こうか」

「うん」

 桜さんが少し嬉しそうに俺の後をついて応接間へ一緒に戻る。

「……真君」

「ん?」

「……頑張ろうね」

 ふわ、と笑う桜さんが、どうしようもなく……ええと、駄目だ。やめよう。

「勿論」

 今は、次のアイディオン……『空っぽの基地』をどうするか、考えなくてはいけない。


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