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115話

 翌日。

「……うー、私は依頼かー……なーんでこー、私向きの依頼ばっか……」

「しょうがないだろう。むしろ好都合だと思って頑張れよ、茜」

「わーってるって、あー……いいなあ、いいなあ……」

 朝一番に急遽舞い込んできた依頼を片付けに、茜さんは窓から飛び出していった。

 茜さんは誹謗中傷の件もあるし、できるだけ外に出て、アピールできる職務を行った方がいい。

 こういう時にできるだけ引きこもってほとぼりが冷めるのを待つ、という選択肢もあるはずだけれど、茜さんの頭にそういう選択肢は無いようだ。

 茜さんが気にしないなら、俺達が気にすることでも無い。

 俺達はぶつぶつ言いながら出ていく茜さんを見送って、俺達は俺達で準備を始めた。




 昨日のうちに、古泉さんは星間協会で連絡を取り合い、次のアイディオン討伐に向けて行動を開始していた。

 今、俺達にある手がかりはほとんど0に近い。

 人造アイディオンの一件で、知れているアイディオンの基地は全部潰してしまった。

 それ以外、となると、金鞠さんもロイナも知らないらしいので、しょうがない。俺達は一計を講じることにしたのだ。


 始まりは、夕食の席でコウタ君が言った言葉だった。

「そーいえばさ、アイディオンって、なにやってんだろ」

「……何、って?え?アイディオンもご飯食べたりおフロ入ったりするのかな、って話?え?」

 コウタ君の零した言葉に、茜さんがそんな反応をするものだから、微妙に想像してしまった。

 鮭の塩焼きをつつくアイディオン、風呂に入って一日の疲れをとるアイディオン……。

 晩酌し始めるところまで想像してしまったところで、やっとコウタ君が内容の訂正を行った。

「いや、そーじゃなくてさ、街に来て、人殺したり建物壊したりすんのは分かるんだけどさ、街以外の……廃墟とかにも出るじゃん、あいつら。そーいう時って、何やってんだろうな、って」

「街に出るアイディオンもだよね。街に来たらヒーローに殺されるってわかってるはずなのに、街に来てるから……うーん、やっぱり捨て駒って事なのかな……?」

 ……コウタ君とソウタ君は首をかしげているが、これは俺達も知らない。

 何故、アイディオンはわざわざヒーローの居る街にやってくるのか。

 ……高レベルなら分からないでもない。

 しかし、Lv1のアイディオンがわざわざ単体で街に来る理由がわからない。

 そして、ましてや……廃墟エリアくんだりまで来て、ふらふらしている理由はもっと分からない。

「……アイディオンって、ヒーローに見つかったらすぐ、倒されちゃうよね……」

 そして更に、桜さんがぽつん、と零して……俺達の考えは、全員同じ方向へ進んだらしい。

「……あいつら倒さずにほっといたら、どうなるんだろうなぁ……」

 俺達の、アイディオン観察の始まりだった。




 アイディオンの研究が進んでいない1つの理由として、『アイディオンが強いから』というものがある。

 アイディオンを観察したり研究したりするための武力が、研究員には足りないのだ。

 そして、アイディオンを観察したり研究したりするための武力が十分にあるヒーローはアイディオンを見たら、研究より先に倒すことを優先してしまう。

 そもそも、研究の知識や技術が足りない、研究意欲が無い、という事もあるのだろうけれど……。

 また、アイディオンを観察する余裕が無い、という理由もある。

 アイディオンを見たら、まずは逃げる。戦えるなら戦う。

 アイディオンも人間を見たら襲ってくるのだ。それを観察するなんて、不可能に近い。

 つまり、最初からアイディオンを観察する目的でアイディオンに近づかなければいけなくて……そして、そんな状態でアイディオンを放っておいて人に危害を加えでもしたら……という事だ。

 ……というか、放っておいたら人に危害を加えるものを安全に観察したりするためには、そのぶん目が必要で、つまり、複数のそこそこに戦闘力の高いヒーローが必要で……そんなことをしていられる暇があるヒーロー群、というのは、滅多にいないのだ。

 大体、金にならないし。

 ……実は裏でこっそり大手がアイディオン調査を行っていたとしても俺は驚かないけれど。

 けれど、少なくとも、公にアイディオンの生態が調査されて、まともな結果を得られた、という例は無い。

 だからこそ……俺達はアイディオンを放っておいて、こっそり見ていることにしたのだ。




 茜さんは残念ながら不参加だが、俺達は全員、アイディオン観察に参加する事になった。

 用意したのは、恭介さんが作った発信機。

 ソウルクリスタルから動力を得て動くもので、アイディオンやヒーローにくっつけている分には電池切れ等々を心配しなくていいという代物だ。

 俺達は今回、これをアイディオンに付ける。

 そして、その上でそのアイディオンが『他のヒーローに倒されないように守る』のだ。




「……あ、居た」

「Lvは……4ですか。丁度いいんじゃないんですかね」

 そして、俺達が連れ立って廃墟エリアを散策し始めて30分。

 ちょうどいい具合にアイディオンが見つかった。

「……じゃ、行ってきます」

 こういう時は俺の出番だ。

 俺の姿が見えないように幻影をかけて近づいて、アイディオンにそっと発信機を取り付けた。

 そして、そのままそっと戻ってくる。

「ただいま戻りました」

「お、速かったな。……さて、じゃ、俺は街の方を警戒だな」

「私も、街の方……」

「俺は廃墟の外側ですか」

「俺達は上空から見てるぜ!」

「真さん、じゃあ、あとはよろしくお願いします」

 そして、そのまま俺は物陰で待機し、他のヒーロー達はそれぞれ、『ヒーローの警戒』に向かっていった。

 一応、星間協会には『今日アイディオンに発信機つけて実験するから廃墟エリアでアイディオン狩りしないでくれ』とは言ってあるが、それ以外の中小や、大手となると、そういう事を言うわけにもいかない。

 という事で、俺達はアイディオンを守るためにヒーローを警戒する、という、本末転倒のような事をする羽目になっているのだった。

 桜さんと古泉さんは、大手のヒーローの多くが来るであろう方向、つまり、街の警戒に当たる。

 ヒーローが来たら、すぐに2人が出て行って話をつける、という事になっている。

 恭介さんは廃墟エリアの、より街から外れた方向だ。

 こちらからヒーローが来る可能性はほとんどないが、一応、念のため。

 そして、コウタ君とソウタ君は上空から。

 Lv4のアイディオン程度なら、上空130mぐらいまで上昇してしまえば気づかれることも無い。

 2人にはシルフボードに乗って上空からアイディオン周りを警戒してもらう事になっている。

 そして、俺はアイディオンそのものの警戒。

 つまり、アイディオンが人に危害を加えたりしそうになったら実験を中断してアイディオンを倒す係だ。

 ……あるいは、続行可能なら、続行させる。

 その為に、幻影を使える俺がこの役に付いたのだ。

 ……さて、アイディオンは放っておくとどうなるのだろうか。




 アイディオンは、しばらくそこらへんをうろうろしていた。

 ……特に、何を壊すでもなく、どこへ行くでも無く、ただ、そこらへんをうろうろしたり、立ち止まったりしている。

 よく考えたら、こうやって何もせずにアイディオンを眺めるのは初めてだった。

 ……こうして、しばらく俺はのんびりとアイディオンを見守ることになった。




 こうしてのんびりのんびり、と時間が流れていった。

 ずっと、アイディオンは何をするでもなく、時々立ち止まったり、またうろうろしたり、を繰り返すばかりだった。

 ……変化があったのは、観察を始めて40分が過ぎた頃。

 アイディオンは、突然その姿を消してしまったのだった。

 あまりにも急で、見間違えか何かかと思った。

 しかし、どこにもアイディオンはいない。

「真さん、アイディオン、消えたよな?」

「どこへ行ったんでしょうか……?」

 コウタ君とソウタ君も消える瞬間を見ていたらしい。

 しばらくして、古泉さんと桜さん、恭介さんも合流して、全員で首を傾げたのだった。

「とりあえず、発信機をたどってみればどこへ行ったかは分かりますから、一旦事務所に戻りましょうか」

 ここに居ても仕方ない。俺達は首を傾げながら事務所へ戻ることにした。




 事務所に戻って、すぐに恭介さんは部屋へ向かい、俺達もぞろぞろと恭介さんの部屋に押し掛ける。

 すぐに操作できるようにしてあったらしいPCは、ほとんど間をおかずに発信機の情報をディスプレイに表示した。

「……これは……廃墟エリアの西の端ギリギリ、ってところですか」

「この辺りに基地があると考えるべきだろうなぁ」

 ……消えたアイディオンは、どうもアイディオンの基地に行ってしまったらしい。

 成果が無くて帰った、という事だろうか。

 しかし、なら、廃墟で何の成果を上げようとしていたのだろう?

「……あ、消えた。発信が途絶えましたね」

「発信機に気付かれたのか」

 なら、基地の場所が割れた事もばれている、という事になる。

 叩くなら今すぐ行った方がいいだろう。

 しかし、かなり目立たない場所につけた発信機が、こうも早く見つかるものだろうか?

「……あるいは、アイディオンのソウルクリスタルが消滅したか、ですね」

 ……恭介さんの言葉に、俺達は顔を見合わせ……ますます、首を傾げるしかなかった。


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