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出発編その1

最初は、とんでもない足枷を押し付けられたものだ、と思った。

それが、変わってきたのは何時からだろう。

素直なところは、義弟に似ていた。

そして、この少年には、天賦の才があった。

10年もすれば、アルティナの儀式なぞせずとも、父を超えそうなほどだ。

この3年間、表ではアレンとその従者スライとして、裏では師スライドと弟子アレンとして、行動を供にしてきた。

あえて冷たく接するように心がけているが、この少年の将来が気にかかる。

迷っている?

たぶんそう、心の中に迷いが生まれている。

アレンの父ガーレンに敗れこの少年を3年間預かると約束した時に誓ったあの言葉。「3年経ったら……、お前の息子を殺し、お前を殺す」この言葉に対してガーレンは「できればな」の一言だった。

今、心の中に有るおりとも思えるこの感情を奴は計算の上でそんな言葉を吐いたのか、それとも、この融合により俺の手の届かない者へと変貌することを予測していたのか。

「ふむ……」

呪文を一度止めるとアレンの近くへ立ち、アルティナの壷を覗き込みつつ呪文を再開した。

次第にアレンの見ているものが見えてくる。

奇妙な戦場、奇妙な戦いの中、城壁のような堅牢な守り、当たる事が前提としか思えない剣さばき、偽りの戦場で偽りの戦いをするこの男は偽りの戦いをしていなかった。

おそらく、この男ならこの世のあらゆる戦場から生還できるに違いない。

その目、そしてその目よりあふれる魂が雄弁に物語っている。

~ほう…、一度手合わせを願いたいものだ~

俺の中の剣士がつぶやく。

アレンの集中力が増した。

今まさに、この男と融合することを決めたようだ。

アレンは、アルティナの壷に手を沈め始めた。

その時、彼の心にほんの一瞬触れた。

彼は、こちらの世界を知っている。

彼は、こちらの世界を狙っている。そう、アルティナの儀式を逆手に取り、術者を取り込み、こちらの世界で活動しようとしている。

アレンの融合軸は、この男に定まっていて変更できない。

俺の心の中で、アレンを守らねばならないという警鐘が鳴り続ける。

時間軸をずらせ!!

とっさに閃き、その閃きを即座に実施する。

彼の世界の基準で8年間、時間軸を遡ったあたりで危険を感じることが無くなり、そこで時間軸をずらすのをやめた。

時をほぼ同じくして、アレンは彼の魂をつかみあげ、融合した。

「ふう……」

額の汗を拭き、倒れているアレンを見てから、壁近くまで移動し、腰を下ろした。

大きく息を吐きながら、壁にもたれかかる。

アルティナの儀式は、異世界の有能な人物を取り込み一体となる儀式だ。

失敗しても、意識が混ざり合い、別の有能な人物になるだけ。

これが、俺の知るアルティナの儀式だ。

リスクは、自分の意思を保てない可能性が高いということだけのはずだった。

今回の事態は違う。

あろう事か、取り込まれる側の意思が逆にこちらを取り込むつもりだったということだ。

彼は、過去にこの世界に来て活動したことがある。

そう考えることが正解だろう。

無性に興味が湧く、この世界に以前来た事のある剣士、その彼はこの世界で何をしたいのだろう。

最初の、アルティナの儀式、そしてその帰還から何年間この世界を狙い続けてきたのだろう、その目的が知りたい。

だが、今目の前に居るのはその意思を持たない彼の融合した姿……

そこまで考えて、自分の失敗に気が付いた。

今アレンと融合した人物の第1回目の融合は今日、この場でこそ第1回目だったということに。

そして、俺の頭の中にバラバラに散りばめられたパズルのピースが全てそろった気がした。

「そうか……、とんだ道化だな、俺は!」

懐から愛用のダガーを取り出す。このダガーと呼ぶには少し長めの剣は、名工と言われる者の作品で、以前義弟とトレジャーハンティングしている時に発見したものだ。

もう幾人もの血をすすっている。

「約束の3年まであと一月ほどだが……、もう待つ必要も無いな」

つぶやいて、立ち上がると、歩みを進めた。

「まぁ待て、約束は守るべきだと思うぞ」

何時から居たのだろう?

入り口にガーレンが立っていた。

虚をつかれ、歩みを止めた瞬間を狙って、ガーレンは飛び込んで俺を突き飛ばした。

悠然とたたずむと、

「待ってくれてありがとう」

と語り、口の端を持ち上げた。

そんなガーレンを俺は睨み付ける。

「お前は何を考えている?」

「何にも。俺は俺の信じるところによって行動しているだけさ」

なんともふざけた言葉回しだ。

「その信について聞きたいのだが?」

「、、、まだ早いな。でもそれほど先の話じゃない。いずれにせよ時が来れば氷解するさ。」

喉元まで出掛かっている言葉を飲み込む、まだこのカードは切れない。

まずは現状認識だ。

こちらはアルティナの儀式の万全を期すために3日間に渡ってアルティナの壷に魔力を注入し、通常の儀式で使う魔力の優に5倍以上は注入している。

魔力は通常の半分以下、戦えないわけではないが圧倒的な魔力で押し切ることは難しい。

加えてこの構築物は洞窟を補強して建築されており、かなり強度の低い部分が見受けられる。

魔術戦には向かない場所であること、魔力の大半を失っていること、そして剣の実力ではおそらく勝てないこと、不利な条件はこの3点。

魔力の増幅を可能にする2つの月、エランとマナが満月であり、通常の倍近い魔力を扱えること、そして今の目標は『アレンを殺す』であること、有利な条件としてはこの2点。

魔力を失っている件に関しては、2つの月のおかげでハンデにはならないが、この場所ではたとえ使えてもあまり意味が無い。

剣の実力で勝る相手をかいくぐり、その後ろで倒れている我が弟子を殺す。

今おかれている状況はこんなところだ。

次に戦いのシミュレーションを行う。

この戦いは如何にガーレンをかいくぐりアレンに攻撃を加えるかという単純なものだが、戦いの起点がつかめない。

攻撃のためのあらゆる起点を、イメージの中でガーレンはつぶしていく。

伝説的な英雄ではあるが一介の剣士に過ぎないガーレンには、本来魔術を使った目くらましからの奇襲が効果的だ。

この目眩しに殺傷能力があればあるほどに効果的なのだが、その起点である呪文の詠唱を察知し攻撃を加えてくる。

この男はそんな男だ。

「今《我にの許へ、》わかる、話もあると、思うぞ《大いなる御霊》、」

「ん?」

「俺と、お前の、どちらが強いのか《大いなる魂》、3年前とは違うぞ《顕現せよ!》!?」

突然目の前に剣の切っ先が浮き上がる。一瞬の反応さえ許されなかった。

凍りつく背筋に粘液質の無節足動物が這い回る感触を覚えた。

「……同じだ。先程お前を突き飛ばした際、そして今も、俺がその気なら2度3度は死んでいる。それと、会話の中に呪文を織り交ぜて使うのはやめた方がいいな。少し聞きにくい」

気付かれた…、どこまでも喰えない男だ。本当なら、ここでもう一つ詠唱して、閃光の魔法を使うつもりであったのだが、無駄に終わったようだ。

今、この場でこの男と争うのは得策ではない。

「まあいい、目的が変わった、今日ここでお前と立ち会うまでも無いだろう……、お前を殺す前に、息子を殺す。それまで可愛がっておけよ」

後ろに向けてステップする。先の詠唱で、筋肉のリミットをほんの少し解除しておいた。そのおかけで、出入り口付近まで一気に飛ぶ事が出来た。

しかし、それもしなくて良い事のようだった。

「本当に喰えない男だな……、見逃す気か?」

「そのつもりだ、アレンをここまで育ててくれてうれしい限りだが、お前の仕事はこれだけじゃない。だから自由にやってくれ」

相変わらず謎の多い男だ。だが、すべて謎のベールに包まれていたガーレンの秘密の一端を握った気がした。

「そうさせてもらう」

俺は身を翻すと、その場から立ち去った。


相変わらずの筆の遅さのせいで書き溜め分を食いつぶす毎回のアップです。

書き溜めでは「出発編」を書き終わっていないので、がんばらねばと思っています。


まぁ、チェック入れてくれる人も多くないので、気楽にやります。

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