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Distiny of memory   作者: ゆう
3/7

夜明け



この世界にはないもの、いや…ないというよりかは「存在し得ない」と言うべきか。



僕は時々その「存在し得ないもの」を感じることがある。



この世界にはない雰囲気、光、影…全てが異世界のもののようで…


それを、夢の中の話にはしたくなかった。



だから何を言われても、どんなに虐げられても僕は気にしなかった。

これは現実、そう自分に言い聞かせることで僕は僕でいられるから…



屈託のない笑顔、時折見せる卑屈な笑み、それでいて華美なその姿…

悪魔とも天使ともとれるその姿はいつも僕の脳裏に現れる―



ここは僕の居場所ではない。

「彼女」の元へ、そしてあるはずの自分の世界へ―僕は必ず帰る…

これが確証もない僕の願いだ―。




今になって考えてみると―――



神の定めはこの時既に決まっていたんだ。


現実か非現実か分からないこの世界…



残忍な神は―



舞台から楽しげに見下ろしていた。












―お、桜だ―


記憶に残る中では三回目の桜だったが全く色褪せない。ずっと綺麗で……僕の記憶を付け足していく。

ヒラヒラと舞い降りてきた桜の花びらを見て僕はそう思った。




「お!変人空君じゃん!」


僕は背後から聞こえる声を無視して歩き続ける。


「おい!無視すんなって!」


それでも尚、僕は気にも止めず歩き続けていたが突然肩を掴まれた。


「…何…?」


「そう怒るなって!なぁお前さぁ、自分の本当の名前すら分からないんだろ?お前の親も息子が宇宙人とでも思ってお前を捨てたんじゃねぇか?はは」


―…は?―


突然話掛けてきたと思ったら何だそれ…


怒りも屈辱の感情も涌かない。

多分、記憶を無くす前の僕がそれを全て持ってるんだ…


―何だったんだろう…多分また、からかって遊んでるんだろうな…―


しかももう目の前にはいない。悠々と校舎の方へ歩いていく。


―本当に、何がしたかったのかな…―



僕―桜葉空は記憶があるなかでは変人扱いしかされたことがない。


「記憶がある中」というのは僕が二年前に倒れている所を助けられたからだ。

僕には記憶がなかった。自分は誰で、何歳で、どこにいたのか、親の顔さえも何もかも全て……

思い出そうと努力はした。だけど僕の頭は最初から何も存在していなかったかのように記憶を辿ることを拒んで許さなかった。

唯一の光は「あの夢」と存在するはずもない想像の「僕のいる世界」。

少女は僕に語り掛ける。夢の中で……だがこんな僕の戯言を信じる人がいるはずもなく、おかしいんじゃないかと奇異の目に晒される結果だった。



そして僕を引き取りにやって来る家族も現れない。警察も施設の方も、僕の素性を探ろうとしてくれたけれど事態は一向に進まないまま…。



噂というものは怖いもので、記憶のない少年の噂はすぐにこの狭い地域に広がった。


毎日施設にやって来る警察、そして好奇心に駆られた人々…



「本当に何も覚えてないの?」「早く家族が見つかるといいね」


思い出せないくらい色々なことを言われたと思う。



…だけど分かっていた…記憶もない素性も分からない僕の存在なんて、皆にとっては奇怪な存在でしかないと…。



一向に事態が進まないこともあって、とりあえず僕には「桜葉空」という名と「中学生」という役職が与えられた。名前は、施設の方々がつけてくれたそうだ。空のようにすみわたって、自由に生きてほしいと願いを込めて。中学生というのは、年齢の分からない僕の見た目と話した結果で与えられたのだろう。



僕は居場所が欲しかった。記憶もないのに「邪魔」と言われることだけは怖かった。だから今、こうして空っぽのままでも生きている。人付き合いも苦手で、友人は愚か話す人すらいない。僕に話掛けてくる人が興味本意だということも全て知っている。…それでも、新たに「高校生」という役職を得て生きている…生きるしかない…本当の自分を知る為に…。



結局僕自身が一番自分のことが分からない。思い出したいとも思うし、自分が今まで歩んできた人生も知りたくてたまらない。けれどそれは叶わないことなのだろうか…




高校生活も二年目。

今年こそ、少しでもいいから話せる「友達」というものが欲しいものだ…




そんな僕だが―最近気になることがある。



去年の暮れ―12月の半ばだっただれうか。雪が降り、手ももちろん悴んで震えるような日だったと思う。



校門を通り抜けた僕を一人の少女が見ていた…視線を逸らさずにずっと。僕は堪らなくなってすぐに視線を逸らした訳だが、その少女の視線は今も続いている。



少女というか、同じ制服を着ているのだから同じ学校の生徒であることに間違いはない。ショートヘアーに小柄な体。その瞳大きなは何かを暴いてくるかのようで僕の苦手なタイプだった。しかし、僕はその少女をその日まで一度も見たことがなかった。



その視線は時を追うごとに鋭さを増しているのではないか?現に今日もその事柄の対象だ…

正直、怖い。怖くて堪らない。

後ろから刺さる視線を感じて恐怖は更に高まる。


そーっと彼女の方に目をやってみた。


―なんなんだこの視線は…それにこの目付き…普通じゃない…僕が何かしちゃったのかな…それなら言ってくれればいいのに…―



彼女は僕と目が合ったことで更に視線を鋭くする。


―…こ、これ以上目を合わすのは止めたほうがいいかも―



そう思い、彼女から目を逸らしたの―だが。

目を逸らした瞬間、あの感覚が襲ってきた。記憶を無くした二年目前から頻繁に襲ってくるあの感覚…。


僕にとってはこれが唯一の手掛かりであり光…毎回同じ感覚だけれど、僕の記憶の手掛かりになると信じている。…いや、信じたい。懐かしくも、デジャヴともこの感覚―世界から切り離され、陸の孤島にいるような―。でも不思議と孤独感は感じない。むしろ、心地よい…。



目を瞑ると見えてくるあの目映いばかりの光は…そしてその光の下に現れる深い闇は何なのだろう?



何度も何度も見ている光景なのに、答えは全く出てこない。

―僕は「何」なんだろう?―




そんな風に考えているうちにいつもはこの感覚が過ぎ去るのだが、今回は違っていた。

―より一層強くなる光…深まる闇―その光と闇に飲み込まれそうになったとき、脳裏に声が響いた。



「私を…私を助けて!私を見つけて…!私は…ここにいるから…!」



今にも消え入りそうな過疎簿い少女の声―それでいて、耳に残る透き通る声―

僕は我に返りはっとする。

この声は…あの夢の少女じゃないか!何回聞いたか分からないあの言葉。




「ここにいる意味なんてないじゃない!」




顔も見えない、名前も分からない―そもそも誰に向けられた言葉なのかも分からないけれど、その言葉は僕に訴えかけてきたんだ。



「これは夢じゃない―現実に起こったこと」なんだって―。



すると、少女の声と続けざまに鋭い男性の罵声が放たれた。



「おい!リュミエールの輩はここに出てこい!いくら隠れたって無駄だ…!敵と言えども気配は消せないからな……隠れてないでさっさと出てこいよお!!」




―…?リュミエール…―



その言葉…どこかで…―




―これは…僕の頭の中で起こっていることなのか?―



―結局はいつも…僕が作り出した幻想なんだ…―




「きゃああぁぁ!!」

「逃げろお!!」




だが、僕の耳には生徒達の叫び声が鮮明に聞こえた。

逃げ惑う足音と一緒に。



―これは…現実…?―


―夢じゃない…のか…?―



続けざまに起こった「声」から我に返って目の前を見てみるとひどい有り様だった。さっきまでの登校風景は見事に消え去っている…


まず、生徒達が一目散に校門に向かって必死に走っている。

あるものは必死の形相で。あるものは転びそうになりながら。



登校中だった生徒がぼぼ全員と言っていいほどきた道を引き返している。



状況が全く理解できない。



―いったい何がどうなって…?―



咄嗟にパニックに陥った僕の頭に続けて聞こえる凛々しい声。




「やっぱりね。来ると思ってた…あんたたちオプスキュリラの狙いはリュミエールなら誰でもいいんでしょ?…いつまで経っても低脳な奴らね。」



生徒が愕然と減る中でそこに立っていたのはそう……




―例の“彼女”だった―


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