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強志覚醒

2人の覚悟と、受け入れ態勢

 その背中をぼーっと見ていた秋彦もいろいろな意味で驚き、目を見開いた。

 今まで自分がしてきたこと、誠にさせていたこと、何より他人のせいにしてすべてを卑下し現実をゆがめてきたことがぐるぐると思い返されていく。

 そして頭の中で誠の言葉を復唱していた秋彦は大変なことに気付いた。誠の悲鳴のような肉声は文字通り身を削って痛みを伴っていたことを思い出したのだ。(バカ誠! まだ長く話すこともできないくせにあんな声出しやがって!)

 そんなことをさせてしまった後悔とともに思わず誠に駆け寄ろうとしたその瞬間……舞台の袖に向かってゆっくり歩き出していた誠が後ろ向きのままで秋彦をビシッと指さした。声など出さなくてもその背中がしっかりと語っている。

“お前の居場所は、そこだ!”

 秋彦は電気が走ったような衝撃を受けた。いつも誠が言ってた言葉の意味を今ごろ悟ったのだ。

 誠は秋彦に背を向けたままでほんの一瞬、顔を歪めたがすぐに持ち直し音響係に合図を送った。

 誠がステージを去ってすぐにイントロが流れ出す。

 自分で音を打ち込んだ秋彦はすぐにわかった。これはギターの音も声も入っていない正真正銘“秋彦用”の音源である。確かに秋彦もスタッフと打ち合わせはしたが、最終的に本物の打ち合わせをしたのは誠だったというわけだ。

 やっとお待ちかねの曲が始まったというのに、なんとホールから人が出て行き始めた。

「信じらんない。MAKOTOを見に来たのにさ!」

「誰なんだよあいつ?」

「来た意味ねーじゃん。あんな苦労してチケット手に入れたのに」

「帰ろ帰ろー」

 だが秋彦は、今や周りのことなんかどうでもよくなっていた。曇っていた目にかかっていた厚い雲がやっと吹き飛んだのだ。

(あぁ……俺……本当に、馬鹿だったな……)

 マイクが自分に向けられていて自分の音を出してくれるギターがある。

(俺は、どこで道を間違えたんだろう?)

 どんな形であれ観客がいて自分がステージに上がっている。

(誠は気付いていたんだ。とっくに)

 さらにアヤメの言葉が蘇る“絶対に悔いが残らないように”

(やっとわかったよ、誠)

 秋彦は凛と正面を向いた。その顔にもう迷いは無い。胸いっぱいに息を吸い込みギターを握る手に力を込めた。

(ここは、俺の場所だ!)

 ……!

 このホールはスピーカーが多く設置されている事でも有名だ。それなのにアヤメは、さらにスピーカーを追加させていた。もちろんこの時のためだけに最高級品質の物を。

 秋彦の右手がきれいな弧を描き、細い六弦をふるわせた瞬間、今まで眠っていたスピーカーたちが目を覚まして空気を波立たせた。

 ホールの隅々に、カメラの向こうに、ネットを通じて世界に、秋彦の思いが熱が渦となり降り注いでいく。

 オーラをまとったひとりの青年から放たれているのは、みんながよく知っている声であり、待ち望んでいた咲き乱れる言葉だった。

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