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ZSーゼット・ストライカーー  作者: ひびき澪
EP2ーライディング・ビークル
17/36

第二章 capter-2   「朝霞ミストエリア」

「ダリゼルディス先生に書類は渡した。私は少し寝ているからあまり起こさないでくれ」

 順はシートの下から毛布を出すと到着して早々、横になってしまう。

「疲れているだろうからな、しょうがない事だよ」

 ダリゼルディスは苦笑いをするとそんじゃ行くかといい、須賀谷とイフット、篝火二号に促した。

「了解」

「一応タマチルツルギは持ってきてますが……この辺の原生生物は相手をして大丈夫ですか?」

「まぁ止めて置いたほうが無難だな。私は戦えるが須賀谷、お前はイフットの後ろに隠れていたほうがいい。死にたくなければ」

「……ちょっとその言い方は、酷くないですか?」

「理由を言わせて貰うとこの辺にはペーパーゴーレムがいる。その紙という特性を生かしたゴーレムに有らざるレベルの高速移動と切断のプロだ。いくら鎧を着た人間とはいえ動脈をやられたら大量出血も免れないから接近戦を挑むよりはイフットに燃やしてもらったほうが早いのさ」

「……そういう理由なら、納得はしますよ。言葉足らずにならないでください」

「言うねぇ。最初に会ったときは凄く畏まっていたのに、結構強気になったじゃないか」

「僕だって、ただの盾じゃないです。対ビームマントも順に貰ったし、一撃二撃なら……」

「そのマントは物理にほとんど効果無いよ、士亜」

 横からイフットが、ジト目で見てくる。

「……マジか?」

「うん」

「じゃあ大人しくしているよ、しょうがないから」

 くそっ、恥ずかしい。

「万が一の時は棺桶にでも入れて私が背負いますから大丈夫ですよ」

 篝火がそういうが元よりそんなつもりは無い。

「お前こそ大丈夫なのか?」

「火炎放射機なら射程20メートルのを右腕に積んでますので心配無用です」

「それじゃ悔しいけど……俺が一番この中で弱いみたいだな」

「分かったら静かにしていて下さいね」

「今は言われるままにしてやるけど……俺だって強くなってやるさ。そのうち追い越してやるよ」

「その時を楽しみにしています」

 少し煽りにいらっときつつも、自分の実力不足は確かなので黙る。

 ……今にみていろ。

 このままでは粋がる子供だが、俺だって戦えるところを見せなくちゃ。

 足を一歩、踏み出す。


「なんて寒さだ……ここは」

 シックザールを出た瞬間、足元からくる冷気に歯をカタカタと振るわせる。

 洒落にならないだろうこれは。

 敵が出ると聞いてマクシミリアンを着込んだが……鎧が冷気で冷えてしまう。 

「霧が濃いな。防霜ファンを立てれば茶の栽培に適しそうな土地だが……篝火、今は何度だ?」

「検知完了。セルシウス2度」

「なるほど、道理で寒いわけだ」

「士亜。寒いなら多少、火をおこそうか?」

 外出用コートを用意してきたイフットが心配そうに声を掛けてくる。

「待て、炎を検知して敵が来るかもしれない。ここは慎重に行こう」

「寒いなら寒いっていってくれれば準備は出来るんですけどね……シックザールが赤くて目立つから今更のような気もしますが」

 鎧の上からマントを羽織り多少はマシになるが、足元が冷えるのは遺憾ともしがたい。

「足元もたまにぐじゅぐじゅしているところがあるからな。篝火や士亜は重いから一気に沈むかもしれない、沼みたいになってるところは通るなよ」

「そうしたいものだな。幾らシックザールにシャワーがあるとはいえそこで鎧を洗う羽目にはなりたくない……うぉ!?」

 言おうとした瞬間、足が30センチくらい地面に一気に沈み込んで驚く。

「大丈夫ですか? 手を貸しますよ」

 篝火二号に心配されつつ手を取って引き上げてもらう。なんて悪い足場だ。

「すまない……ありがとうよ。……ったく、でも先生、こんなところにリーブラ鋼とかいう鉱物があるんですか?」

「産出されるという遺跡はもうすぐだ。ペーパーゴーレムの住処になりつつあるというが……ゆっくりいけば大丈夫だろう」

「しかしなんだって遺跡に沸く敵を放置してるんです? 騎士を送って火責めにすれば楽じゃないですか?」

「そんな事したら貴重な資源まで燃えるかもしれないだろ。それにペーパーゴーレムは紙としては高品質なものもあるのだ。好んで狩るものもいるし、全滅させる訳にはいかない」

「沼地ばかりだから湿気るんじゃないですか?」

「稀に撥水性のある奴も居るのさ。変異種と言ってな」

 ダリゼルディスにレクチャーを受け、イフットや篝火に度々手を貸してもらいながらもゆっくりと、進む。

 どうやら沼地の歩き方というものがあり、それを使えば足を取られにくくなるらしい。

 自分の知らない事が多すぎて新鮮だが、これでまた一つ賢くなれたような気がした。

「ゴーレムとやらはどれくらいの頻度で出るんですか?」

「運次第だ。出るときもあれば出ないときもある。そう考えればいい」

 ダリゼルディスに聞くとそう返事がくる。全く、適当な。

悪態を付きつつそのままゆっくりとした速度で10分ほど歩くと、趣味の悪い石造りの門が出てきた……。

「篝火二号、ここはどんな遺跡なんだ?」

「データ検索。アクセス中……リンク完了。前文明の遺跡です。ヒオウ図書館による所蔵データ無し。朝霞図書館に論文一件。朝霞古城の調査結果についてーフラウ・バーンスタイン。読み上げますか?」

「いや、いい。とりあえず古城という事だけ分かればなんとか想像も付く」

「罠があるかもしれませんね」

「落とし穴とかな。勘弁してもらいたいものだ……」

 雑談をしつつもその遺跡とやらの敷地内に入る。見る限りでは周囲はまだ霧が濃い盆地で、ところどころ沼もあり歩き辛い。さらに少し歩くと、ばっくりと開いた洞窟のような入り口があった。

「地下城……そういう形になるらしいぞ、ここは。探索部隊は地下8階まで入った事があるそうだが、それでも地下のモンスターは相当辛かったらしい。最大階数は特定はまだされていない」

 入り口近くに小屋を見付けると2~3人居る役人騎士の駐在所があり、そこの横を学務教材の調達に来ましたと教員免許を見せたダリゼルディスが一声挨拶してから内部地図の複製を貰う。

「そんな危険なところに私達を遣すとは、藪崎会長も全く人が悪いですね。帰ったらレモン汁でお仕置きしましょう」

 篝火二号がそう文句を垂れつつ一番前に出て、電球がわずかに灯る地下洞窟を後ろについてくるように促した。

「ドップラー・レーダー作動。対振動ソナー稼働。電探開始」

「……何故一番前に出る」

「ペーパーゴーレムは温度を持つ動物ではないので探知が厄介です。万が一不意打ちを受けたとき人間では致命傷を負う可能性があります」

「お前だって代えのきくもんじゃないだろ」

「それでも人間よりは頑強だと自負しています。奇襲で全滅ということは避けられるので」

 篝火二号は当然だという風に答えるとそのままゆっくりと歩きだし、その後ろにイフット、ダリゼルディス、須賀谷と続いた。

「薄暗くて嫌になるな」

 天井から水滴が垂れるのを見て、須賀谷は溜息を吐く。

「気を付けてくださいね。天井裏とかに張り付いているかも知れませんから警戒してください。彼らには殆ど移動音がありませんから」

「……不気味だな」

「防御魔法を使いましょうよ」

 イフットが言う。

「……そうだな。《プロテクションフィールド》……よし、これで大丈夫だろう、範囲強化魔法だ」

ダリゼルディスは魔法を唱えると、静かに一杯の酒をあおった。



「危険、回避不能」

 アラート音と共に目の前を篝火の首が飛んでいったのは、電探を開始してから5分後の事であった。

「な……」

 突然の事に唖然とすることしか出来ず、何が仕掛けてきたのすら分からなかった。

「バリアを貫通した!? 前触れもなくこれか!」

 ダリゼルディスも酔いがさめたかのように目を丸くして臨戦態勢をとる。

「士亜、右前!」

 次にイフットの声で2m大の3体のペーパーゴーレムに気が付いたのは、明らかに遅かった。

「……篝火!?」

 前を見れば篝火二号は頭部を吹き飛ばされて、胴体だけの姿で直立している。

「そんな、まさか。こいつはこれを予期して……」

 悔しさに歯軋りをしつつ目の前を見る。そのペーパーゴーレム達の姿は薄汚れた乳白色で、ところどころ煤けていた。

「□ж△Я゛※$!」

 叫びとも思えない言葉を発するペーパーゴーレムは右腕を振り上げると、その腕を力いっぱいに伸ばしてくる。

 そこで須賀谷は篝火二号が吹き飛ばされた事への現状認識が出来、目の前のゴーレムへの憎悪を固めた。

「この篝火とは短い付き合いだったが……やってくれたな! 貴様ァァァ!」

「私に任せて!」

「黙れッ、俺にやらせろ! ここで火を打つと酸素が足りなくなる!」

 イフットが言うが、それを無視して飛び出す。

「士亜!」

「□ж△Я゛※$Ь」

「死ねェ!」

 すぐに突き出されてきた腕をタマチルツルギで両断すると、手応えもなく一体の敵の腕は引き裂かれていく。

「□ж△Я゛※$Ь」

「……他愛ないじゃないか!」

 紙らしくその腕はあっさりボディに燃え移っていき、真っ黒く焼けていった。

 どうやらこの敵は強度により切断するのではなく、その特有の薄さを利用し包丁のように割り込んで切断をするという能力のようだ。

 強くはないが、油断をするとこれは大怪我ではすまない。……そう、篝火のように。

「奴のコアは何処だ、ダリゼルディス先生!」

 その瞬間に横薙ぎに来たもう一体の攻撃をプロテクションリフレクターで止めると、背後のダリゼルディスに怒鳴る。

「頭だ! 奴の首を落とせ!」

「分かった!」

 言われるが早く次の攻撃を屈んでかわし、走り出して突っ込む。

『……エンチャントナックル!』

 そして飛び上がって一体のペーパーゴーレムの頭を掴むと壁に押し付け、そのまま爆散させた。

 頭を燃やされたゴーレムの一体は機能を停止するとそのままぺらりと床に倒れ、何の変哲も無い紙のようになる。

 そしてそこで一呼吸をした瞬間……。

「士亜、後ろッ!?」

 背後には最後の一体のペーパーゴーレムが、腕をなぎ払ってきていた。

 ……まずい。首直撃コースだ。かわせない。

 焦ったが動けない、時が遅くなるかと思えたその瞬間……。

【フィンガーバルカン】

 言うが早く首の無い篝火が稼動し、その腕から光の弾丸を打ち出して最後のペーパーゴーレムを蜂の巣にする。

「……え?」

 須賀谷が呆気にとられたままになっていると、首の無い篝火二号がつかつかと歩きだし、その辺に転がっていた自分の頭を拾い上げてセットした。

「簡易チェック。視界良好、各種センサー状態オールグリーン」

「……篝火二号。お前てっきり、壊されたのかと」

 そう声を掛けると、馬鹿ですかあなたはと返される。

「えぇっ?」 

「外で運用する以上は私も相当の負荷対策は出来ています。私を機械と思うならシックザールと同等の強度と考えてください。それにしても隙を作って殲滅するつもりが……勝手に飛び出すとか計算外でした」

「いや、だって死んだかと思って」

「それでカッとなって突っ込むと貴方が早死にしますよ。本当に自分の命を大切にしてください」

 そう口論をしていると「馬鹿ー!」と後ろからイフットが抱き着いてくる。

「士亜ぁ……本当に心配したんだから。だから何も考えずに突進するのはやめてよ……寿命が縮んだよ私も……」

「お前のところは長命の家系だろ。160のひぃひぃじいさんが生きているのは知ってるぞ」

「そういう問題じゃないよ馬鹿! 心配なんだよ、あほー!」

「こんなところで怒ると恥ずかしいからやめろって」

「そうさせてるのはあんたでしょ!」

「あんまり後ろから首絞めるな痛い痛い」

「反省しなさい!」

「分かった、ごめん、すまない!」

「反省できてない!」

 イフットに抱きつかれた須賀谷を見つつも篝火二号はふっと笑い、かりっと目の奥をフラッシュさせると

「任務優先度更新、須賀谷士亜の護衛の優先度上昇」と小さな声で呟いた。

 そんな篝火の肩をダリゼルディスが叩き、

「あの子は強くなれる子だよ。私達があの子をいい男になるまで守らなくちゃね」

 と囁いていった。


「篝火二号。これが例のジェミニ鋼……だっけか」

「リーブラ鋼の原石です。これを溶かして魔石や金属と鋳造することで相応のものが出来ます」

 訂正を受けつつも、何階か下った後に30m大の巨大な結晶体の前に辿り着く。

 青光りをした綺麗な金属で、昔本で見たサファイアとかいう石に色合いは似ていた。

「正八面体の綺麗な金属だと、そう見えるな。これは素手で触ってもいいのか?」

「構いませんよ。特に価値は下がりませんし有毒ではないです」

 近くにあった破片を、触って持ち上げようとする。

「……何だこれは。……無理だ、重い」

「でしょうね。密度はありますから」

「この金属で俺のマクシミリアンを作ったらどうなる?」

「多分動けませんよ」

「そうか……じゃあやっぱり順のアーマーに使うしかないか」

「あれもマルクカ博士の計画では、補強用のマテリアル扱いです。メイン素材に使ったら順さんでも動けなくなります」

「マジか……」

「落ち着いて用法を守って使うしかないのですよ」

「了解だ。持ち出すとするか」

「それではイフットさん、哨戒をお願いします。私はここで切り出しを始めます」

 篝火二号はそう言うと右腕をはずしコネクションチェック……《バーナーモード稼動》と言うと、金属の塊に取り付き青白い火花を腕から出して切り出しを始めた。

「分かった、気配探知に入るよ。……あ、それにしても綺麗な石もあるね。持って帰っていいのかな?」

 イフットも杖を構えると、周囲に気を配り始める。

「構いませんよ」

篝火が言ったのを聞いて、イフットはその辺の綺麗な石を拾って一つ、ポケットに閉まった。

「ありがとー」

……なんだか、凄くうれしそうだ。

「ダリゼルディス先生はあのリーブラ鋼って、ご存知でしたか?」

 そんな姿を横目に須賀谷はダリゼルディス先生に尋ねる。

「そもそもあれは貴族の城の装飾とかにも使うものだ。個人単位の装備品ではない」

 するとダリゼルディス先生はそう言って来た。

「へぇ、そうだったんですか」

「大人になれば世間との付き合いで知ることになるさ……ってもうお前は大人だったな」

「はは、どういう意味で言ってるのかは、聞かないことにしておきますよ」

「それがきっと、正解だな」

 微妙に大人な雑談をしていると切り出しは終わり、金属をついに持ち出すことにへとなった……。


「篝火、よくそんなものを持てたな」

「腕部負荷は相当かかりましたけどね。後々メンテナンスが必要です」

「Zzzzzzzzzzzz」

 シックザールまで辿り着くと、順が床で爆睡している。

「まだ起きないのか。今回相当時間をかけてやってきたつもりなんだがな。……起こすのは可哀想だが、どうする?」

「なに、私が運転はやるよ」

 そう言ったダリゼルディスがハンドルを握ろうとするが、イフットがそれを止める。

「酔ってる先生は寝てて下さい。私がやりますよ」

 そのままイフットは笑いかけると操縦席の横にある地図を見て、シックザールを起動させた。

「士亜、順さんに毛布をかけてあげて」

「あぁ、分かった」

 須賀谷は順に棚にあった毛布を取り出してかけてやると壁に背を当て、自分も休む格好になる。

「後は誘拐犯についてだけだな。……何やら相当時間が掛かったような気がしたよ」

 そう喋ると篝火二号が、

「貴方は少し戦っただけでしょうが」と言ってきた。 

「……戦うことだって大変なんだよ」

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