自物平穏
道を示す、手助け
「おー、誠ーすげー頭だな。今空き時間なのか?」
誠の手にはヘアーバンド。髪は逆立っている。
「いや、メイクから逃げてきただけ」
秋彦はモテる男に同情する。
「またかよ。相変わらずだな。こっちは丁度休憩だよ」
もう二人が“ユニット”である必要はなくなった。誠は地元に帰ろうとしていたが、モデルとして正式に雇いたいと言われ最終的にアヤメの説得で残ることにした。
秋彦は“AKIHIKO”として正式にデビューさせてもらい、堂々と新旧ファンに“安全に”愛されている。
「なぁ誠、さっき言われたんだけどさ、俺たちってユニットだったわけじゃん」
そこでお互いニヤリとする。
「あぁ、ユニットね」
「んで、どうせなら二人一緒に歌ったら? って言うんだけど、どうよ。なんならツインギターにしてもいいし。あ、ベースとかドラムっていう手も……誠、いっそバンド組むか?」
「僕がそういうの苦手だって知ってるはずだけど? あの頃だって僕はギターをまともに扱えなかっただろ」
「そうだな、お前は現代人とは思えないくらいレトロだからな。未だにパソコンでメールするだけも危なっかしいし」
誠はヘアーバンドの跡がついた髪をぐしゃぐしゃにかきまぜながら答える。
「そりゃどーも」
二人の所に音響係の一人がやってきた。
「なになにー? ユニット曲の相談? いいねぇ。なんなら今レコッちゃってもいいんだよー?」
あの時の影のメンバーである音響係も腕を認められ、その中の二人が正式にレコーディングエンジニアとして働いている。だが二人の間では今でもただの“音響係”だ。
「いや、必要な……」
音響係の提案に誠が丁寧に断りを入れようとしたがあっさり却下されてしまった。
「そうだよ誠、歌ってけ。お前結局自分ではこの部屋使ったこと無かったじゃん。楽しーいぞーう。録音中はメイクも入ってこらんねーしさ。いいだろ? 俺もいい休憩になるし」
「んー」
「はい、オッケーもらいましたー」
「ずるいぞ秋彦……」
渋々部屋に入って行く誠。
「ほらヘッドホンしてヘッドホーーン。じゃ俺ガラスの向こうで合図するから見ててねん」
ちょうどその時ノックと同時にドアが開き貫凪とアヤメが入ってきた。
すぐに音響係が挨拶をする。
「あ、お疲れーっす!」
アヤメが冷たい視線を送る。
「別に疲れてないわよ」
お気に入りではない相手にはこの冷たさだ。慣れっこの音響係は笑いながらいつも通りの反応に頭をかいた。
「そんなことより、なんであっきーがこっちに座ってんの?」
すぐに誠を見つけた貫凪が指さしてみせる。
「アヤメさーん、ア・レ、俺たちいい時に来ましたね」
ぱあっとアヤメの顔が輝いた。
「あら! 誠ちゃん何か歌うの? ついにユニット始動ってことかしら?」
はしゃぐアヤメに秋彦はワクワクしながら答える。
「いや、バンドでもやりたいなー、なんてさっき誠と話してて。これは試し&俺の休憩&誠がメイクから見つからないように、ですけど。ま、オーディションも兼ねてってとこですかね」
「あぁ、そういうこと。で、何歌うのかしら?」
「そりゃあ、誠がお気に入りのこれ!」
秋彦は誠と音響係に合図を出した。