違似兄弟
二人が目指した、世界
……遠い記憶
いびつな歯車が回っている
形が歪んでいるせいで
誰とも噛み合わずに
たったひとりで回っている
この世のすべてはつながっていてこの世のすべてには理由がある。
つかめないじゃなく、つかんでいても気付いていないだけ。
見えないんじゃなく、見えるのに見ようとしないだけ。
本当は、とっくに手の中にあるというのに……
「兄さん! 集中できないよ! もうすぐ模試があるって言っただろ?」
「あ、わりー、アンプつないでないから平気かなーと思って……」
「十分うるさいよ! だいたいそんなことして遊んでないで兄さんもちょっとは勉強しなよ」
「ばっか! これは遊びじゃねーよ! デビューするために腕磨いてんだから、やめるわけにはいかねーの!」
「デビューって……確かに歌は昔に比べればかなりうまくなってて、へーって思うこともあるけどさ、だからってそれじゃ生きていけないだろ? 結局遊びで終わっちゃうのがオチだって」
「何言ってんだよ。お前歌が世界を救うって聞いたことないのか? 音楽に国境はないし俺の歌が世界を変えるかもしんねーんだぞ?」
「兄さんにはついていけないよ……聞いてるこっちが恥ずかしくなるようなこと、よく真顔で言えるね!」
「そりゃそーだ大マジだからな。それよりお前こそ勉強ばっかしてて何かいいことあんのか? 常に成績一位だとそれだけで生きていけんのか? そうじゃねーだろーよ」
「僕が言いたいのは、そういうことじゃないよ。確かに僕は一位をキープしてるけど、そんなの学校にいる間だけのものさしにすぎないんだから。本当の勉強って教科書の中にあるだけじゃ全っ然足りないしむしろ学校でやってることなんて大人が作ったつまんない基準で勉強なんて到底言えないレベルなんだから。特にこの国では勉強ってやつを勘違いしたまま国民を洗脳したせいで下らない社会を造り上げて、そのせいで学ぶことの意味を知らない大人が馬鹿みたいに子供に向かって勉強しろって言い続けて兄さんみたいなことを言い出してしまう傾向が……」
「あー……ハル、ごめん。簡潔に言ってくれよ」
「……つまり僕はこの国の教育を正すために勉強しているんだよ。それはすでに洗脳されて歪んでいる世間を見回す限りそれに気付いている僕にしかできないと思うから、だから僕は勉強するんだ。先に進むために世界を変えるためにまずは勉強が必要だからだ。わかった? 僕は音楽なんて形のない物じゃなく、目に見える形で世界を変えるんだよ!」
「そうか……。ハル、俺はお前が恥ずかしいよ」
「うるさいな! これは兄さんの言ってることと同じ……同じ……?」
「あぁ、そうだ。そうだよ。ハル、お前も同じなんだ。世界を変えたいんだよ。俺も、お前も」
「……でも父さんも母さんも僕が大学に行くのは賛成だけど兄さんが音楽やるのには反対してるじゃないか。どうするんだよ?」
「俺バイトで貯めた金、結構あるんだ。ここ出て行くよ」
「そんな! 出て行くって」
「お前は気にすんなよ。俺がいなくなれば静かになって勉強がはかどるからお前が世界を変える日が早まるってだけだ」
「やっぱり、聞くと恥ずかしいな。で、兄さんはここを出てどうするつもりなの?」
秋彦は、春人に最高の笑顔を見せた。
「決まってんだろ? 俺の歌で世界を変えるんだよ!」