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序章その3

武練場を後にした僕は、すぐの突き当たりを神殿の奥へ曲がった。

僕のあてがわれた部屋とは反対となる方向だ。

それにしても、先ほどの話が気にかかる。

アルティナの儀式が通過点である事は解っていた。

より強い自分になるための通過点という意味でだ。

より強くなるという僕の望み、それを受けての親父の勧め、そう思っていた。

でも今、僕の頭の中には違うものが形成されている。

親父は僕にアルティナの儀式をさせた後、一緒にアルティナの儀式を受けた者達と何かをさせたがっている。

その何かについては皆目見当がつかない。

だから、僕は部屋に向かわないで、奥へ向かう。

しばらく進むと先程の武練場よりも少し狭い空間が現れる。

先程の場所は大武練場、今居る場所は小武練場と言ってもいいだろう。ただし、正式名称は聞いたことが無い。

僕は小武練場を中央部まで歩くと、入り口に振り向く。

「さて!話でもしてみる?」

僕の言葉に飛礫が返ってきた。それを抜刀で弾く。

その影から現れる第二の飛礫。弾くに要した剣は勢いを殺さずに目の端で第二の飛礫を追い、これを避ける。

剣は、ほぼ360度の円を描き高い金属音と供に静止した。

目で確認する前にバックステップ2つ、赤い髪が右に流れるのをサイドステップで追う。

何者かが、先程のレロイとの戦いを見ていた。

一瞬見失うが、気配が下方から接近する。

大武錬場を出たときに後についてくるのを感じた。

さらにもう一つサイドステップをしつつ、けん制のための剣を振るう。

ここにつくまで、気配を殺すことなく僕について来ていた。

目の端に光るものが動く。前方へ跳びそれを避ける。

だから、ここに来れば何らかのアクションがあると思っていた。

一回前転をして体を捻り、正面に捉え剣をかざす。

激しい金属音。突然の来襲者が視界に映る。

「マナの…、一族だね?」

僕のバックステップと供に剣が弾けあう。

戦闘時に飛礫を使う者はそれほど多くない。

ましてや、ひと息に二つの飛礫を軌道を重ねて投じるなどと言う業を持つ者と言えば、マナの一族の手の者以外には考えられない。

僕の言葉に答えるようにすらりとした体を伸ばすとこちらを睨みつけてくる。

赤い髪が踊るように揺れる。

「非礼は充分に承知してるんだけどさ。確かめさせてもらったよ」

すぐにでも剣を打ち込んで来るような雰囲気に、僕の精神も鋭くなっていく。

「気に入ってもらえたかな?」

「気に入らないねぇ!!」

一瞬、消えたかと思うような素早い打ち込み、それを左に受け流しつかで腹を狙うが、途中でやめて足払いをかわす。

恐るべきはマナの一族の実力か、少なくとも迅さ(はやさ)と言う一点においては、完全について行けない領域にあるようだ。

そんな認識が生まれ、一瞬にしてそれを否定する認識が浮上、生まれた認識は消えていった。

違う。

確かに迅いに違いはない。

だが、それが単純に速力から来るものだと認識した事が間違いだった。

視界から消える事がそれすなわち速力を表す事にはつながらない。

的確に死角へ入って行く業。

これが僕の相手の、本当の力だ。

繰り出す業一つ一つが見事に死角から放たれる。

理解してしまえばしのぐ事は難しくない。

常に死角から繰り出される攻撃は慣れてしまえば単純なものとなる。しかし、心の警鐘が常になり続ける。

慣れてはダメだ。

戦いは常に変化する環境の中で行われる。

柔軟さに欠ける戦いは決して戦局を有利な方向へ運ぶ事は無い。

慣れて行く体に心の鞭を打ち、平常心を保つ。

まずすべき事は、距離を保つ事だろう。

防戦一方となったこの場を、距離を保つ事で切り替え、攻勢に転ずる。

ただし、今、対しているのはマナの一族の者だ。

ひと息で二つの飛礫を放つ業を持つ者に対して距離を取る事は得策とも思えない。

おおよそ僕らしくない戦いこそが活路だ。

死角から放たれた刃に対して渾身の力で剣を叩き込む。

激しい金属音、この剣は流さない。

叩き込む!

そんな意思を乗せた一撃に、少し離れたところで金属音が答えた。

そちらに視線を振ると、先程の、僕の死角の位置から、軽いステップで床に落ちた剣の所までを、ひっととびに跳ぶ姿が目に入った。

不機嫌そうな顔のまま、落ちた剣に軽く足をかけると、蹴り上げて柄を手に収めた。

蹴り上げる時に、靴の端から金属質の何かが顔を覗かせていたのは暗器あんきたぐいだろう。

そのまま軽く一振りして鞘へ収める。

身長は僕とレロイの間くらいだろう。茶色とも灰色ともつかない色の体のラインが良く出た服を着ていた。

そんな地味な色合いに、赤い髪の毛が際立つ。そしてその髪をキーワードに僕の頭からひとつの言葉が湧き上がる。有名な一節なので、よどむことなく言葉が紡ぎだされる。

「『燃え立つような赤い髪の剣士、その金色こんじきの瞳は戦場を支配し、万物のことわりを映す』か……、まさかこれほどその言葉が似合う人と出会えるとは、思っても見なかったよ」

「アルティナ伝説の一節、有名な言葉に照らしてもらって光栄だけどね、あいにく私の瞳は金色じゃないよ」

そうは言っても、ゆれる炎に照らされたこの場では、金色の瞳と言う表現がふさわしかった。

「君が…、5人目だね?」

おそらく親父が選んだのは5人だろう。

この国の戦闘小隊では最小単位が5人だからだ。指揮官、物理戦闘員、魔法戦闘員、救護員、諜報員。ここにそれぞれ、僕、レロイ、バナック、エレン、そして眼前のマナの一族が当てはまるのだと思う。

「あたしはね、そんな話をしたくて、のこのこ着いて来たわけじゃ無いの、その事は解るわよね?」

有無を言わせない雰囲気だ。やれやれと肩をすくめてみたくなる気持ちを抑えて、僕は剣を腰に戻した。

「あたしは、マナの一族、王城警護隊第2部隊4番隊隊長のヒミカ、あんたの事はよく知っているつもり。親の七光りで剣を振るい、主たる戦闘を従者に任せ、武功のみを手中に収める、仮初めの英雄としてね」

言葉も無い。それが僕の本来の姿なのだから。

「でも、あたしの見誤りだった。さっきのレロイとの戦闘であんたの実力は理解したよ。間違いなく一流の剣士、少なくとも王がソードマスターの称号を授けるに値するだけの実力があんたにはある。でも解せない、気に喰わない!!それだけの実力を有していながら何故自分の実力で武功を手に入れないのか、従者の手柄を自分のものにするのか、あたしはその答えを聞きたくてここに来ているの、マスター・ガーレンの顔に泥を塗るような行為よ」

ヒミカの言葉は僕の中に渦巻くジレンマとほぼ同じだ。同じなだけに答え様が無い。

「それでいきなり、あのごあいさつなのかい?僕の行動には僕自身ですら理解出来ないものがいくつもあるんだ」

親父が突然連れてきたスライドと言う人物は、僕に飛躍的な実力アップを約束してくれた代わりに、いくつか条件をつけていた。

一つは『師匠としての命令には背かない』こと。

一つは『命令された事柄について熟考する』こと。

一つは『師弟関係は3年間のみとする』こと。

一つは『全ての武功はアレンのものとする』こと。

一つは『表向きは従者と雇い主の関係とする』こと。

だから、この場でヒミカの問いに答える事は出来ない。

僕の出来る事は事実を語れる範囲で語るくらいだ。

先程の連戟は、僕の実力を値踏みした上でのもの、その評価は言葉どおり決して低くは無い。殺気こそ無いものの躊躇無い剣先によって、先程の戦闘はこちらの勢いをそがれたままに終始した。

その躊躇無い剣先は低い評価の者には与えられないものである事は理解できる。

しかし、値踏みされた事、そしてその認識が評価の内側で収まった事、つまり、ヒミカの評価以上の力を発揮できていなかった事が、情報提供を拒んだ。

「君の評価は間違いないよ……。僕は親の七光りで剣を振るう仮初めの英雄さ」

この状況で当てはまる言葉なのかどうかは別として、特別にこだわる必要の無い部分ですら素直になれない、この辺りがまだまだ未熟な所なのだろう。

「あたしには話す気は無いって事ね?」

ゆらりと、ヒミカの髪の毛が燃え立つように揺らめく。

本人は気付いているのか気付いていないのか、良く解らないが、ほんの少し頭が動いている事が原因だ。

語句に怒気をはらみ、目が真剣なものへと変わっていく。

「じゃあ仕方が無いね、あたしの気の済むようにやらせてもらうよ!」

一気に飛び込むにはやや開きすぎている僕とヒミカの間を、ヒミカの跳躍は一瞬で剣戟可能領域まで運ぶ。

僕はそれをサイドステップでかわしつつ、剣を抜き放ち、わずかに剣先が届く部分にこちらの剣を当て上方へ流す。

剣と剣とが触れ合うには少し異質な高い音が耳に届く。

ヒミカの剣は先ほどに増して力強く、容赦の無いものだ。

油断したままであれば、たとえ一流の技量を持ってしても攻勢に移ることも出来ずに畳み込まれかねない。

でも、ヒミカの剣風はほぼ理解したつもりだ。

こと、真剣を持って行う立会いにおいては、死角から放たれる攻撃は当たるイコール甚大な怪我、これが自明の理だ。

怒濤の如き死角からの連続攻撃は、たとえ虚であっても、実として対応せざるを得ない。

その場合の利点は、死角をつくとは言え、行動の制限がまるで無いわけでないと言った状況から来る攻撃の単調化だ。

いくつかのパターンに攻撃を絞り込む事が出来る。

そこに発生する落とし穴は虚としての死角からの攻撃と実としての死角からの攻撃とを使い分けさせる隙を与える事。

そしてその攻撃を有効に作用させるためには、死角からではなく、はっきりと認識できる形での攻撃が必要となる。

さらに、忘れてはならないのがヒミカの素性だ。

マナの一族。

アルティナ伝説の中でも一際輝く伝説の従者、右を守護する者フォルストが始祖と伝えられるこの一族は、この国の中でも最強と言って過言で無い戦闘集団だ。

王の守護を最優先とし、守護の名目の下であれば王の勅命さえも無視できるほどの過剰な権限が与えられている。

それだけに、敵を排除する方法については制限を持たない。

言い換えるならば、剣士として相対していると言う認識を捨てて、かからなければならないと言う事だ。

飛礫や暗器の使用についても制限をする必要性が無い以上、確実に使用してくると見て間違いないだろう。

ともあれ、僕のすべき事は極めて単純だった。

虚の攻撃から実の攻撃を仕掛ける一瞬を見極めて、実に移る直前の虚の攻撃に合わせて攻勢に転ずる事。

相手の思惑を外し、ほんの一瞬の混乱を誘い、逆に畳み掛ける。

ヒミカの連戟を上に下にと剣で流しつつ、その機会を虎視眈々とうかがい続ける。

ヒミカの攻撃による利点を捨て、落とし穴を埋め、目の端のはっきりと視認出来ない部分に揺れる炎のような髪を追い、剣を振るって攻撃を受け流す。

油断のならない相手であると言う認識を強く持てば、単調な攻撃から来る気の緩みも最小限に食い止めることが出来る。

虚から実へ移るタイミングは、未だ感じ取る事は出来ない。

どうやらヒミカの思惑を僕が看破したのと同じように、僕の思惑もヒミカには感じ取る事が出来たのだろう。

不意に攻撃の手が止まると、僕の視界にヒミカが現れた。

一気に飛び込めば剣の届く範囲ではあるが、手傷を負わすまでには至らない。僕たちにとってはセーフティラインのギリギリと言ったところだ。

ヒミカの剣が腰に戻っている事を確認すると僕も剣を納めた。

「やめたわ」

「…そうみたいだね……」

この場において、決着を図る事、それをやめたと言う意味だろう。

「あんたのやっていることについては、あたしは容認してないの。でもね、あんたの剣には曇りが無いわ。だから……、しばらく様子を見させてもらう。あたしの癇に障れば、後ろからでもイクよ?」

ほんとうに、やれやれだ。

「油断しないようにしておくよ。どうせ死ぬにしても背中に傷は負いたくないからね…」

今の状況では僕からの質問も先ほどの僕の答えと同様、まっすぐな形では返って来ないだろう。

僕は油断無いよう彼女に背を向けると、出口に向かって歩き出した。

今度こそ自室へ戻るために。


筆の遅さに自信があります。



次回でやっと、5人の儀式参加者が出揃いますが、名前はもう出ていますので、ちょっとその5人を紹介します。


アレン

この話の主人公のはず。

国内では有名な剣の使い手。

だが、本人にその自覚はなく、従者に戦闘を任せる偽者の英雄だと思っている。

実際のところかなりの実力者なんですがね。


ヒミカ

この国の諜報機関に当たる一族『マナの一族』の娘。

ソードマスター・ガーレンにあこがれている。

短剣と身のこなしで相手を翻弄する戦い方が信条。


レロイ

記憶を無くしモウロカ村にたどり着いた青年。

ガーレンに助けられて剣の道を志すが、

道半ばで道場主の娘と恋に落ち、

結婚の直前にガーレンにより儀式参加の要請を受け参加を決意する。

2本剣の使い手。


エレン

過去を失った聖クリス協会の修道女。

治療の技術はすばらしいものがあり、巨大な魔力の器を持つ。


バナック

森の賢者として知られる。

マナの一族が簡易呼称の対象としているウィザードマスター。



さて、まだ書き溜めがあるので、しばしのお付き合いを。

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