両者犠牲
飛ぶ言葉、降る詞
初めて直に伝えられる真実の音色に人々は驚愕した。
「ちょっと、この声……」
「マジであいつだったわけ?」
ある者は足を止め、ある者は涙を浮かべ、ある者は心を奪われた。
秋彦のステージを見ている者全員が自分の中のMAKOTOとは一体何だったのか、それぞれの答えに行き着いていた。
その結果そのまま出て行った者もいる。誠の顔や体、つまり見た目だけが好きだったという人間だ。
誠は、秋彦の歌で救われた人々がいる事実を知ったあの時に決意を固めていた。どんなに反対されようと秋彦をみんなに合わせる必要があり、それでどんな結果になろうと絶対に後悔することは無い、と。
(この味って……血?)呼吸をするたびに喉からヒューヒューと嫌な音が聞こえてくる。秋彦が心配した通り誠は確かに無茶をしていたのだ。誠はしばらくの間、本当に口が利けなくなることを覚悟した。だが舞台袖からステージを見るその顔は、まるで我が子の晴れ舞台を見守る親のように満足そうだった。
この『グラフィカル』は新曲と言っても作られたのは七年前。秋彦が“何物にも惑わされず直接自分の目で本当の世界を見に行くんだ”という思いを込めて気持ちを奮い立たせるために作った曲だった。
未来に向かうために作った曲がその頃とは違う意味で秋彦の心にも深く深く吸い込まれていく。
歌い終えた秋彦は割れるような歓声の中で深々と頭を下げた。そしてそのままで溢れた涙をすばやく隠してから顔を上げた。
最初は、たった一人からの拍手だった。その次にはそれが二人分になった。そしてその次には四〇〇〇人、否、もはや数えることなどできないほどの拍手だ。司会も一緒になって拍手をしている。
秋彦が、これは夢だと本気で疑ってしまったほどの快挙だ。
だがその時、歓声の中から鋭く冷たい声が飛んできた。
「でもお前らは俺たちを騙した。これは詐欺だろ?」
「そうだよ! いくら才能があっても詐欺じゃ意味ねーよ!」
仲間だろうか、別の声も怒鳴っている。詐欺という言葉にまた会場は騒然となった。
「黙れよ! 下らないこと言うんじゃねー!」
「これって詐欺になるの?」
いろいろな意見が入り乱れていく。だが大勢で言い合った所で答えは出ない。
秋彦はもう一度マイクを握った。その胸の中は、まだ熱く滾ったままだ。
「みんなには本当に何て謝っていいのかわからない。俺は本当にバカだった。間違っていたのは俺だったんだ。誠はそれを……身を以て教えてくれた。俺は誠のおかげで……誠がいたから今ここにいられるんだ。本当に全部、誠のおかげなんだ。こんな……こんな大勢の前で、こんな俺が……」
涙で言葉が詰まり、うまく言えない。
「俺……こんななのに、もう言葉じゃ、表せないけど、心から思うよ……今まで生きててよかった。みんな本当に……本当にありがとう。これでもう悔いは無い。俺は、これっきりこの世界から……」
そのとき、話の途中だというのに急に客席がざわつき出した。
「おい! 見ろよあれ!」
「ちょっと、どういうこと?」