25、夢物語
始まりの事件だった。
「ちょっと待て! そいつは変じゃねぇか?」
わがままな男だと思う。
急に生徒会長になると言い出したこの男は、そのための手続きを調べてくれと頼んできた。生徒手帳に全て書いてあると教えてやると、それを一読するや今の反応である。
「……この学園では普通なのだろう」
「確かに、この学園は規律だ伝統だとかで学園全体で行うようなイベントはねぇぜ。それは知ってる。だがよ、生徒会長を決めるんだぜ? 会長選挙で演説する以外に、演説する機会がねぇってのは流石にやりすぎだろう?」
「……俺に言うな」
しかしこの時に限っては、男の言うことはもっともだと思った。
通常の学園ならば、朝の通学時間や昼やすみを用いて演説をすることが可能である。しかしこの学園の自己アピールの機会は、ただポスターと生徒会選挙当日のみという小規模なものしかなかった。
「それも、そうだがよぉ……」
何か言いたげだったが、男はひきさがった。
事件が起きたのは、次の日だった。
登校するやいなや、男は当時の生徒会長の元へ向かい猛烈な抗議をした。その結果、当時の生徒会と意気投合し、その戦力を盾に職員室へ乗り込んだ。
初めは聞く耳を持たなかった職員たちだったが、戦火はどんどん広がり、概ね全ての生徒の署名を学園長に叩き出してからは自体は一変したのだった。
今年から会長選挙の1週間前は、朝と昼の時間で演説をしても良い。
「やっぱりこうじゃねぇと選挙が近いって気がしねぇなぁー」
たすきをまき、演説を行っている生徒を見ながら男が言った。やり遂げたという満足感があふれる、爽やかな横顔だった。
「……お前はまだ1年だ。どの道会長選挙には出られない」
「まぁな。だがな。俺達の選挙はこんな煩わしいことなく、初めから思いきり演説してぇじゃねぇか!」
理解出来ない美学だった。言葉を返すのも面倒になって、無視してしまおうと思った。しかし、男の言葉の中に何か聞き捨てならないものが入っている気がした。
「……俺達の?」
「おう! 俺達だ! 俺が会長! それでお前が副会長だ!」
否定するのも馬鹿馬鹿しくなるような、無邪気な笑顔が返ってきた。
「……自分からやっかいごとを背負い込む趣味はない。一人でやれ」
「まぁまぁそういうなよ! いいか! 良く聞けよ。俺とお前ならな——」
男は語る。
この学園での生活を少しでも刺激的なモノへ、そして自分たちならその刺激をさらに全校生徒へ飛び火させ、相乗的に学園を楽しいものに出来ると。
「……くだらない」
一言で切り捨てる。
男は嫌な顔一つせずに、豪快に笑っていた。




