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ZSーゼット・ストライカーー  作者: ひびき澪
EP2ーライディング・ビークル
20/36

第三章 capter-1   「アメイジング・ライダー」

「先鋒がイフットなのはともかく、中堅が順で大将が俺……?」

 大会当日の控え室の中。順から言われた言葉に対して、須賀谷は意外だという顔をする。

「勝ち抜き戦なら正直お前は戦わせたくないからな。まぁイフット一人で十分だろうが万が一の時は私が前を止めればいいだけだ」

 順は困惑する須賀谷に向かいそう説明してくる。

「いやでも、だからと言って俺が消耗しないってのはアレかと思うが」

「お前は秘密兵器にもなり得るからな。腹の中を正直に言えばタマチルツルギの科学力をこの学校に見せたくないというのもあるのだ。真似されると嫌だしな」

 すると順は首を振り、そう丁寧に説明してきた。

「あぁ、技術が絡む話なのか。因みに篝火は?」

「セコンドの扱いだ」

「タオル投げなら任せてください。濡れタオルを時速200で投げられますからね、私は」

「下手に当たったら死ぬだろそれは……」

「気合で避けてください」

 敵のつもりかお前は、と突っ込んでいると、控え室のドアが開く。

「ちょいんす。元気そうだな、4人とも。差し入れのトリンカーアーマムだ」

 その顔は藪崎だ。なんだか顔を見るのも久しぶりに感じる。片手には菓子を持ってきていた。

「薮崎会長、おはようございます」

「あぁ、おはよっす。現状報告といくが俺は一応来賓扱いで来ているが、既に現場には何人かを滑り込ませてある。調査は任せておけ。それと……篝火。ちょっときな」

「はい」

 薮崎はにかっと歯を見せて笑うと、何事かを篝火に耳打ちした。

「……承知です」

「頼むぞ。……まぁ後はどうなるかだが……大会自体の結果はどちらが勝とうと構わん。俺は気にしないから存分にやって戦闘経験をつむといい」

 耳打ちを終えた藪崎はぐるりと振り返りそう言い、また後でなと言って菓子を置いて部屋を出た。

「……何かを会長はするつもりなんでしょうか?」

「さぁな。私にはわからんよ」

 探りを入れるように軽く聞いてみると順は肩をすくめてみせた。

その目は嘘は言っていない。本当に何も知らないといった様子だった……。

気軽に出来れば、よいのだがなぁ。


「……先鋒、稲隅風海。 中堅、天月院トラムトリスト朱音。大将、レオカディオ・アロンソ・ムラクモか。プロが3人とは、面白いカードになりそうだな」

 一方部屋から出た藪崎は早速運営からパンフレットを受け取り、興味深そうにしてみせた。

「……おはよう。私もそのパンフを見たけど……大丈夫なんかねぇ」

 その後ろでちょうど今遅れてやってきたダリゼルディスが心配そうに言う。

「おはようございます。正直に言えばここはアウェーだから不利でしょう。何の仕掛けがあるのかもわからない。でも、彼らには……可能性を感じるのですよ。何より貴女の自慢の生徒じゃないですか。その実力は信用してますよ」

 薮崎はその声を受け、胸を張ってそう答えた。


「私はこの大会の総合運営を勤める清水道庵といいます。それではイフットさんの出番ですので、他の皆さんもベンチにどうぞ。」

 暫くしてこの学校の先生が呼びに来て、外のフィールドに通される。

 顔を見ると顎髭がテール状になっていて、ご丁寧にリボンすら結んでいる。

個性的にもこれは程があるといった感じだ。

(水道屋みたいな名だが……それにしても凄い格好だな。このエリアの流行にも興味がある、後で朝霞のファッション雑誌でも読んでみるか)

 そんな感想を持ちつつも一行は連れられ、一番外側の一般客席よりかなり近く、バリアフィールド内の5人掛けのベンチに通される。

 この位置はお互いの魔法が飛んでくる可能性があるから、気をつけねばならんな。

「……篝火、座らないのか?」

「そうしてもいいのですが……私が座ると壊れますから……」

 突っ立っている篝火に聞くと、語気を下げつつも篝火は告げてくる。

 おっと、まずいな。失言だった。

 すると事情を察したのかいそいそと後ろの運営の生徒が下がると、二人がかりで丈夫そうなパイプ椅子を持ってくる。

「こ、こちらをどうぞ」

「大きな椅子だな……」

「半竜が乗っても大丈夫な設計です」

 そういって椅子を置いてくれると篝火はそれにそっと腰を下ろし、

「この強度なら大丈夫ですね。ご迷惑かけました」

 と機嫌を直し礼を言った。

「……しかしアロンソと昨日の女が出ているのは分かったが……あと一人は誰なんだ?」

 そこへ唐突に、話題を変えるかのように割り込んでくる順。

「ん?」

「篝火は分かるか?」

「いえ、存じ上げません。ただ私的推論をさせていただくと、ただの人間を対抗試合に出すとは思えませんが」

「お前もそう思うか……それでは案外向こうの先鋒は大物かもしれないな。イフット、油断はするなよ」

「任せときなよって。私は負けないから!」

(信じてはいるが、本当に気をつけろよ)

 須賀谷はなんとなく心の奥底で不安に思いつつも、イフットを送り出した。


 落ち着いて観戦する暇もなくその3分後に一人目にイフットが勝ったという話を聞き、拍子抜けとなる……。


「……どういう事だ? こんなあっさりカタが付くとは」

「んー、先鋒はなんだか昨日の弓道部の取り巻きの一人だったみたいよ? 一応副部長で準優勝とか」

 戻ってきたイフットはそう返事をしてくる。

「じゃあ辛かったんじゃないのか?」

「ほら、私弓撃ってきても溶かせるし……奥義一輪車流鏑馬とかいう変な技使ってきたけど足場を崩したら勝手に転んでリタイヤしたの」

「とんだかませ犬だな」

 順は溜息を吐く。

「案外……大したことなんじゃないですかね」

 篝火が言う。

「お前さっき強敵かもしれないって言ってただろ……」

 しらじらしいと言いつつも向き直る。

 それでその次の相手だが……。

「私がこってんぱんにしてやるわ! それで大将の男、あいつをふんじばってやる!」

 あのピンク髪か。ただのドMじゃなかったのだな。

「……あれから何かあったのか?」

 順が聞いてくる。

「調べるところによると彼女の出身、ストラティウスにはナイトハンティングを断るという行為は屈辱であるという話がありますよ」

「はぁ?」

「ナイトハンティング? ……士亜? あの女に何か言われたの?」

 イフットの謎の視線を感じる。

「俺はなんもしてないしこの篝火がレモン汁をぶっかけただけだ」

「そう、それならいいけど……」

「まぁ本を読んでいるとこの世の中にはヤウサとかいう謎の文化がある国もありますしね、国の風習は国の風習です。気にしないでおいて下さい」

「なにそれ? 聞いたことないけど……」

「これです」

 イフットの尋ねに応じて篝火はひょいと『各国の文化』という本を持ってきてバッグから取り出すと、イフットにささっと見せる。

するとボッと、すぐにイフットの顔が一気に赤くなった。

「何が書いてあったんだ?」

「士亜、絶対見ちゃダメ。絶対にね。怒るよ」

 イフットはそう釘を刺すと、篝火にも絶対見せないでねと念を押してきた……。

「まぁ変な虫がつかないようにするのは当然だな」

 順は何か知っているかのような顔をすると、一人でうんうんと頷いて見せた。


『さぁ、見事第一戦を制したイフット選手! 次は 先鋒 イフット・イフリータ・イフリート 対 中堅、天月院・トリストリアム朱音のカードとなります!』

 会場のアナウンスが流れる。こんな流され方をしたら先鋒の負けたやつも居心地が悪いだろうに。

「士亜に付こうとする悪い虫は……貴女ね?」

 イフットが向かってきた女に対し、ぎっと杖を握りながら仁王立ちをする。

「へぇ、士亜って言うの。あの男」

 40m程離れた位置から天月院という女は意地の悪そうな顔で返す。

 女同士の何だかわからん怒りの激突が、見て取れる。

イフットが負けるとは思えないが……緊張感は、ある。

「掛かってきなさいよ」

 天月院が煽る。

「私は大抵の事じゃ怒らないけど……本当の悪気のある悪戯は嫌いなの。特に……泥棒猫とか」

 その様子にイフットは神経を強張らせ、杖を握る手にさらに力を入れてみせた。

「へぇ。やってみなさいよ」

「……なら、少し脅かしてあげるわ」

「……まずいな」

 その様子を見ていた須賀谷は、危険を感知し呟いた。

「何だ?」

 順が尋ねてくる。

「イフットは高等魔法を使うつもりだ……」

 それに対してそう、返す。

 あの眼は本気でやる時の顔だ。

『本気で行くわよ……ウェーブ……イラプション!』

 そしてそういい終わらないうちにイフットは杖を地面に突き立て、大声で詠唱する。

 次の瞬間、イフットの目の前で指向性のある大爆発が起きた。

「っ!? 順、篝火! 伏せろ!」

 慌てて指輪を取り出して構え、二人の前に躍り出る、が。

「発火感知、退避行動」

『流石に二人は無理だ……こっちのほうがいい、サモンタワーシールド!』 

 順がこちらの正面に大型盾を召喚し、その陰に身を隠すように防御の姿勢をとった。

 須賀谷と篝火は便乗しその裏に隠れる。

「ぐぅぅっ」

 熱気がすぐに伝わってくる。こちらが防ぐと信じての大火力魔法だったろうが、いきなりぶっぱはやり過ぎだ。

「なんて魔力だ……この距離じゃこっちも流れ火で火傷を免れんぞっ……こちらが風下だというのに!」

 間一髪熱は防ぐが相当な振動を感じる。土くれが跳ねて盾にあたったのだろう。恐る恐る見るとイフットの杖からさらに連続する爆風が出て地面をピラー型に抉り、波状に天月院に迫っていく……。

「全く、無茶苦茶をする。指輪を持っている士亜はともかく私と篝火は普通に火炎を食らうんだぞ」

 順が半ばあきれた様子で声を出す。だが、その眼はフィールドに注がれている。

「しかしあの天月院とかいう女……動く気配がないです」

 篝火の言うとおり天月院は迫る炎に対し不敵にさえ笑って見せている。

 そしてついに炎が襲いかかろうとした刹那、

『ride』(ライド)

 そう天月院が口の動きをさせたのが、須賀谷の目に見えた。


爆炎が天月院を包み、轟轟と燃え続ける。

 あまりの火力に空気が震えていて、相当な威力を感じさせた。

「これをやれば懲りたでしょうね……」

 イフットがは心底不愉快だという顔をしながら煙の中を見据えた。

 本人としても意図しない程の威力だったろうが、治療できる程度には加減したはずだ。

 ……だが。

「こんな事で勝った気になっているなんて……哀れよ、哀れ! 大したことないわねぇ! バリア機構作動中……陸戦機『スコーピオン』アクティブ!」

 意気揚々と煙の中から天月院が3m大の機械の塊に乗って出てくる。

 色彩はピンク。尻尾がついていてサソリを模しているようだが二脚であり、両腕がついている。サソリの頭にあたる部分がオープンタイプになっていて、そこがコクピットになっている。

 その風格は巨体であるというのもあり、威圧感を感じた。

「何だ……あれは?」

 順が目線をあげ、あんなもの見たこともないといった様子で驚く。

「該当データあり。フェーズビークル……」

 篝火が後退りをしながら小声で呟く。

「知っているのか? 篝火」

「えぇ。アロンソさんにマジックボードを提供しているブレイズクレイドル社……あそこが作った、魔導ビークルです。現在のところ試作型がお披露目した程度で、生徒会室に資料があった程度だというのは分かっていましたが……因みにヒオウ学園では導入の予定はありません」

 落ち着いた口調で説明してくる。

「うちの学校のテーマは昔から陸上滑走や馬術といった搭乗物。それだけにブレイズクレイドルからの試作品の提供……それは私たちの元々の特性と噛み合って学校への大きな手助けになったわ。このマシンって奴は馬や一輪車なんかよりもずっと早いんですもの」

 天月院はへらへらと笑う。

「そして魔法キャンセル機構ももっているときたもの……さっきの貴女の火炎は、このマシンで止められる。それに豆粒みたいに見えるってことは……つまり貴女は私に勝てないってことだしねぇ! イフットっていう女、覚悟してもらうわよ!『ワイヤーシザー!』」

 言うが早くスコーピオンというメカを操作し、有線ワイヤーのついたハサミ状の右腕を高速で飛ばしてくる。

「くっ!」

 イフットが間一髪半身を逸らすとそのハサミは地面を抉り、客席の近くに置いてあった魔法障壁に突き刺さる。

 「一点集中なら……《フレアーハウリング!》」

 その隙に、火線による反撃を試みるがまた炎は拡散して防がれてしまう。

 「あんたの攻撃は効かないって言ってるでしょ! そもそもただの魔法使いなんてもう時代遅れなのよ!」

 天月院はハサミを回収すると、上空に飛び上がってイフットを踏みつけようと飛びかかってきた。

 あの巨体で5m近くの跳躍をするとは、恐ろしい……!


「いくわよぉ、亜空間アタック!」

 スコーピオンが空中で半回転して尻尾を振り回し、回避行動を試みたイフットに直撃させる。

「イフット!」

「ぐぅぅっ!」

 尻尾はイフットの上半身をそのまま強打させ、そのまま遠心力をかけて吹き飛ばす。

あの当たり方は、下手をしたら骨まで痛める受け方だ。

「こんな……事で……!」

 地面に叩き付けられたイフットは、受け身さえ取れなかったものの擦り傷を負いながらすぐに立ち上がる。

「あらあら、一発じゃものたりないみたいねぇ。このマシンのパワー、普通の人間が食らったら一撃で気絶するレベルなんだけど」

 天月院が得意満面な顔をする。

 この状況はイフットにとって……相当に、不利だ。

「せめて魔法が通れば……くっ、これなら」

《即時誘発簡易術式ッ! ーnervebinー》

「甘いわ!《フラッシュ!》」

 言うが早くスコーピオンから発光が為され、イフットの魔法の発動を妨害する。

「うぅ、目がっ……! うぅぅぅっ!」

「足を止めてるとぉ、危ないわよぉ!」

「くぅっ……!」

 そして怯んだ瞬間にまた一撃、尻尾の薙ぎ払いを与えて突き飛ばした。

「どぉ? ブレイズクレイドルの技術ってのを思い知ったでしょ?」

「ふざけた事を……私は、まだ!」

 イフットは立ち上がるが、口元を切ったらしく血が流れているのが見える。

「まだ? まだ、なんなの?」

「……!」

「こっちはね、貴女に構っている暇は無いの。だからさっさと片を付けてあげるね?」

 そんなイフットに対し再び両の鋏を構えるスコーピオン。

「……っ! それはこっちのセリフよ! 見せてあげるわ、《紅蓮獣 クリムゾンノヴァ》!」

 イフットは瞬時に詠唱をし、足元に魔方陣を描き炎トカゲを召喚する。

 「ギィィィィィィィィィィィィィィ!!!」

 地面から湧くように出現したクリムゾンノヴァはぎょろと目を見開くと天月院のスコーピオンを瞬時に敵と認識し、大声で天に向かい咆哮した。

 大型同士の戦いに、会場が緊張する。

「こんな奥の手があったなんて……面白いわね、ブレイズクレイドルのメカと魔獣の勝負をしてみたいって事?」

 クリムゾンノヴァの背に飛び乗ったイフットを見て、天月院がまだ余裕を持った顔で煽る。

「……こんな事で勝利宣言はやめてくれる? 勝つのは私よ、それを……今見せてあげるわ!」


「グォォォォォァァァッ!」

 クリムゾンノヴァがファイアーブレスを吐き、スコーピオンを炎の海に閉じ込める。

だが熱そうな素振りも見せない天月院は、そのまま前進をする。

「炎そのものが効かないのよ! 大小の問題じゃない! ……もらったぁ!」

 天月院は難なくその炎を突破し、クリムゾンノヴァに向けてスコーピオンの鋏を振り下ろす。

「まずい、あの一撃を受けたら魔獣とはいえ!」

 順が顔色を変えてそう言った瞬間ガキィンと金属を叩いたような大きな音がしたが、その鋏はクリムゾンノヴァの皮膚を切り裂けずにはじかれた。

「何?」

順にとっても、読み違いのようだ。

「なんて固い皮膚なの!?」

 あまりの防御力に天月院が表情を変え、さらに追撃をしようとして目の前の光景に息を飲んだ。

「あの女がいない!?」

 クリムゾンノヴァの上に、イフットがいない。須賀谷も見失ってしまい、周りを見る。

「何処へ消えたの!? あの女は!?」

 天月院がコクピットから立ち上がり、左右を慌てて見回そうとすると……。

「私は既にプロテクションハードスティールをクリムゾンノヴァに発動していた……!それが見抜けなかった時点で貴女の負けよ」

 後ろからいきなり天月院の腕を捻りあげ、イフットが耳元で囁いた。

「んにゃ!? コクピットの中に入ってくるなんて……何処から入ってきたの? 離しなさいよ! 馬鹿!」

「ハサミの上を走ったに決まってるでしょ! 離すもんですか! 引きずり出してやるわ……!」

「この、降りろってば! このマシンは一人用なの!」

「だったら貴女が下りればいいでしょ!」

「ひぃっ!」

 そのまま天月院の首を掴み、縺れるようにしてから一緒に地面に落ちる。

「私だって格闘は士亜に負けないくらいはあるもの……上手く間合いに入ればこっちのものよ! クリムゾンノヴァ!」

 しれっと嘘をつくな。お前の方が強い。

「ギャァァァゥ!」

 イフットの声に反応し、クリムゾンノヴァは搭乗者を失ったスコーピオンの腕に噛み付くとそのまま右腕を噛み千切り、蹴倒して横転させる。

「ああぁぁ! あれ高いのに! 怒られちゃう!」

 天月院の悲鳴が上がる。

「降参するなら今のうちだよ……? クリムゾンノヴァは手加減をしないから修復不可能になっても知らないよ?」

 地面に組み伏せられた天月院は悔しそうな顔をするが、このままではどうにもならないことを悟ったらしい。

 「こんな負け方……あるもんですか。勝ちは譲ってあげるけど今回は私が負けた訳じゃない……スコーピオンの性能不足よ。それとしか考えられないわ」

 程なくしてギリギリ歯軋りしながらギブアップを明言し、自分の負けを認めた。


「っくぅ……」

 クリムゾンノヴァの召喚を解いてこちらのベンチに戻ってくるなり、イフットが須賀谷の腕に倒れこむ。

「大丈夫か?」

「……魔法を連続で使った後に召喚と防御強化にさらにスピード強化を同時に使うのは、流石に疲れたわ……治療に魔力を回してるから色々身体もしんどいし、ちょっともう、無理」

「それ以前にお前あのマシンの尻尾をまともに食らったろ? 見てやろうか」

「ここは家じゃなくて外よ。大丈夫。それに私は頑丈だしさ……っつ……」

「その損耗じゃ次の試合はできないだろう。無理をするな」

 順が気遣うように声をかける。

「優しいのね」

 イフットの声に対し

「当たり前の話だ。それに次の相手はアロンソだ。奴の戦法が今までのままならなんとかなるが……篝火、マルクカ博士の例のものはできてるか?」

 振り返って今度は篝火に聞く。

「……いえ、残念ながら調整が済んでおりません。この試合に間に合わせるつもりでプログラムの調整もしていたのですが……」

「そうか……対空能力なしでいかねばならんか」

「あのー」

順が苦々しそうな顔をしたその時、こっちのほうの担当である火迎生徒会長が口を挟みにくる。

「次の試合ですか?」

 順はそう火迎に尋ねる。

「……はい」

「メンバー交代だ、イフットは棄権にして私が行く。そして先にオーダーとして、戦闘フィールド周りの結界を増やしていただきたい。特に壁に穴が開いて観客席に当たらないよう障壁をね」

「え?」

「……あの男相手では、手加減をしたらまずい。魔法をぶっ放すつもりだからな」

 順は反対側のベンチにいるアロンソの成長を値踏みするかのような目付きになりながら、そう答えた。

「し、承知しました」

 火迎はそそくさと運営側の方に戻ると、髭テールの例の先生に説明を始めた……。

「さて、イフット。お前は休んでいてくれ」

「そうさせてもらうわ。悔しいけどもう一戦は無理」

「……それに篝火」

「……はい」

「奴の分析を頼む。万が一の事も考えてな……」

「承知しております」

 篝火はこくりと頷き、分析モードにはすぐに入れますと返事をした。

「では、行ってくる」

「油断せぬよう、ゆめゆめお気をつけて」

 その声を背に、順は来賓席の薮崎の元にへと歩いて行った。

「……須賀谷さん」

 順が去った後、篝火が振り向く。

「何だ?」

「順さんの試合、目を離さないようにしてください。彼女は本気になりましたが、負けることも覚悟しています。……そうしたら貴方も、戦うことになるのですから」


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