俺が魔女っ娘!?
息抜きに短編投稿。
序盤の文章がやたらと思わせぶりなのは、もともと長編用の文章だったからですww
――――――暗かった。
そこは、太陽の輝きも月の蒼明もない、ひたすらに暗闇が続いている空間――――云うなれば果てのない長い、永いトンネルを思わせるような場所だった。
この世のあらゆる事象から隔絶された場所。
でも、寂しくはなかった――――――むしろ、楽しいとさえ感じた。
あの光があったから。
それは、手のひらに乗るほどの水晶から発せられるごくわずかな光だったけれど、とても温かで、優しくて、死んだ母さんを思わせるような安らぎを与えてくれる――――そんな不思議な光だった。
その水晶は言葉を発する事が出来て、俺は来る日も来る日も水晶と喋っていた。
その声は、ある時は嘯き、またある時は大喝。幼い頃の俺と喜怒哀楽を共にしてくれる唯一無二の存在だった。このほんの小さな水晶のおかげで毎日が楽くて、いつしかここが幼少期の<僕>の居場所になっていた。
成長した今ではどうすればあの場所まで辿り着けるのかもう思い出せないけれど、きっと大丈夫だろう。目を閉じれば瞼の裏にあの時の光景が映り、脳内には優しげなあの声が響き渡る。
関係のない事だが幼少時代の<僕>の過去の記憶、そして夢は時々俺の中で混合する。それくらいに俺はあの場所が大好きで、毎日あの場所の事しか考えていなかったからだろう。
俺は……一体いつから――――――――
☆
――――――寒い。
吐く息が白く、気温が低いことからここが外だと認識する。はて? 俺は一体何をしようとしていただろうか? 目の前にはコンビニ、そして手にはビニール袋が提げられているので、コンビニでの買い物から帰る途中だと云う事は容易に推察できた。
何故だろうか? 脳が正常に思考をしない。まるで夢を見ているような妙な浮遊感もあるし、自分の行動がまるで他人事のように感じる。
「……っさ……まの……はこの奇跡の魔……っ子、クリ……ンが相手……っ」
何処からか声が聞こえる。あまりはっきりとは聞き取れないが、その低い声音は中年男性を連想させる。しかし、辺りを見回しても人がいる様子はない。幻聴か? 疲れがたまっているのだろうか……。
微かに聞こえてくる幻聴(?)に耳を澄ませていると、徐々にはっきりとしてくるその声に――――――
「黙れ!!! 私が真の魔女っ娘だ!!!!!」
――――――耳を疑った。
ハハ、魔女っ娘だってよ……今の俺はマジで夢でも見てんのかね……。大体、その声からしてあまり魔女ッ娘を想像できないような気がするのだが……。
――――――ドゴォォン!!!
直後、俺の周囲で炸裂した轟音によってその思考は遮られた。それと同時に土煙が巻き起こり、俺の視界はソレで覆われる。なんだ!? 何が起こった!!!
そして、土煙が収まると同時に、俺の視界に飛び込んできたのは――――
「おっ? 司じゃないか!!! なんで此処にいるんだ?」
――――全身を女の子らしいピンクの装飾、そして丈の短いミニスカートに身を包んだ親父の姿だった。その異様な光景を目の当たりにし、すべてを把握する。
「なるほど、夢か……。」
そうだ。きっと夢だ。
こんな奇怪な姿をした変態が現実に存在するはずがない。なんか慣れ慣れしく名前とか呼ばれてる気がするけど、気のせいだよね!!
「どうした司? 顔色が悪いが、何処か具合でも悪いのか?」
お前の所為だよ!!! とツッコミを入れたい衝動に激しく駆られるが、我慢だ。夢にムキになってどうする。
「何か……グロテスクな物を見たような顔をしているが、本当に大丈――――――」
「お前の所為だよ!!!!!」
我慢の限界が訪れ、大声でツッコミを入れる。ふっ、耳元で叫んでやったわ。しかし、そんな事は物ともせず変態は云う。
「落ち着け、まずは父さんと一緒に魔女っ娘になるんだ!!!」
「ふざけるな!! 誰がなるか!!! 後、お前を親父とは認めない!!!」
「まぁ、待て。同じ変態同士仲良く乳繰り合おうじゃないか!!」
「変態はお前だけだ!!! ええい、こっちに来るんじゃない!!!」
大股でこちらに近づいてくる親父(?)に力強く肩を掴まれる。そこに先程までのふざけた雰囲気はない。
「な、なんだよ?」
「いいか? 落ち着いて、よく聞け。今、父さんは敵と戦っている…………ここにいればお前の命も危険だ。奴が来る前に全力でここから逃げろ!!」
馬鹿馬鹿しいと思った。
その格好で、この状況で何と戦うと云うのか。所詮は変態の妄言だろう。
しかし、そう告げる親父の表情は真剣だった。母さんが死んだ時以来だろうか? 親父のこんな顔を見るのは……。
「あのな、親父――――――」
口を開いた矢先、言葉を止めてしまう。いや、その表現は適切ではない。
正確には言葉を遮られたのだ。
激しい轟音によって。
――――――ドゴォォォォォォン!!!!!
そんな鼓膜さえも震わせる様な大音量。その音量だけでも先程の比ではない事が解る。
周辺の大地は抉れ、震え、立っている事さえ困難になる。あまりの大威力からか空気さえも震えている様な錯覚を覚える。
否、それは錯覚ではなかったのかもしれない。事実、空気の振動が肌に直接伝わってくる。大気中の酸素さえもチリチリと焦がしている。
視界が覆われる。
今度は土煙だけではない。
飛来した青白い光によって、抉られた大地の破片や放たれた『何か』の残滓が、物理的な威力を持って俺の視界を阻害する。
回避を試みるも、足が思い通りに動かない。大地の鼓舞が終わって尚、俺はその場から動けずにいた。 まだ、震えている。
もちろん大地ではなく、自分の足が……だ。
急速に展開される想定外に、俺の頭の中は目まぐるしく思考が渦巻いていた。
何故こんな目に遭わなければいけないのかという疑念。
次にそれによって生じる怒り。
しかし、一番大きかったのはやはり恐怖。
何せ俺はただの一般人だ。いきなりこんな場面に、そしてこんな変態に出くわして平静を保っていられるはずがない。
――――――恐怖、恐怖、恐怖。
それまで感じていた憤りや思考は全て恐怖で上書きされる。
足がすくんで立ち上がれない。
思考が正常に機能しない。
これらを夢だと断言したところで、現状は変わらない。夢にしてはあまりにリアルだった。痛いし……。もうヤダ、帰りたい。
――――――ドゴォォォォォォン!!!!!
『そこにいるのか!!』
声と同時に、もう一度放たれる大威力の一撃。
狙いは先程よりも、正確。というか、直撃コースだった。
恐怖がせり上がる。
マズイ、今度こそ駄目かもしれない。
そう思い、ギュッと目を瞑る。放たれた一撃は俺を跡形もなく消し去る…………事はなかった。
「…………アレ?」
いつまで経っても、攻撃が炸裂しない。
疑問に思い、ゆっくりと閉じていた瞼を開ける。目を開けて真っ先に飛び込んできた光景に思わず、悲鳴を上げそうになる。
そこに在ったのは――――おそらく俺を庇ったのだろう、背中を血だらけにし倒れている親父の姿だった。
「親父!!!!」
「……っ司……ハァハァ」
思わず大声で駆け寄る。
おそらく呼吸器官までやられたのだろう。そう答える親父の息は荒く、声も普段の親父からは想像も出来ないほど弱弱しい。
「馬鹿野郎!!! なんで庇ったりなんかしたんだよ!!!!」
「……っふ、愛してるからに決まってるだろう」
「こんな時までふざけてる場合かよ!?」
「ふざけて、なんか……いない……。最愛の……息子の……ピンチに、父さんが黙ってるわけ……ないだろう?」
親父は、まさしく息も絶え絶え、といった風に弱弱しく言葉を紡ぐ。クソッ!? 何なんだよ!! 夢なら早く覚めてくれ!!!
しかし、そんな内心へと裏腹に自体は最悪へと推移する。
「フンッ、まだ息があるようだな……」
「――――――――ッ!?」
不意に背後から声が聞こえる。
いきなり間近に聞こえたその声に思わず背筋が凍ってしまう。
ゆっくりと背後を振り返り息が止まる。
すらりと伸びた長い手足。
はだけた胸元に大胆な露出。
キュッと引き締まった逞しい肉体。
短く切り揃えられ金髪は、オールバックにしている。
全身フリルだらけのゴスロリファッションに身を包んだ姿は、正真正銘の―――――――
――――――変態だった。
「ぎゃぁああああああああ!!!! 変態だぁああああああああ!!!!!」
「………………」
瞬間。
俺は我を忘れて叫んでいた。
思わずこの場で嘔吐しそうになる衝動を必死で抑える。吐き気が止まらない……。
悪夢だ。
変態一人でも手に余るのに、それが二人……だと? うぅ、気持ち悪い……。
「あれ……? 可笑しいな、目から水が出てきたぞ……」
俺の反応に気づついたのか、変態が涙を流して泣いている。自覚はあるんだね……。
「貴様!! いきなり出てきて人様を変態呼ばわりか!? 私だって好きでこんな恰好をしているわけではい!!!! 強さ故の代償だ!!!!」
「いや、そんなこと言われても…………知らんがな……」
「ええい、貴様から先に殺ってやる!!!」
「――――――――――――ッ!?」
言うが早いが、変態はステッキ(?)のようなものを天に掲げる。
「轟け、雷鳴!!!」
謎のステッキからは青白い閃光が迸る。アレは……おそらく稲妻だろう。
天を仰ぐ。
雷雲はない。
一体どこから稲妻を出したんだ!? 俺の中で一つのある予感が、脳裏をよぎる。
――――――魔法。
それは無から有を生み出す技術。
そして、有を無に変えることも可能な技術。
あくまでフィクション内の空想の産物であったソレが、今、現実のものとして行使されている。まぁ、あくまで仮定の段階だが……。
俺は、自分に向けて放たれる魔法(?)を他人事のように眺め、場違いにも俺は憧憬という感情を抱いていた。
「避けんか、司!!!!」
「――――――ッ!?」
不意に飛んだ鋭い声に、トリップしかけていた意識が戻る。
しかし、時すでに遅し。飛来した雷撃が俺を飲み込む――――――事はなく、直撃の寸前で相殺される。
俺の眼前には親父が立っている。
刹那の攻防ではっきりと目視する事は出来なかったが、例の如く、親父もステッキ(?)から目に見えない『何か』を出していた。
これで推測が確信に変わる。
この変態どもが使っている力は間違いなく魔法だろう。魔女っ娘とか言うくらいだし……。
「大丈夫か、司?」
「あ、あぁ。ありが――――――」
――――――ゴウゥゥン。
一陣の風が吹く。
同時に。
親父は俺の視界から消えていた。否、吹き飛ばされたのだ。
変態の攻撃によって。
「親父!!!!!」
「…………ぐっ」
瞬時に親父に駆け寄る。
傷は今のところ一ヶ所だけのようだが、何分、出血量が普通ではない。背中の傷も浅くはないし、このまま放っておけば、おそらく致命傷は免れないだろう。
「お、親父…………だ、大丈夫か?」
馬鹿野郎!! 大丈夫なわけないだろうが!!! 何聞いてんだ、俺。そもそもの原因は俺だと云うのに……。
――――――それなのに。
親父は、云う。
いつもと変わらぬ素振りで。
もう息をするのも苦しいはずの、この状態で。
笑って云って見せた。
「あぁ、大丈夫だ!!」
その顔で、その声で、そう言われると何故だか安堵してしまう自分がいる。
何時だってそうだった。
いつまで経っても根っこの方の俺は弱虫のままで――――――
「――――――――だが、このままじゃ俺もお前もここで終わりだぞ……」
「何か、方法はないのか?」
「…………ない事もない」
「ぇ……一体何だ!?」
親父は十分な間をとった後、告げる。
思わせぶりに。
「お前が……魔女っ――――――」
「ごめんなさい、親父。今までありがとう、そしてさようなら」
「うぉぉい!? さっきの決意は何処にいった!?」
決意? なにそれ美味しいの?
変態になるくらいなら、死んだ方がマシだ――――――なんて思っていたのだが。
「次で終わりだ…………私を変態呼ばわりした小娘(?)もろとも消し去ってくれる」
声が聞こえる。
同時にコツコツと足音がだんだんと近づいてくる。
一歩、また一歩。
ゆっくりだが、確実にその距離を縮めてきている。まるで、死への宣告のようにゆっくりと。
もう、手段は選んでいられないようだな。
「親父、どうやったら魔女っ娘になれるんだ?」
「簡単だ。こいつを使え」
言うや否や、親父はよろよろと立ち上がり、自らの魔女っ娘衣装(?)の胸元のポーチについている掌サイズの小さな水晶を取り出し、俺に向かって投げつける。ん? この水晶何処かで見た事があるような気がする……気のせいだろうか?
「これ……どうやって使うんだ?」
「胸の前に置いて魔力力場開放、魔女っ娘にな~れ、キャハ☆ と唱えればいいだけだ」
「いや、え? 最後のいるの?」
「魔女っ娘にな~れ、キャハ☆ だ!!!」
「…………それ肝心な部分抜けてるよね!?」
し、仕方ない。もう、どうにでもなるがいいさ!!!
さらば俺の青春、本日を持って俺は変態の仲間入りです!!!
「因みにだが魔女っ娘になれないと死ぬぞ?」
「解ってる。あいつにやられるんだろ?」
「そうじゃない。素養のない者が魔法水晶の力を使ったら死ぬんだ。それでも、やるか?」
失敗したら死ぬ? それが何だって云うんだ。俺の中ではとっくに覚悟は決まってる。命を懸けてで変態になるっていうのもアレだけど…………。
「どうせ、このまま何もしないでも終わるんだ。それなら最後まで足掻いてやるさ……」
「…………ふっ、さすがは父さんの嫁だ」
「息子だろ!?」
っと、こんなアホなやり取りしてる場合じゃないぞ。時間は決して多くはない。もう、すぐそこまで来ている。
「魔力力場開放、 魔女っ娘にな~れ、キャハ☆」
「………………萌え」
「………………」
詠唱(?)が終わった瞬間、俺の体が光の粒子に包まれる。
しかし、それっきり何も変化が起こらない。やはり最後のがいらなかったんじゃなかろうか?
この瞬間にも、敵は刻一刻とその距離を縮めている。足音は徐々に大きくなり、突然に静止する。
ゆっくりと背後を振り向く。
そこには雷撃を帯びたステッキを振りかぶる金髪の姿。
ヤバい…………。
直撃の寸前…………俺の体を中心に見えない『何か』が、俺の体から噴き出す。その衝撃で金髪は吹き飛ぶ――――――気付いた時には、俺は魔女っ娘になっていた。
「うわぁぁぁぁ、とうとう変態になっちまったぁぁぁぁぁ!!!!」
「…………ハァハァ、可愛いぞ」
「嬉しくないよ!!! あと親父のソレは息切れなんだよな……」
「何を言ってる!!! お前の魔女っ娘姿に興奮しただけだ!!!!」
「胸を張って言うな!!!!」
「…………ハァハァ、死んだ母さんにもこの姿を見せてやりたかった!!!」
多分、母さんは泣き崩れるんじゃないだろか。親子揃って変態に成り果ててしまったのだから。
「いや、でも司にこんな素質があるとは思わなかった……」
「いらないよ、こんな素質は…………」
自分の姿を見てみる。
セミロングの茶髪。
線の細い肢体。
何より、微かな膨らみを帯びたその胸部は、隠しようもなく女子のソレだった。
「聞いてないぞ……女になんて…………」
「普通、魔法結晶との波長がよほど合わない限りこんな事にはならないんだが――――――」
と、そこまで言いかけて止まる。
もう一度、電撃が飛来する。俺の胸目掛けて飛んできたソレを今度は避けるのではなく、いつの間にか手にあったステッキで弾く。胸元に少し電撃を掠ったが、あまり――――いやほとんど痛みは感じなかった。
「き、貴様!!! 一体何をし――――――ごふっ」
直後、金髪が顔面を血に染めて床に沈む。はて? どうしたのだろうか?
「こ、小娘ぇ、貴様なんて破廉恥な…………っく」
「破廉恥? 一体何を――――――」
そこで体の一部に違和感を覚える。やけに胸元が涼しいような気がする。
胸元を見る。
おそらくさっきの雷撃が掠った所為だろう。
そこにあったのは、衣類という縛りから解き放たれた、本来俺にはある筈のない二つの果実。小ぶりだが形の良いソレは、確かな存在感を露わにしていた。
ガバッ(金髪が顔を上げ俺の胸元を凝視する)
ブシャァアアアアアアア(もの凄い勢いで噴き出す金髪の鼻血の音)
あ、気絶した…………。金髪の周辺には血だまりが出来てしまっている。その出血量たるや先程の親父を遥かに凌駕している。
ブシャァアアァアアアアアアアア(親父が鼻血を噴き出す音)
ゴポリッ(親父が喀血する音)
訂正。親父の出血量はその比ではなかった。親父は、鼻血や喀血の際の擬音語として、通常あり得ない音を立てて床に沈んでいる。というか、もう生きているのが不思議になるくらいの出血量である。あ、死んだ…………。
「取り敢えず、救急車を――――――ぐっ」
親父を介抱しようとした、その時だった。世界が暗転した。
強烈な立ちくらみ。立っているのも困難になり、俺はその場で地面に崩れ落ちる。地面、空、周囲の建造物、そのすべてがグニャリと音を立てて歪む。
まるで。
強制的に夢から現実に引き戻されるような、そんな感覚。或いはその逆も然りだ。
急激に色を失っていく世界。
同時に、意識は薄くなっていき、徐々に体の感覚が無くなっていく。そんな中何処からか声が聞こえた…………様な気がする。
――――――お疲れ様。
☆
「…………きて……」
何処からか、声が聞こえる。
休んでいた体の神経は徐々にその感覚を取り戻し、白濁の中にあった意識は――――――
「起きろ!!!! ツー君!!!!!」
「ぎゃぁああああああ!!!!!」
――――――一気に覚醒した。
「何すんだよ!! 耳元で大声を出すんじゃありません!!!」
「何時まで経っても起きないツー君が悪い!!! そもそも、可愛い幼馴染がこうして毎朝起こしに来てるんだから、少しは喜びなさいよね!!!」
「いや、毎回思うけどどうやって入ってきてんのさ…………」
「ピッキングだけど…………何か?」
「いや、明らかにおかしいだろ!! ソレって不法侵入じゃないか!!!」という言葉が喉まで出かかったが、どうにかそれを押し殺して喉元に留める。途中、意図せず何か口から言葉が出たようだったが、気にしないでおこう。
「アホやってないで、早く行かないと遅刻になるわよ。先に言ってるから……」
「あ、待ってよ!!!」
云うが否や、僕はルパンの如き早さで服を脱いで、着替えを済まし、リビングにあった焼いたトーストを齧る。
「いってきま~す」
返事をする者は、いない。
無人の家にそう告げ、玄関を飛び出す。
僕の名前は北条司。ちょっぴり気弱なごく普通の――――――とは言い難いが高校生である。
と云うのも、僕には両親がいない。幼い時に事故で二人とも死んでしまったのだ。そのショックかどうかは解らないが、僕には幼い頃の記憶がない。
そして、幼いころの僕は健常者ではなかった。つまり、非健常者だったのだ。
解離性同一性障害。
ソレが僕の患わせていた病気の名称だ。旧称、多重人格障害。
まぁ、それも幼少の頃までの話で、医者によれば僕達の意識は主人格である僕を軸に“統合”したのだと云う。つまり、僕の五感にから得る情報を他の人格さんも見たり聴いたりしているそうなのだが……。何分幼少期の頃なので僕は他の人格さんの存在を認知できていない……。
「コラ!! 遅いよ、ツー君!!!」
「ぁ……ご、ごめん」
――――――それにしても。
「…………親父は大丈夫だろうか」
「ん? なんか云った?」
「え? あ、いや、なにもないよ……」
「まっ、ツー君が変なのはいつもの事だからいいけどね」
「…………失礼な」
おかしいな、今一瞬意識がトリップしてたぞ。たまにあるんだよなぁ、こう云う事が…………。まぁ、深く考えない様にしよう。なんだかここ最近疲れが溜まっているみたいだし……。学校に着いたら少し仮眠をとろう。
「――――――嫌だなぁ、魔女っ娘」
僕は自分の口から出た謎の呟きに、疑問を感じずにはいられなかった――――――
私の拙い文章をここまで読了頂き有難う御座います。
続きを書くは不明です。一応構想はありますので気が向いたら書くかもしれません。