表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/68

十全措置

つまりは、上手(うわて)

 涙ながらの引退宣言を遮ったのは秋彦の後ろに映し出された映像だった。

 スクリーンいっぱいに秋彦と誠のツーショットが映し出され、その下に大きく書かれているのは“二人で「MAKOTO」”の文字。

 秋彦は観客の目線をたどって後ろを向いた。(え? 何これ?)困惑に思わず涙がひいていく。

 その時、ステージにアヤメと誠が腕を組みながら現れた。誠の顔が引きつっているのは状況が飲み込めていない証拠だ。

「皆さん初めまして。私は柊アヤメ。この子たちのボスよ。じゃ早速紹介させてもらうわ。この子は田口秋彦、そしてこの子は桜田誠。二人そろってうちの一押しユニットMA・KO・TOよ!」

 客席がさっきとは違う理由でざわめき出す。

 司会者はとっくに壁にもたれてほかのスタッフ同様に傍観者となっている。スタッフは収拾のつかない事態にさじを投げてしまった。アヤメの持っているマイクは司会者が持っていた物だった。

 ステージの上で誘導された二人はアヤメの横に並ぶ。秋彦は流した涙の行き場を見失ってしまった。人前にいることも忘れ、誠と二人でただ顔を見合わせている。

 詐欺と言い張った客もどう判断していいのかわからないままステージを見上げている。

 そして、観客のほぼ全員がアヤメの眼鏡に気を取られていた。

「詐欺だなんてとんでもないわ! そもそもCDジャケットにこの子の顔があっても歌っているのが桜田誠です、とは書いていない。この子が歌っていると思ったあなた方の思い込みよ。この子たちは二人で一セットなの。その証拠に常に一緒にいたでしょう?」

 二人は街を出歩くノルマの意味を理解した。確かに取材も撮影もラジオも常に二人。それも声を変えていたとはいえしゃべっていたのは秋彦だけだ。

「このユニット名は桜田がジャンケンで勝ったからMAKOTOになっただけのこと。近々変えようかと思っていた所だし……」

 助けてもらっていることも忘れて(何だそれ!)と、心の中で二人は突っ込む。

 客は、どうリアクションを取っていいのかわからなくて困っているようだ。だが野次を飛ばした二人は今の一言でまた元気を取り戻してしまった。

「なんだよそれ! ふざけてんのか?」

「それに、そいつ雑誌でマネージャーって言ってたの見たぜ!」

 アヤメが高らかに笑う。本当に楽しくてたまらないという感じだ。

「呼び名や役割は誰がどう決めようと自由でしょ。物知りだからって博士と呼ばれた子供は博士なのかしら? ってことよ。あぁ、ちなみに私は女王様。でも英国女王になった覚えはないわよ」

 物陰から苦い顔の貫凪がギロチンのジェスチャーをして見せている。まだ何か言いたげなアヤメだが仕方なさそうに貫凪に従った。

「あら、もう時間だわ。それじゃこれからも誠ちゃんと秋彦ちゃんをよろしくねー!」

 アヤメは言うだけ言うと、あっという間に三人で消えた。顔を引きつらせたままの誠と秋彦は自分より小さなアヤメにずるずると引きずられるように去っていった。

 変な眼鏡に変なしゃべりかた、いきなり出てきて訳がわからないままに帰って行ったアヤメの演出で客は絶句している。

 ステージでは映像が切り替わり、誠と秋彦が違うスタイルで映っている。今度は貫凪のナレーション付きだ。

「本日“MAKOTO”の二人がテレビ初登場ということで記念ポスターを無料配布いたします。この日だけの限定ポスターです! ご希望の方は番組後、各出入り口でお受け取りください。数に限りがございますので品切れの際はご了承願います。繰り返しお知らせいたします……」

 生放送の人気番組はもはやMAKOTOの単独ライブと化していた。

「あいつら……好き放題やりやがって……もう二度と呼ばねーからな! くそったれが!」

 チーフディレクターの結城が血管が浮くほどに拳を握りしめ悪態をついている。

 結城はアヤメの優しさでモニターまでセットされた部屋に……

 

 未だに閉じ込められていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ