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ZSーゼット・ストライカーー  作者: ひびき澪
EP2ーライディング・ビークル
18/36

第二章 capter-3   「血と心」

「着いたよー」

 シックザールが市の外れについたのは、それから8時間後のことだった。

 外はもう夜で、日付も変わるかというくらいに相当に真っ暗だ。

「おお、お疲れ様」

 往路の途中で起きた順はそう労うと、イフットに礼を言う。

「なに、順さんは遺跡にいくまで運転しっぱなしだったじゃないですか。……しかしこのシックザールの運転は……本当に疲れますね」

「長距離移動は魔力を相当使うからな。もう少し効率がよくなってくれればいいが……まだ初期型だからトライアンドエラーでいくしかないのだろうな。私たちでさえ此処まで疲労するなら普通の人には使えないしさ」

 順は愚痴を言うと、ふぅとため息を吐いた。

 そこに須賀谷が話に割って入る。

「夜は……どうする?」

「今まで寝てた私が護衛しているよ。お前達は雑魚寝でいいさ」

 どうって事はないしな、と手振りをしながら順は言う。

「え、でも俺」

「誰もお前を警戒してない。外になんて突き出しはしないさ、気にするな。それにそこに妻もいるしな。それよりイフットを見てやるといい」

 順はそう言ってホットコーヒーを入れた紙カップを手にすると、シックザールの甲板に出ていった。

「全く……」

「ちょっと腕、貸して。士亜」

「あぁ」

 須賀谷はふぅとため息付くと、少し疲れた顔のイフットを運転席から車内の隅に誘導し、腕で抱き寄せる。

「このまま寝るよ、おやすみ」

「分かった、おやすみ」

 須賀谷はイフットに片腕を貸してやりながら、もう片方の手でイフットの前髪に手を当てる。

「……ん」

「お疲れ様、ゆっくり休め」

 そしてそう言い、ぐっすり眠るまで寝かし付けてやった……。

「一応夫としての自覚はあるようですね」

 イフットを寝かしつけると篝火が話しかけてくる。

「いや、でも俺はこいつに苦労を掛けっぱなしさ。このままじゃヒモ同然だよ。早く結果を出さないと」

「でも、焦りは禁物です」

「そんな事は百も承知なんだけどね……もっと小さいときに勉強しとくんだったって、凄い感じるよ」

「今思うならその今は遅くないですよ。今日からそうすれば取り返しはつきます」

「励ましてくれるのな、ありがと。……俺も頑張るよ」

「その意気です」

 会話をしつつ、神妙そうな顔をしている傍らのダリゼルディスに目をやる。

「何かあったんですか?」

「いや……ね。色々思っただけさ。イフットを大切にしてやるんだよ」

 するとそうダリゼルディスが言ってくる。

「百も承知ですよ。恩とか以前に俺は自分よりこいつが大切なんですから。……何があっても危険があったら守ります」

「男らしいね。それでもうちょっと実力があれば社会学の評定も優にしてあげたいところなんだけどなぁ」

少し耳に痛い言葉だ。

「勉強と関係ないじゃないですか。成績は実力でとりますよ。……気にしないでください」


 朝霞附属勇士養成所というのは職員室を除き平屋ではあったが、やたら広い敷地を持っていた。

「ようこそ、朝霞附属勇士養成所へ。私が生徒会長の火迎です。薮崎君から話は聞いてますので、長旅お疲れ様であります」

(制服が事前に見た資料と違う……?)

 順よりも長身でありながら藪崎に劣らず原型を留めてない制服の女と挨拶をすると、シックザールは校舎裏に案内され、駐車させられる。

 比較的上位の生徒は改造制服を着るというマイブームでも起きているのだろうか。

 火迎という女は爽やかそうな顔付きの人で、見ているだけで清涼感があった。

……胸がやたらでかいのが気になるが。

「あれはなんだ? でっかい鉄の塊みたいなの」

「ヒオウから来たんだって」

「へぇ、珍しいな。機械の技術ってヒオウはもうそんなに進んでるのか」

「あぁいうのは羨ましいなぁ」

 学校の敷地内に入ると噂話かのように遠目の会話が聞こえる。

 そんな学校生徒達の言葉を受けながらも5人は車外へ出て、軽い荷物を持ったまま校舎内にある応接室に入った。

「……さて、日程では明日が大会になるので皆様には休んでいてもらいたいのが本音ですが……どうでしょうか」

 火迎と名乗った女はそう確認を取ってくる。

「異論はないですよ。俺達も少しは、休みたいですから」

 須賀谷はその提案を承諾すると、ではこちらをお使いくださいと言われ客人室と書かれたキーを各人貰う。

 5本、か。

「おもてなしもあまりできませんが、こちらとしては精一杯の敬意を払っています。良い試合にしましょう」

 火迎会長は順に向かい手をさし伸ばす。

「あぁ」

 順はその手を握ると、口だけは笑った。

「それでは、私が客人棟へのご案内をしますので」

 火迎さんという方による案内を受け、応接室を出る。

 そして少し歩くことで、客人棟という棟に入った。

「……広いな」

「この棟も60室ありますので。108、115、123、148、155室が開いております」

「……その割には空室が少ないのか」

「周知のとおりこの学校は元々騎兵養成の面が強かった為か、割と重装備の方々がくるんですよ。一部荷物置き場になっていたりしましてね。今日は就職説明会の方々と日程が重なっておりましてその御蔭で部屋がかなり埋まっていたのです」

 火迎は頭を下げると申し訳ありませんと謝罪した。

「いえいえ、お構いなく」

「そんじゃ私は少し寝るよ」

「……因みに風呂とかは部屋にありますか?」

「いえ、大浴場が地下にございます」

「なるほど……って地下?」

「えぇ、ここは地下4階建ての建物なんですよ」

 にっこりと火迎が笑う。

「そんなにでかいんですか?」

「とはいっても大部分がレクリエーションルームなんですがね。ビリヤードとか、ダーツとか」

「へぇぇ……そんな大層な装備がねぇ」

「朝霞はヒオウよりは聊か田舎ですからね。アナログなものが多いですけど自由に動いてもらっていいので、それではお楽しみ下さい」

 火迎はぺこりとお辞儀をし、そこからゆっくりと踵を返す。

 ……周囲には誰も生徒が居ない。

「さて、どうする」

「軽く荷物を置いてからだな。……それからダリゼルディス先生は教職員との話し合いがあるでしょうから詰めを、他は私の部屋に来い」

 順はそう告げようとするが、

「私はメンテナンスがあるから少し遠慮します」

と篝火が言ってきた。

「何……?」

「遺跡の稼動で腕部が結構ダメージを受けています。スペアを付けるのに少々時間も要りますし今のアームも点検も必要です」

 水を差されたが理由を説明する篝火に仕方ないなといった表情をした順は、渋々分かったと頷いた。


「それでは取り合えず馬鹿な振りをして地下を探る……それで取り敢えずはいいな」

「あぁ、構わんよ、順」

「了解です」

 イフット、順、須賀谷と三人で話合った結果、建物の内装を調べる為にまずは地下を探るという事が結論になった。

「いざという時に道に迷うでは話にならないからな。歩くことで色々調べるというのには意味がある」

 順は先頭を切りながらそういうと、地下へのエレベーターのスイッチを押した。

 ……地下、一階。

「これ、階段で行ったほうがいいんじゃないか?」

「帰りは階段を使おうと思っていた。だってさ、偽装エレベーターかもしれないだろ?」

「……なるほど」

 そんな無駄話をしている間にエレベーターが止まり扉が開く。

「……成程、遊技場か」

「チェスやらショーギのセットから……確かに部屋の隅には言われたとおりダーツとかもありますね」

「ぐるっと見てから行こう」

 順がそう言った瞬間、スパンという大きな音がした。

「……この音は……ほぅ、弓道場か」

 興味深そうな表情をした順は音が聞こえた方向にふらふらと歩き出す。

「あ、順さん!」

「おいおい……全くしょうがない」

 勝手に歩き出した順の後を二人は追いかけ、弓道場の近くにまで来た……。

「せぇぇい!」

 スパンっと小気味良い音が的を貫く音がする。

 ぱちぱちぱち。

「これで7発皆中か、素直に凄いな」

 順が賞賛をすると視線の先ではポニーテールに結んだピンク髪の女子生徒が弓を持っている。

「彼女はロデオ流鏑馬のプロよ、ああ見えてもね」

 するとイフットが知っていたのか、そう教えてきた。

「ロデオ流鏑馬? なんだそれは?」

「いわゆるガタガタ揺れるハードな流鏑馬の事だ。凄くレベルが高い競技になる」

 訳が分からなかった須賀谷に説明するように順が言ってくる。

「へぇ。しかし小柄な体格なのによくやる……」

 言われて須賀谷もほぉーと感服していると、

「胸があると弦に当たって痛い。肩幅があればそれはそれで弦を引く威力は増すが……身体が小柄なら小さい弓を使えばいいのでな、弓道は体格の良し悪しで中々決まらないんだ」

 さらに横から順が話してきた。

「マジな情報か、それ。弓の弦は胸に当たって痛いって。大変だなそれは」

「あぁ、知り合いが言ってた。その為の胸当てなんだろうけどな。……しかし後の話じゃなくて先のほうに食いつくとはお前も男だな」

「まぁあの体格なら当たりそうもないがね。……そりゃ男ですもん」

「そうだな、うん」

 どうでもいい話に花を咲かせていると、そのピンク髪の女子生徒がこっちに気が付いてずかずかと歩いてきた。

「……ちょっと!」

「んぁ」

「黙って聞いてりゃ人が小さいだのなんだの、調子こいてんじゃないわよ! ぶちっとストレスでイラなうきた! ぶちのめしてやるわ!」

 どうやら声が大きかった模様だ。

「……む」

 順が妙な声を出す。

 気が付けば他の弓道部員らしいものに……10人くらいに囲まれている。

「しかもうちの制服じゃないって事はスパイにきた他校ね? 囲んでゴミ捨て場に投げ捨ててやるわよ!」

 怒り心頭のようだ、どうやらコンプレックスに触ってしまったらしい。

「……どうする、順?」

「……事は構えたくないがなぁ」

 順は少し口元を歪め、困った顔をした。


「さぁ名を名乗りなさい。 私は部長、天月院トラムトリスト朱音。決闘を申し込むわよ!」

 小柄な女がこちらに向かいユガケ(手袋)を付けたままの手で指差しながら宣戦布告してくる。

 ……なんというかテンションが、物凄くやり辛い。

「……どっちに対してだ?」

 順がだるそうな声で返事をする。

「きっ! あ、あんたよ!」

 ユガケを外し、思いっきり投げてくるが二人して上半身を軽く捻り避ける。 

「ぐんぬぬぬぬ……やりやがったわね、恥をかかせて! ここで命令してもいいのよ! 物共やってしまい! ってね!」

「いいぞ」

 順はそれに対し、二、三歩進んで朱音と名乗った少女の前に来た。

(……あぁ、あいつ少し苛々しているんだな)

 心なしかそう分かってしまう。

「な、なによぅ」

「やるなら早く手を出しに来い。その代わり結果は責任をきっちり取ってもらうぞ……此処が地獄になってもいいならいいが」

 相手が竦んだのを見ると必要以上に顔を近付けて順は威圧しにかかる。……不良かお前は。

 そう心の中で突っ込みつつも自体を静観する。周囲の部員は女子ばかりで10人。まぁ逃げる分にも戦う分にも問題ないだろうが……。

「む……むー」

 引っ込みが付かなくなったのか少女は涙目になってくる。

「姉、姉御! こいつ群雲ですよ、群雲! あの有名なヒオウの騎士!」

 その時取り巻きの部員の一人がそう言った。

「にゃっ!?」

 言うが早くささっと朱音という少女はばっと距離を取る。

「……うちの部活を潰しにきたの!?」

 そしてそのまま肩を震わせながらそう問いかけてきた。

 あぁ、優等生だった頃の名声が残っていたのか……。

「特にそんな事は無い。弓を見に来ていただけだ」

「じゃあなんでこっちになんか来たのよ! ヒオウ学園にも弓道部はあるわよ! それともやっぱりカチコミなの?」

「忙しい女だ。文句はアロンソにでも言ってくれ」

 ……ここにきて奴に振るのか。

「アロンソぉ? 知ってるけどあんたあの男の知り合いなの?」

「奴は従兄弟だ。私に対するクレームは全部あいつもちになる」

 順はそう告げると、また機会があったらいずれなと言ってそそくさと去ろうとする。

 逃げそびれると袋叩きにあいそうだと感じた須賀谷は、慌ててイフットの手を引いて順をおいかけた。

 「フン、群雲 順ね。 この学校に何しにきたのかしら」

 朱音はやや警戒した様子で唾を飲み込むとぶつぶつと文句を言ってみせ、それから練習に戻るわよと取り巻きに告げた。


 それから数分後。

「あの女に睨まれたせいで地下に行き辛くなったな」

 これでもしかしたらあの火迎という生徒会長に少し警戒されたかもしれない。マイナスになったか?

 須賀谷は一人そう思う。

「全く、厄介な女だ! これだからすぐに噛み付いてくるタイプは……」

 それを横目に騒いでいる順。

「まぁまぁ、声が響きますよ順さん、あんまり怒鳴りますと周りの部屋に迷惑になりますし」

 それをイフットが、抑えてくれている。

 ……ひとまずは順の部屋に戻って作戦会議になる。

「これから……どうする?」

「各自別行動でいいんじゃないですか、どの道明日の試合には出なけりゃいけないんですし」

 意見を振るとイフットが最もらしい事を提案してきた。

「それもそうだな。ただあの女が厄介だが……」

「私は標的に含まれてないっぽいので地下は私が行ってきますよ。結んでる髪取ってとりあえず服は私服も持ってきたのでそれでなんとかなるかなと」

 何か策があるかと聞こうとしたが先にそう言ってくるとは。

「ヒオウの制服は全体的に赤っぽいから目立つが、それならいいかもしれないな」

 一応同意をしておく。

「ああ、磐石だ」

「じゃあ順はどうする?」

「しょうがないから敷地やら地上の部室棟、後は馬でも見てくる。なにやら私は有名人らしいからな」

 人に絡まれるのが嫌なのか順は悔しそうにそう言うと、ふて腐れてみせた。

(あぁ、産廃の話をまだ気にしているのか……気の毒に)

 そう思っていると、

「そういう須賀谷はどうするんだよ」

 と聞いてくる。

「うーん、とりあえずはこの棟のこの階も怪しいとは思うんですよ。空き室的な意味で誰か閉じ込められてたりとか……」

「まさか。……でも一理あるな。それでは念には念を入れて調査を須賀谷、頼むぞ」

「分かってるよ」

「士亜。いくらむらっとしても女子更衣室とか開けないでね?」

「流石にそこまで馬鹿じゃないさ、俺はな。……そんじゃミッション開始と行くか」

「そこまでって事は多少はあるの?」

「ないです、全くね」

 そこで再度、部屋での集まりは解散となった。

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