37、憂鬱
目を覚ましたとき、頭の中に鈍痛が響いた。
思わず顔をしかめて、片手を頭へやった。
「ったく。一体何だってんだ」
上半身を起こして、目を開けばそこは白い病室だった。
見渡せば病室用の小さな机の上に、焦げ茶色の小さなコートが畳んで置いてあった。
「…………」
そのコートは生徒会に属する、後輩の少女のコートで、間違いなかった。
何があったのかを正確に記憶している訳ではなかったが、何が起きたのかはそれを見ただけで、嫌というほどに理解できた。
倒れたのだ。
それもこれで2回目である。前回は疲労だのなんだので誤魔化すことが出来たが、今回はどうだろうか? おそらく誤魔化すことを、あの男がそろそろ許してくれないだろう。
それにもっと面倒なことは、あの後輩がここまで来ていたということだ。コートを残して、本体はどこへ行ったのかは知らないが、間違いなく倒れている男を心配して見舞いへは来ている。
信頼できる後輩である。嘘を着きたくない相手だ。
しかしそれと同時に、もっとも真実を話すべきではない相手に思えた。
「……なんで話すべきじゃねェ相手なんだ?」
自分の思った思考に、ふと疑問を持った。
なぜだろう?
それに、誰にも話さないと決めたのだから、あの後輩を特別扱いする必要なんて無いのではないだろうか。
しかしそれは誤魔化したということで、突き詰めれば嘘を着いたということになる。
思考がループした。
男は考えるのを止めて、棚に置いてあった電子時計に目を向けた。
「……まじかよ?」
男が最後に記憶していた日から、4日の時が流れていた。
男は愕然としたまま、しばらく動くことが出来なかった。しかし暫くして、焦るように自らの携帯電話を探した。
さしたる苦労もなく、それは男の枕元に置かれていた。
最後に使ったときに充電が僅かだったと記憶している。もしかしたら、バッテリー切れで動かないのでは無いだろうかと不安に思ったが、そんなことはなかったらしい。
それはフル充電された状態で、日にちを表示した。
「……勘弁ねがいてェもンだぜ……」
カレンダーを確認した男は、携帯電話を無道さにぽいと投げて、背中からベッドに倒れ込んだ。
4日間、意識がなかったのだ。
それはもう、誤魔化せるはずがなかった。
男はうなりながら、目を閉じた。
はたして学園にはどんな連絡が入れられたのだろうか。そして——
ちらりと小さなコートを見る。
——あの後輩は、どこまで知っているのだろうか?
病は気からと言うが、男は常日頃から気持ちの上で敗北したことは無かったのだが……。
「……今回ばかりは、ちときついぜ……」
——コンコン。
と扉を控えめに叩く音がした。
なんとなくだが、間違いなくこれがコートの持ち主だと、分かった。
ドアの叩かれた辺りも、ちょうど彼女の身長的にそのあたりである。
——どうする?
正直話すのは気まずかった。




