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138話

 今回俺達が突っ込む先は、地道にアイディオンに発信機を付けることで実現した『アイディオンの行き先調査』で知れた場所だ。つまり、やってきた(のか発生したのかは分からないけれど……)アイディオンがワープしたり、飛んで行ったりして帰っていく場所の内の1つである。

 3か所あるうちの1か所で、

 その分、入り口も巧妙に隠してあった。

 単なる瓦礫に思われた一山を破壊してみたら、どうもその瓦礫の山自体が幾重にも重ねられた扉だったらしい。その先に、ぽっかりと入り口が現れた。

 俺達はそれぞれの移動方法で中へ入ると、ひたすら奥へ進んでいった。


 中は、驚くほどに何も無い空間だった。

 あるものと言えば、ただ、壁と床と天井だけ。

 それだって、積み重なった瓦礫や、もともと地面にあった石や土をただ直方体にくりぬいただけのようなもので、壁や床や天井がある、というよりは、地中に『何もない空間』がぽん、とくりぬかれて存在している、と言った方がいい気がする。

 きっと、そういう異能で地中をくりぬいて作った空間なのだろうと思われた。

「……静かだな」

「お留守かなー?」

 そして何より、アイディオンが居なかった。

 今までの基地なら、大抵は入ってすぐに低レベルアイディオンとの戦闘、乱闘になったものだが……やっぱり、超高レベルアイディオンを散々排出した後だから、アイディオンの数自体が少ないのだろう。

 これは俺達の仮設を補強してくれる光景だった。

 つまり、低レベルのアイディオンを集めて、それらのソウルクリスタルをある1体が全て吸収し、1体の超高レベルアイディオンにする、という。

 そして、そのために低レベルアイディオンをわざわざ集めたり、『ミリオン・ブレイバーズ』なんかと組んで人造ソウルクリスタルの研究を行ったりしていたわけだ。

「……まあ、普通に考えたら、この先に超高レベルアイディオンがお待ちかね、っていう所だろうな」

 ここにいたアイディオンを全てを吸収した超高レベルアイディオンが居る可能性を俺達は最優先に考えている。

 ……もちろん、ここにいたアイディオンが全員、街に行ってしまい、そこでヒーロー達にあっさりやられてしまった、という可能性も十分に存在するが。

 それでも最悪の事態を想定しておくに越したことはないだろう。


「それじゃあ、今回はうちの事務所が活躍させていただきますわ。もし私たちがしくじった時には、よろしくお願いいたします」

 そして、ある程度まで潜ったところで、『ノヴァ・ブレイズ』のヒーロー達が先に行った。

 ヒーロー全員でなだれ込んでタコ殴り、という事も考えたのだが、流石にそれは何かあった時のリスクが大きすぎるので今回は無し、という事になり……そして、どこがやるか、という話になってしまうと、「『ポーラスター』は最近活躍しすぎではなくて?たまにはこちらにも出番をくださいな?」という事になってしまった。

 ソウタ君が情報を搾り取れる異能もちなので、『ポーラスター』としては是非ここも担当したいと主張したのだが、『ノヴァ・ブレイズ』にも、最近情報を毟り取れる異能もちに進化したヒーローが居る、という事だったので、今回は役目を譲る事になったのだった。

 ……そのかわり、というか、対策は一応してある。

 もし、何かあった時は全て古泉さんに連絡してもらう事になっているのだ。

 そして、古泉さんが内容を判断し、俺に伝え、俺が他全員に伝える、と。

 その時に嘘を挟むかもしれないし、そうでも無いかもしれない。

 ……古泉さん、というトラップを一段用意することで、より俺の異能を有効に使えるはずだ。




『ノヴァ・ブレイズ』のヒーロー達が行ってしまうと、残ったヒーロー達は周囲、後方の警戒にあたるのみとなった。

 一応、街の方も警戒している。街には『サウザンクロス』が残ってくれているのだ。

『スターダスト・レイド』が基地の外、『ビッグ・ディッパー』と『イリアコ・システィマ』と『ポーラスター』が基地の中。そして、『ノヴァ・ブレイズ』は最深部へ。

 俺達が最深部に踏み込むのは、『ノヴァ・ブレイズ』から連絡があった時か、30分経っても音沙汰が無い場合だ。

 それまでは待機、という事になる。

「……しかし、ここまで何もいないとなぁ……」

「もうちょっとなんか居ると思ってたのにな、残念」

 アイディオンが少なくなっているだろうな、という予想はしていたが、まさかここまで空っぽだとは思わなかった。

「これなら、街の警護にもう1事務所おいてきても良かったかもなぁ」

「暇だもんね。私達、働く気まんまんできたのにこれだもんね」

 早速暇を持て余し始めた茜さんが近場の壁をいじり始めた。

 壁も床も天井も、地面をそのままくりぬいたようなものなので、地層が綺麗に見えるのだ。

「あ、これ、アスファルトだ」

「崩壊する前はここが道だったんでしょうね」

「ガラスもある、ね」

「窓だったんでしょうか……」

 ここら辺も、昔は街の一部だった。

 その歴史がこうしてアイディオンの基地の中に表れている、というのは、いささか皮肉にも感じる。

 ……そうして俺達は壁を見ながら話したりして、『ノヴァ・ブレイズ』からの連絡を待った。




 古泉さんの端末が鳴ったのは、そんな時だった。

「はい。……ああ、そうですか。はい。……いえ。今はとにかく、休んでください。ええ。……はい。では」

 古泉さんはそこで通話を切ると、俺を呼んだ。

「今、『ノヴァ・ブレイズ』が撤退した。瞬間移動のソウルクリスタルを使い捨てで使って、今は事務所に居るらしい。負傷者は居るが、死者は居ない。……それから、相手のアイディオンだが、今まで以上に強い、とのことだ。……鳥籠を破壊されたらしい。……嫌な予想だが、もしかしたら、真君の異能を封じる何らかの異能を持っている可能性がある」




 俺は古泉さんから聞いた内容を他のヒーロー達に説明した。

『鳥籠を破壊された』という部分を変更すると、『ノヴァ・ブレイズ』が撤退した理由が分からなくなる。

『ノヴァ・ブレイズ』が撤退しなかったことにしてしまうと、本当にアイディオンが俺の嘘を破る異能を持っていた時、取り返しがつかない。

 アイディオンに『ノヴァ・ブレイズ』が勝った、というような嘘も、同じリスクを抱えている。

 ここはアイディオンと関係なく『ノヴァ・ブレイズ』のヒーロー達の安全を確保するのが第一だろう。

 ここは、古泉さんの言う通りの情報を『嘘』として流すのがベストだ。

 ヒーロー達は俺からの情報に多少表情を引き締め、真実として受け止めたらしい。

 ……たとえ、古泉さんが嘘を吐いていたとしても、『ノヴァ・ブレイズ』の人達は助けられるだろう。


「……さて。じゃあ、俺達の出番、ってわけだが。……生憎、うちには情報を毟れるような異能持ちが居ない」

「また『ポーラスター』にはお世話になりますが、いいですか」

 そして、ついに俺達の出番、というわけだ。

「ああ。また出番を貰ってしまって、悪いなぁ」

「悪いとも思ってねえ癖に……」

 古泉さんは他の事務所のヒーロー達と簡単にやり取りすると、俺達に指示を出す。

「……さて。俺達の出番らしい。相手は強いぞ。覚悟してかかろう」

 至極あっさりとしていて、それでいて緊張感が無い訳では無い古泉さんの言葉に、俺達も表情を引き締めて頷く。

「じゃあ、行こうか」

 古泉さんを先頭にして、俺達は最深部へ進んでいく。

 俺達も駄目だったら、次は『イリアコ・システィマ』と『ビッグ・ディッパー』が出る予定だ。

 ……もちろん、彼らに出番を分けるつもりはさらさら無いけれど。




 そうして、俺達は地下を進み……最深部らしき場所へ到達した。

 扉も何も無い、ただの通路の先に、比較的開けた空間があり……そこに、それはいた。

「……あれが、アイディオン?」

「見た事の無いタイプ、だなぁ……」

 茜さんと古泉さんの言葉に反応するように、『それ』は……『それら』は、こちらを見た。

 《次の獲物か》

 複数のものであり、単一のものであるはずの視線が俺達に向けられる。

「……うわあ、きもっ」

 その動きに茜さんがあんまりな感想を零すが、それも仕方ないかもしれない。

 そのアイディオンは、複数のアイディオンを無理やり『合成』したかのように……巨体に、複数の頭や手足を備えた、化け物の風貌をしていたのである。


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