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129話

「ちなみに、ワープして特定の場所に集められたアイディオンは、その後殆どが発信機の反応を途絶えさせてます。つまり、ソウルクリスタルが消えてるんだと思いますけど、まあ、つまり、死んでるんですよね」

 ソウルクリスタルの動力が消える、という事はアイディオンの死を意味する。

 そして、そんな状況に俺達は覚えがありすぎる。


「……さて。ここでみんなの意見を聞こうか。アイディオンが一か所に集まって何をしていると思う」

「アイディオンの集会だったら楽しい、よね……」

「あー、うん、ツナ缶持ってくと好感度アップしたりしてね?」

 いや、猫じゃあるまいし。

「ツナ缶はともかく、集会っていうのはアリじゃねーの?ほら、あいつらだって作戦会議したりするんだろ?」

「……するのかなあ?大抵のアイディオンって、単騎出陣してない?」

「いや、最近は集団で来てたりするじゃん」

 ……アイディオンは基本的には、1体で現れる。

 たまに2、3体で居ることもあるが、大体は単騎出陣なのだ。

 そして、更に例外があるとすれば……アイディオンの集団侵攻。

『ミリオン・ブレイバーズ』騒動の時に、集団でアイディオンが一斉に襲ってくる、という事があった。

 ああいう事のためにアイディオンが集まっている、と考えるのもアリだろう。

「吸収するためじゃないんですかね、あれ」

 ……が、多分、こっちの方がしっくりくる。

「アイディオンが高レベルになるにはソウルクリスタルが必要で、そのためには人造するなり、ヒーローやアイディオンと戦って勝つなりしなきゃいけない。……あるいは、そうしなくても『吸収』できてしまうらしいが。……そして、アイディオンの基地には大抵、超高レベルのアイディオンが1体いる。……超高レベルアイディオンを作ることがアイディオン基地の目的だとしたら……」

 アイディオンが一か所に集まる理由、それは、ある強いアイディオン1体を作ろうとしているから、という理屈はしっくり来てしまった。




「あー、アイディオンが最近少ないのってそれなのかな」

 夏過ぎから、アイディオンの数は減っていた。

 前は、ヒーローでも無い俺がシルフボードと鉄パイプで小遣い稼ぎできる程度に居たアイディオンも、今やヒーロー同士で取り合わなきゃいけないぐらいには減っている。

 アイディオンを思う存分倒しているのは、アイディオン基地に乗り込んでいる星間協会のヒーロー事務所ぐらいなものだろう。

『ポーラスター』だって、アイディオン基地への乗り込みが無ければ、その月のノルマを達成するのが難しい位なのだから。

「少なくとも、前……真君が来るよりも前ぐらいには、アイディオン基地への攻撃作戦なんて、1年に1度できればいいレベルだった。なのに、ここの所は2月に1度ぐらい、いや、それ以上のペースだ。単に基地を発見するのが速くなった、と考えればいいかもしれんが……超高レベルアイディオンが増えている事といい、アイディオンが集団侵攻してきたことといい……大きい変化の前触れなのかもしれんなぁ」




 不吉な予感になんとなく空気が沈んだ所で、おずおずとソウタ君が手を挙げた。

「『ソウルクリスタルの吸収をヒーローに勧めた奴』についてはアイディオン達に賭けの代償として教えてもらっても、誰も知らなかったみたいで、分かりませんでした。……けれど、ワープしないアイディオンとワープするアイディオンの違いは分かりました。ワープしないアイディオンは一度集会所に行って、ある程度ソウルクリスタルを吸収して強くなったアイディオン、ワープするアイディオンは『生まれたての』アイディオン、なんだそうです」

 ……ソウタ君の台詞を聞いて、俺達は考え込んでしまった。

 アイディオンが『どこへ行く』のかは分かった。

 一応便宜上『集会所』『基地』と呼んでいるが……つまり、アイディオンの集まる場所へ、だ。

 しかし、俺達は、アイディオンが『どこから来る』のかは知らない。

 ましてや、『生まれたての』アイディオン、なんて言われても……そもそも、アイディオンってどうやって生まれるの、という疑問が大きく立ちはだかるばかりなのだ。


「え、アイディオンって生まれるの?やっぱ卵とかから?」

「人造アイディオンはソウルクリスタルから生まれる、けど……」

 そもそも、俺達はアイディオンが『生まれる』もの、という感覚が無い。

 どこからかやって来るものであり、或いは、どこからか現れるものだった。

 そして、俺達と同じような生物である、とは到底思えないのだ。ソウルクリスタルが消えたら消えるし……あれは生物、という括りにはできないと思う。

「あ、『生まれる』っていっても、僕たちみたいな『生まれる』じゃないみたいです。……発生する、とか、湧く、とか……そういうかんじ、みたいで。……その」

 ソウタ君は、非常に言いにくそうに、そこで一回口を閉ざした。

 そして、全員の視線を受けて、ようやく、それを口にする。

「人の意志が、アイディオンになるんだそうです」




「意味が分からん……」

「意志ってなんだっけ、実体あったっけ……」

 ソウタ君の言葉に、俺達は全員頭を抱える羽目になった。

「え、それ、解説とか、無し?」

「アイディオンにとっては当たり前の事みたいです。なんで飛べるのかを鳥が気にしないみたいに、アイディオンも人の意志から生まれることに疑問を持たないみたいで……」

 それで、アイディオンにいくら説明させても理解できない、と。

「かろうじて、人がヒーローになる時とか、ヒーローにならなきゃいけないような時に強い意志を生む、っていう事が分かりました」

 意志が集まって実体を成す、という事はもうおいておこう。多分、俺達には理解できない。

 どちらかと言えば、問題は後ろの方。

 人がヒーローになる時にアイディオンも生まれていく、という事だろう。


「やっぱりヒーローはこの世界に不要だな!」

 古泉さんは嫌な意味で『ヒーローの要らない世界を作る』の理念が裏付けされてしまってげんなりしているようだった。

 俺もそう思う。

「すべての元凶はヒーローですか……」

 アイディオンから人を救うために人がヒーローになるのに、ヒーローになる度にアイディオンが増える、となったら、もうやっていられない。

「いや、ヒーローが生まれる原因はアイディオンだったんじゃない?だってさ、ヒーローが出てくるより前にアイディオンが襲ってきたわけでしょ?」

 ……しかし、ヒーローよりアイディオンが先だったことも事実なのだ。いや、『多分』。

 ヒーローがアイディオンより先に現れたのに、隠れていた、という可能性も十分に考えられるし、そのあたりは永遠に闇の中だろう。

「……人がヒーローになる時って、アイディオンにやられそうになった時、だよね……」

 そして、桜さんの言う通り……アイディオンに傷つけられて、大事なものを奪われて、ヒーローになる。

 そしてヒーローになれば、アイディオンが増えるのだ。

「アイディオンが人間を滅ぼそうとしないのはそういう事だった、って事で……くっそ、胸糞」

 アイディオンは人間を滅ぼそうと思えば、すぐにでもできただろう。

 それをそうしなかったのは、人間が滅びたらアイディオンが生まれなくなるからだろう。

 けれど、解決策は単純明快だ。

「……まあ、それなら話は早いな。『ヒーローの要らない世界』になれば、アイディオンも自然と生まれなくなる」

 アイディオンが居なくなって、ヒーローが生まれなくてもいいような世界になればいい。

 俺達の方針が変わることは無いのだ。




「とりあえずは今回分かったアイディオンの集会所に殴り込んどきゃいいって事でしょ?アイディオンが強くなろうとしてるなら、それより前に叩き潰すのみ、って事でさ!」

 茜さんがどこまでも明るく楽し気にそう言えば、暗い空気も消し飛ぶようなかんじがする。

 愚かしいまでに真っ直ぐな手段だが、とりあえず片っ端から潰していく、というのは十分有効な手段だろう。

 街にアイディオンが侵攻してくる前に、アイディオンを潰す。

 それがアイディオンを減らす一番の策のような気がする。

「あ、それなんですが、俺に考えが」

 そして、珍しく恭介さんが手を挙げた。

「今まで散々アイディオンに発信機つけてるじゃないですか」

「付けてるね」

「多分、バレて外されてるんじゃなくて、アイディオンが吸収されてるわけですよ」

「そうだね」

「爆発する発信機とか付けといたら面白くないですか」

 ……成程、ヒーローが現れる訳でも無く、不意打ちを入れられる、という事か。

 それは確かに有効かもしれない。

 アイディオン本体へのダメージにならなかったとしても、基地を破壊したりするのには役立ちそうだし。

「それでソウルクリスタルの破壊までできれば、相手の戦力を削ぐ事もできるな」

「警戒されるのも、爆発させてすぐ突撃すればいい話だよね」

 爆弾を送り付けられるアイディオンは果たしてどんな反応をするだろうか。

 超高レベルアイディオンが一発二発の爆弾でやられてくれるとは思えないが、多少は混乱してくれるんじゃないだろうか。

 それで統率が取れなくなったりしたら、こちらのものだ。

 戦術としてはヒーローってよりはヒーローじゃない方っぽいけど……この際、なんでもいいか。


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