6,愛を込めて
並べられた長机の上で、ひしめき合うように置かれた完成品達を見下ろす。
完成品達は逆に、どうしてそんなに大きいのだ、とい言いたくなるほどに大きな口をかぱりと開けて、この部屋の主である生徒会長をバカにするような表情で見返してきた。
「こんだけあると結構迫力あるもんだな! おい、そこのガキ。今どれくらい完成してんだ?」
完成品の乗った机の端っこの方で、机に突っ伏していいる少女を見る。彼女は肩書きでは書記ということになっているが、どんな仕事も的確にこなしていくことから、気がつけば仕事の範囲が拡大しすぎて多忙となった、少し不憫な少女だった。
「会長さんがなんとなく買って来ちゃった、カボチャさん達は……とりあえず全部、完成ですよ……何個とか数えてないです……ご自分の記憶におたずねください……」
疲れ果てた、という声色の少女。顔を上げずにもずもずと体を動かしながら答えた。
「まじか! トラックの荷台に積めるだけくれっつったから何個だか知らねぇが、あれ全部作ったのか? すげぇな……」
「私に任せてくれればざっとこんなものです……とかなんとか……。本当はクラスの子に手伝ってもらってやっとですよ。みなさん文化祭みたいでおもしろいとか言って手伝ってくれましたが……後でお礼しなきゃなので、何かお菓子的なものを買ってきてください……女の子達ですから、ブランド物のチョコレートがいいですね。というか私が食べたい……」
それきり少女は力つきたようで、くたりとすると動かなくなった。
「ぱねぇーなこいつ。まさか2日で全部仕上げるとは思ってなかったぜ……」
そう言って再び、完成品を見る。
カボチャの中身をくり抜いて、さらにそこから目と口をくり抜いて作った、お化けカボチャと呼ばれるものだ。使用法はただ一つで、ハロウィンの飾り付けだったりする。
顔の大きさはカボチャのサイズによりけりで、縮尺はきちんと変えてあり、表情も複数作られている。なかなか作者のこだわりが感じられる。
「お疲れさま。こんな時間までわりぃーな」
上着を脱いで、寝込んだ少女にかけてやる。と同時に、少女がなにやらカボチャを1つ抱え込んで寝ているらしいことに気がついた。
「なんだこりゃ?」
しがみついている腕を引き離した、カボチャを持ち上げてみた。
他のカボチャと同じようにハロウィンに向けたデザインになっているのだが、他のカボチャと根本的に違った。
このカボチャは、なんというか、よく知った人物をデフォルメしたような、ムスッとした無愛想な顔だった。よく知った——つまり、生徒会副会長とかいう人物である。
「このガキはほんとに物好きな奴だぜ」
カボチャを少女の腕の中に戻してやった。
別にこの少女について何かしらの感情を持っている訳ではないが、自分のカボチャが作られなかったことが少しだけ残念だった。
「さてと、俺は飾り付けでも——のまえに、ちっと向こうの様子を見ないとまずいか……やれやれだぜ」
身を翻し、少女を起こさないようにゆっくりと外へでた。
主のいなくなった生徒会室。並んだ長机の上に無数のカボチャが置かれている。そのでも一カ所だけ、あきらかにカボチャの密度が高い場所があった。群がったカボチャ達の中心には円形にスペースが作られており、その中心には他のカボチャとは違うデザインのカボチャが、ただ1つ置いてある。
……修正履歴……
2012/12/26
会長が部屋を出た後の文章がコピペのミスで、唐突に終わっていた箇所を修正。