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114話

「……つまり、真君が『大手が中小のヒーローの誹謗中傷を行っている』っていう嘘を吐く、ってことか?」

 大手がこのネガティブキャンペーンを行っているなら、それは当然『嘘』ではない。あくまで『真実』だ。

 しかし、その上で俺が『嘘』を吐く価値はある。


『真実』には2種類あると思う。

 1つは、人に広く認知されている真実。

 そして、もう1つは人に知られていない真実だ。

 知られていないものは無いも同然で、その『真実』は『真実』として働いていない。

 そういう意味では、人に知られていない『真実』は『真実』ではないのだ。

「真君の嘘で上書きする、というのは確かに大手のネガティブキャンペーンに対しては有効だろうがなぁ……」

「もしやってるのが大手じゃなくてただ中小が嫌いなだけの個人とかだったら大手はとばっちりじゃねーか?」

 しかし、逆に、大手以外の誰かがネガティブキャンペーンを行っている、としたら、それは大手に対するとばっちり、濡れ衣に他ならない。

 それは……ヒーローとして、どうだろう。

「だから、嘘の吐き方が違うんですよ。真さんはただ、『ある組織が中小へのネガティブキャンペーンを行っている』という嘘を吐けばいいんじゃないんですか。別に、誰がやってるとかは関係ない。中小のヒーロー達への誹謗中傷が誰かの意図したもので、それに乗せられるのはバカだ、と多くの人が思ってくれればいいわけですから」

「重要なのは犯人が誰か、じゃなくて、犯人が居る、と多くの人に知ってもらう事なんですね!」

 成程、それなら別に気兼ねすることも無いだろう。

 ……無いだろうが。

「……でも、『まっとうでヒーローらしくない』対処、なの?」

 桜さんの疑問に、恭介さんが何とも言えない顔をした。

「……第一に、本当に中小のヒーローをけなしたい、ただの一個人とかが居たとしたら、その人達の意見は全部無視されることになるんで。……それから、第二に……」

「どう考えてもさ、犯人は大手、って事になるよね。世論的に。私たちが何も言わなくったって、さ」

 あっけらかん、と明るい声が聞こえて、驚きつつ声の方を見る。

 ……窓枠の上に足をかけて、茜さんがぶら下がっていた。


「……え、あの、なんで」

「ただいま。依頼は無事せいこーう。依頼者さんのストーカーに誘惑かけて、ストーキング対象を私に変えてからちょっとぼこして清く正しい方向に誘惑しなおしてきた。スピード解決。自己最速記録。さっすが私。イェーイ」

 ここに居るはずのない、また、居て欲しくなかった茜さんの登場に、なんとなく気まずい空気が流れる。

 が、当の茜さんはそんな空気も気にせず、跳ねるように室内に入ってきて、ディスプレイを覗く。

「おーおーおー。言ってる言ってる。……あ、これいいね。〈放送禁止用語〉だってさ。ね、恭介君、私ってやっぱ〈放送禁止用語〉?」

「え、あの、え?」

「うんうん、自覚はあるな。さもなきゃソウルクリスタル強化された恭介君がまだ私に夜勝てない理由がわかんないね!」

「茜、やめてあげなさい」

「体力さえあればさ、ほら、弾数決まってるわけじゃないし」

「茜、やめてくれ、頼むから」


 ……それから数分、茜さんはけらけら笑いながらネットの誹謗中傷を読み、分速2回程度の割合で恭介さんが被弾し、古泉さんは頭を抱え、俺は桜さんの耳をふさぐので精いっぱいだった。

 コウタ君とソウタ君はきゃーきゃー言いながら部屋を駆け回っていた。




「……茜さん、大丈夫なんですか?」

「え?何が?」

 そして、一通り自分に対する誹謗中傷の類を読み終わった茜さんは、相変わらずけろりとしていたので、つい、聞いてみた。

「いや、誹謗中傷の類だらけだったから、その」

「あー、うん、そりゃね、いやな気分にはなるけどさ。なるけど……ほら、なんていうか、他愛ないじゃん、割と。というか、うん、これだったら、モデルでちょっと売れ出した頃の方がえげつなかったしね。……うん、あのさ、真クンよ」

 茜さんはそこで……珍しく、遠い目をした。

「問題です。男が男を批判するのと、男が女を批判するのだと、どっちが手厳しいでしょうか」

 ……ええと。

 どうだろう。男は男に対して遠慮が無い……いや、違うな。

 多分、無関心なんだ。だから、別にそんなに頑張って批判しようとは、よほどのことが無い限りしないはずで……。

「ええと、男性が女性を批判する場合?」

「そ。その通り。男は男に無関心だからね。それに、異性は叩きやすいってのもあるし。……ってところで、第二問。女が男を批判するのと、女が女を批判するの。どっちが手厳しいでしょうか」

「女性が男性を批判する方、ですよね?」

 異性は叩きやすい、という事だったら、そういう事になる、んだけれど。

「ぶぶー。ざんねーん。正解は女が女を叩く方が手厳しいんでーす。……女は同性に無関心じゃないからね。しかも、男よりもえげつないこと言うからね。女は女が傷つくポイント見事に押さえてるからね」

 ……知りたくない事を知ってしまった気がする。

 けれど、うん、確かに納得はいく。

 取っ組み合いの物理的な喧嘩なら話は別だが、精神攻撃戦なら間違いなく女性同士の方がえげつないのだろう。

 俺、男でよかった。

「んでさー、ヒーロー界隈の話って、批判したがるのは大体男なわけ。だからさ、この掲示板の書き込みってすっごくソフトなのよ」

「ソフトなのかよ」

「そ。コウタ君ソウタ君には刺激がつよーいかもしんないけど、超ソフトだかんね。……でさ。モデル界隈って、批判したがるのは女だから」

「ソフトじゃないんですね」

「そ。ソフトじゃないの。ソウタ君やコウタ君が聞いたら卒倒するようなレベルの罵詈雑言がとんでくんの。……そんな罵詈雑言に鍛え上げられた私のメンタルはもはやダマスカス鋼に勝るとも劣らないレベルってわけ」

 茜さんは胸を張ってそう言うと、にんまりと笑顔を浮かべた。

「ってことで、私は全然気にしてないから大丈夫……あ、ちょっと待って。やっぱ気にしてる。超気にしてるからさ、恭介君、ちょっとそれ貸して。ちょっと煽ってくる!へへへ、こういう楽しみが有名人の特権ですよ、っと……」

 うきうきしながらタイピングを始めた茜さんを見て、もう俺達は何も言葉が出なかった。




 それから30分後。

 ぐったりした古泉さんとつやつやと元気な茜さん。そして死にそうな恭介さんが出来上がっていた。

「……まあ、なんだ。今後の依頼には茜をできるだけ出そう。正攻法ならそれが一番いいはずだ。ヒーローとしてまっとうに働いていればそのうち悪評を真に受ける人もいなくなるだろう」

 とりあえず、現時点でこれだけは確実にやっておいた方がいいことだった。

「ま、それは当然やらせてもらうけどね。……けど、どーすんの。大手のネガキャン、このままにしとくのも腹立たない?」

「そうは言ってもなぁ……」

 相手が卑怯な手を使ってきても、極力こちらは正攻法で戦いたい。

 何故なら、俺達はヒーローだから。

「やっぱ、真クンが頑張るかんじ?」

 しかし、誰に対して嘘を吐けばいいのか分からない。

 俺の異能はあくまで多数決だ。ちょっと、現実的ではない。

「……大きな手柄を立てる、とかは、どう?」

 だから、桜さんの発言に、全員『そうだよな』というように頷く。

「悪口より、いい評判、いっぱい言ってもらえるようにすればいいから……また、アイディオンの本拠地、探して……それで、大きなソウルクリスタル、事務所に飾るの」

 大きなソウルクリスタル、のくだりで、珍しく桜さんの目が輝いた。

 ……最近分かってきたことだけれど……桜さんはおとなしいけれど、戦闘を嫌うわけじゃない。

 ヒーローとしての気概は人一倍、ヒーローとして十分すぎるぐらいにあるのだ。

 最近はアイディオンとの戦闘も少なかったし、そういう意味でもやる気になっているらしかった。

「あ、折角だしアイディオンの生首の剥製とかも飾ろうぜ」

「趣味悪いよ、コウ……」

「……生首の剥製はともかく、そうだな、ここらでまた殴り込みも悪くないか……俺達としても、どうせなら依頼じゃなくてアイディオン討伐で生計立てたいもんなぁ」

 大手の力が弱まっている今、折角だから超高レベルアイディオン討伐ぐらいは、やってもいいだろう。

 今なら、邪魔されても勝てるだろうから。


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