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144話

 恭介さんの作業の方が長引いているのか、コウタ君のソウルクリスタル抽出がうまくいっていないのか、コウタ君が戻ってくる前に全員起きてきた。

「あ、おはよ。やっぱ真クンって早起きよねん。……ん、どしたの?」

「あ、いや……」

 どう説明したものかな、と思っていたら、そんな俺の考えなど知らない茜さんは真っ直ぐ恭介さんの部屋のドアを開けた。

「おーっす恭介君おは……」

 そして、珍しくそこで茜さんは時が止まったかのように硬直してしまった。

「……よう。……ね、あのさ。一応聞くけど……」

 茜さんの反応から室内が気になったので、俺も部屋の中を覗いてみる。

 ……そこには、ベッドに倒れた恭介さんと恭介さんの上に乗っかっているコウタ君が居た。

「……何、やってんの?え、そういう趣味?」

「誤解です。……実験に俺が使われてるだけで、俺は何も……」

「あああああわっかんねえええええ!」

 全く状況が分からない俺達は、頭の上に疑問符が浮かぶばかりである。




「じゃあ、コウタ君、ソウルクリスタルできちゃったの!?」

「んー、まあ、一応……そういう事、だよな」

 全員起きてきたところでコウタ君が見せてくれたのは赤い小ぶりなソウルクリスタルだった。

 ただし、その形が珍しい。

 ソウルクリスタル、というと、やはりある程度形が決まっている。

 俺は楕円だし、桜さんはひし形だ。六角柱や球なんかもある。

 ……つまり、カットしたり磨いたりしたような、人間が手を加えた宝石のような……その石が美しく見えるような形をしているのだ。普通は。

 しかし、コウタ君のソウルクリスタルはおよそ、そういった形状からはかけ離れていた。

「恭介君ですらソウルクリスタルは割と普通の形してんのにねー」

「メビウスの輪、かな、これは」

 それは、赤い透き通った石なのに、捻じれた輪の形をしているのだ。

 どこまでも人工的で、美しい形でもあるが……風変りであることは間違いない。

「……で、だ。コウタ君の異能について、聞いてもいいか。ソウルクリスタルがあるっていう事は、異能が使えるっていう事だろう?」

 古泉さんがコウタ君にソウルクリスタルを返しつつ尋ねると、コウタ君はきまり悪そうにもじもじした。

「それが、よく分かんねえんだよな……」




「え、分からないって……コウのソウルクリスタルなんでしょ?」

「俺のだ。もちろんだ。ちゃんとそこは分かるんだけどよ……なんの異能なのか、分かんねーんだよ」

 なるほど、それでさっき、コウタ君は恭介さん相手に『実験』していたのか。

 あれはコウタ君の異能が何なのかを試すためのものだったんだろう。多分。

「みんな、ソウルクリスタルが手に入ったら異能も使えるもんなのか?」

 コウタ君の言葉に、全員首を捻ってしまう。

 俺は……異能、というと、使えていた覚えがあまりない。

 ……というか、異能が異能だと自覚できていなかったから、異能を使っていたとしても気づいていないわけで……。

「私はもう、本能の叫ぶままにとりあえず叔父さんに投げキスしたら叔父さんがぶっ倒れたから、あー、これかー、って」

 古泉さんが不憫でならない。

「俺は異能が分かったのがヒーロー適正発覚のきっかけだったんで……」

 恭介さんは……いじめられて殴られていた時に異能が発動して、芋づる式にヒーロー適正が分かったんだったっけ。

「一度目は検査して、訓練して……ってかんじだったが、二度目は気づいたら使えていたな。一度ソウルクリスタルが砕かれた後、アイディオンともう一度戦おう、と決めて、とりあえず異能が無くても殴ればいいじゃないか、と思ったら、もうその時にはなんとなく使い方も分かっていたしなぁ。……三度目は勝手に発動してたな」

 古泉さんは何せ、1人で通算3つのソウルクリスタルを使ったわけで……。その分、経験も多いのだが、今のコウタ君へのアドバイスにはならなかったようだ。

「……私は、慣れるまでにちょっとかかった、かな」

「え、と……どっちの異能で、か、聞いていいか?」

「うん。えっと、見える方」

 一方、桜さんのケースはコウタ君の参考になりそうだった。

「風を操る方は、すぐ使えたんだけれど……見える方は、最初、よく分からなくて。制御もできなかったし、今みたいに、ほんのちょっと先を見る、なんてできなくて、突然、未来が見えるだけで、その遠さもまちまちで……。だから、突然、今まで見ていたものと違う景色が見えてね。びっくりしてたら、すぐに元の景色に戻るの。最初は幻覚かと思ってた」

 ……確かに、急に『未来』が見えても、それが『未来』だなんて、普通は思わないだろう。

「じゃあ、どうしてそれが未来だって、分かったんだよ?」

「えっとね……」

 それは俺も気になるな……。

 桜さんは、ちょっと笑って、続けた。

「私にね、すごく素敵な女の人が話しかけてくれて、『うちにおいでよ』って言ってくれるのが見えた事があって……その次の次の次の日に、その人に会って。その瞬間は『見た事あるな』ぐらいだったんだけど……お話ししてるうちに、『え、じゃあうちにおいでよ。一応うちも零細だけどヒーロー事務所だし』って、言ってくれて。その時、私が見てたのは未来だったのか、って……電気が走るみたいに異能の事、分かったの」

「あ、それって私が桜に初めて会った日の事!?」

「うん」

 成程、桜さんが初めて『見た未来』が『未来』だと気づいたのは、茜さんとの出会いだったのか。

 なんとなく茜さんが自慢げだ。

「それからちょっとずつ制御できるようになって、1月ぐらいで、一瞬先なら自分で見られるようになったの」

「じゃ、俺も気づくまでに時間かかるのかなー……くっそ、そんなことしてたらアイディオンが先にいなくなっちまうよー!」

 結局役に立てねーじゃん!と、コウタ君はじたばたしている。

 ……コウタ君の気持ちは痛いほど分かるし、気の毒にも思うが……後輩の姿が、ちょっとだけほほえましくもあった。




「……うん、まあ、その、コウタ君には悪いが、今回も留守を頼むよ」

「おーおー任せといてくれよチクショー」

 コウタ君には悪いが、俺達もさっさとアイディオンを倒してしまわないといけない。

 それはコウタ君にも分かっているのだ。ふてくされてはいるが、「気を付けてな」と、手を振って見送ってくれた。


 俺達はそのまま、集合場所へ向かう。

 そこで他の事務所のヒーロー達と落ち合って、瞬間移動してもらう算段だ。

「あ、どうもこんばんは!元気もりもり『ガール・フライデイ』ですよへへへへへへへへへ」

「……疲れてるな、こいつ」

「終わったら休んでいいよ。終わったら」

 ……瞬間移動役の『ガール・フライデイ』さんは多数のヒーローを一度に移動させる、というハイコストな事を一日に何度もやる羽目になる訳で……今までの待ち時間も、この人の回復待ちだったわけだけれど、本当に限界ギリギリの休息だけで来てくれたんだな、という事が分かる表情をしていた。……お疲れ様です。

「さて、残すところ、アイディオンの大本候補も2つとなった。……今回とその次。どっちかでアイディオンの根本を断ち切れる事を期待しよう」

 お互い、やることは分かっている。

 突っ込んで、倒す。簡単に言ってしまえばそれだけの事なのだ。

 ……それが難しいのだけれど、作戦なんて立てても、どうせ戦闘に入ったら臨機応変だらけなのだから。

「じゃあ、全力を尽くそう」

『ビッグ・ディッパー』の『ライト・ライツ』さんの言葉に、全員が頷く。

「では、しゅっぱーつ!」

 そして、瞬間移動が発動し……俺達は、見知らぬ場所へ移動する。

 ……できれば、朝が来る前に戦いが終わっているといいな。


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