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145話

 アイディオンの基地は地下でなくてはいけない、という決まりでもあるのだろうか。

 案の定、今回も地下だった。

 ただし、今回はいつもと違い……入り口が見当たらなかったのだ。

 おそらく、アイディオンがワープした先……つまり、実際に空間があって、アイディオンの基地になっている場所からかなり離れた位置に入り口だけあるのだろう。

 探しても見つからないものは仕方ない。

 仕方が無いので、その地点からほぼ垂直に穴をあける形で無理やり入り口を作って侵入する事になった。

「うっわあ、ほんとに垂直だ」

 茜さんの様に、飛行できる訳では無いヒーローは他のヒーローのシルフボードに相乗りしたり、他のヒーローの異能で下降速度を落としてもらったりしながら降りていく。

 茜さんは恭介さんのシルフボードの端に乗ることにしたらしい。

「……深い」

「底が見えないね」

 俺はいつも通りシルフボードに乗っているのでそのままゆっくり下降していく。

 俺の隣で桜さんも風に乗ってふんわり降りていくが……降りても、底には暗闇があるばかりなのだ。

「あ、明りつけます!」

 ヒーローの1人が異能で光の玉を浮かべてくれたが、それでも『そこが非常に遠い』事がわかっただけだった。

「……アイディオンって息つまりそーだよね、こんなとこに住んでちゃさー」

 茜さんの感想も尤もだ。

 とてもじゃないが……たとえ、どこかにきちんとした入り口があったとしても、こんなところにわざわざ住むメリットって……何なんだろうな。ここまでして見つかりたくないんだろうか……。




「っと、着いたみたいだな」

 延々と下降を続けた先に、やっと地面が現れる。

 見上げると、かなり遠い位置に星明りが見えた。

 ……ミラージュタワーを地面に埋め込んだよりも更に深く、俺達は潜ったんじゃないだろうか。

「……これ、うっかり全員下に降りたりしたら上で何かあった時にすぐ何とかできないですよね。そういう罠なんじゃないんですか、これ」

「あー、成程」

 一応、今回もまた、ヒーロー達は分担して基地の外、街、基地の中、基地の最深部……というように制圧・警戒作業を行う事になっている。

 恭介さんの言う通り、何らかの罠だったりしたら、引っかかっている間に街を襲われたときに対処できない。

 最悪、街にヒーローが居れば、時間稼ぎぐらいはしてもらえる。

「……まあ、最悪そういう罠だったとしても、なんとでもなるだろうしなぁ……」

 地下奥深く、というのはかなり不気味ではある。

 周りに濃く漂う暗闇と、切り立った壁、遥か遠くに見える空。

 どことなく、不安になる場所だが……そんなことも言っていられないしな。

「……こっちはちゃんとしてるみたいだな」

「吸収する前、とかだったら都合がいいけど、どーだかねっ!」

 暗闇の向こうから、アイディオンがやってきていた。




「『ライト・ライツ』!行け!」

「言われなくてもっ!『スカイ・ダイバー』!頼んだぞ!」

 今回は『ビッグ・ディッパー』が最深部へ進む役だ。

 ……駄目だったらやっぱり、『ポーラスター』が行く事になっている。「もう事務所の名前、『デウスエクスマキナ』か何かに変えたらどうだ」とは、『ライト・ライツ』さんの言葉だ。

 ……申し訳ないような、照れくさいような。

「んじゃ、私たちは久々に思いっきり暴れましょっかー、っと!」

 早速、アイディオンに飛びかかっていった茜さんに続いて、俺も手近なアイディオンに殴りかかる。

 強化された身体能力で、アイディオンを殴れば、あっさりとアイディオンはその姿を光に変え、後にソウルクリスタルを残すばかりとなった。


 最近、超高レベルアイディオンとばかり戦っていたから、このぐらいの低レベルアイディオンと戦うのはなんだか新鮮だった。

 特に俺は、身体能力が強化されてからは初めての雑魚との戦闘になったわけで……今までとは明らかに違う蹂躙っぷりに、自分自身でも驚いてしまう程だ。

 こんなにアイディオンって、弱かったっけ、なんて思ってしまう。

 ……つい、ほんの半年と少し前にはまだ、鉄パイプとシルフボードで何とかLv1や2のアイディオンを殴り倒していたのに。

 今は、当たるを幸いに鉄パイプを振り回していたって、Lv5や6は当たり前に、Lv8や9もそれにもう2、3発加えればあっさり、倒すことができるのだ。

 嘘を吐くのもうまくなった。

 息を吐くように嘘を吐いて、鉄パイプを増やしたり、炎を纏わせたり、アイディオンをいきなり現れた槍で串刺しにしたり、何の前触れもなく輪切りにしたり、とやりたい放題している。

 やっぱり、敵が多いとこういう視覚的な嘘を吐きやすい。

 今回は敵が多いから、特に……。

「……これ、いつまで続くんだろーね?」

 ふと、後ろを振り返れば、俺が散々アイディオンを倒してきたはずの位置に、またアイディオンが現れていた。

「……さあ……」

 ……今回は今回で、骨が折れそうだ。




「なかなか、多い、なっ!」

「そろそろ休憩にっ、したいんだけどっ!」

 そろそろ、アイディオンを延々と倒し続けて2時間になる。

 ノンストップで延々と、だから、そろそろ疲労が溜まってきているのだろう。肉体をそのまま武器にしている古泉さんと茜さんはそろそろ息が切れてきている。

「連鎖、させてるはずなんですけどね……」

 一方で、もう殴る蹴るを非効率的として諦めた恭介さんは、古泉さんの異能を『映し』て自分で回復しながら、アイディオンに傷を『映し』て戦っている。

 当然、1対1ではなく、1体多数で傷を『映し』ているのだから、アイディオンに負傷させるスピードはとても速い。

 ……そのはずなのに、アイディオンはずっと、減る気配が無い。

「これは『ビッグ・ディッパー』がなんとかしてくれないと何ともならない、かなっ?」

 もうここまで減らないとなると、奥で何かが行われているのだろう、と思えなくもないのだが、しかし、身動きが取れないのも事実だ。

 相手は雑魚だが、雑魚でも寄って集ってきたら1つの力になってしまう。

 俺達はできるだけそれを分断して、協力される前に1つずつ潰していくからいいのだが、こいつらを無視して先へ進もうとしようものなら、多分、面倒な事になるだろう。

「真クン、これ、何とかならない?」

「さっきから消しまくってますよ、一応は!」

 そして、俺はというと、もう嘘にバリエーションも何も必要ない、という所まで来ており、アイディオンが現れたら、その半分よりもやや少ない、ぐらいの数のアイディオンを『見えなく』して『消して』いる。

 それを数秒に1度のペースで行えば、アイディオンを簡単に減らしていけるはずなんだが……。

 ……それですら、アイディオンが増えるペースに追いつかない。

「……ちょっと、おかしい、と思う……」

 俺の後ろで俺の死角になる位置のアイディオンを倒してくれている桜さんが、不意にそう呟いて……続けた。

「アイディオン、増えてるんじゃなくて……戻ってる」


「戻ってる、って……」

 桜さんの言葉を聞いて、よくアイディオンを観察してみた。

 ……すると、成程、確かに、無数に居るアイディオンの中に数体、見覚えのあるものが居る。

 個性的な出で立ちをしているアイディオンの中で記憶に残っていたものが数体、といったところだから……ここに居る多くの、無個性な出で立ちのアイディオン達は……『戻って』いても、気づかないわけだ。

「……成程、な。アイディオン達は増援されてきている訳でもなんでもない。……ただ、倒されてもまた戻ってくる、というだけ、か」

 ……俺達は、気づかないうちに奇妙な敵と戦っていたらしい。


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