自身要脱
進む、条件とは
(ネェ、ドウシテ僕ハ、アンナ怖イ目ニ遭ッタノ?)
「ねぇ、どうして僕はこんな顔なの?」
笑いながら答える母親。
「どうしてって、お父さんとお母さんの子だからよ」
(朝マデイタノニ誰モ仲良クシテクレナカッタヨ?)
「みんなが僕の顔は変だって! オカマの外人だって!」
顔を見合わせる両親。
「確かにうちはご先祖に外国の血が入っているけど」
「そうだよ。そんないい顔に生まれてご先祖様も喜んでるぞ」
「とってもきれいなお顔だからお母さん嬉しいのよ?」
唇をかむ男の子。
(ソレナラ、ゴ先祖サマハ、アノ場所ニイタノ?)
「やだ! こんな顔もういらない!」
「そんな……かわいくてかっこよくてすごくいい顔よ」
男の子の目に涙が浮かぶ。
(本当ニ、アノ場所ニハ僕ノ仲間ガイタノカナ?)
「僕は、英語しゃべらなきゃいけないんでしょ?」
「何言ってるんだ、いきなり。なんでそうなるんだ?」
「そうよ、お母さんたちと同じ日本語でいいのよ?」
(話シカケテコナカッタノハ僕ガ英語シャベレナイカラ?)
「僕は日本語しゃべっちゃダメだって」
「誰がそんなこと言ったんだ! お父さんに言いなさい!」
「そうよ! 誰なの? お母さんが怒ってあげるから!」
小さな拳を白くなるほど握りしめる男の子。
(ソレ、ドウイウ意味?)
「何……言ってるの?」
(僕ハ違ウッテ言ッタ)
「僕の言うことなんて聞いてくれたことないくせに」
息を呑む母親。
悔しさと怒りをこらえる父親。
そして男の子の目からこぼれ落ちる大粒の涙。
(僕ハ嫌ダッテ言ッタ)
「今までずっと、僕のすることも言うことも……」
耳をふさぎ、涙を浮かべて青ざめる母親。
こうなるとわかっていて何もしなかった自分を呪う父親。
(僕ハ、ズット、言ッテイタンダ!)
「誰も、何も、ゆるしてくれなかった」
「お父さんとお母さんが悪かった、だから、なっ?」
(僕ノセイ? 僕ガコンナダカラ?)
「僕の全部、もう……いらないっ!」
「そんなっ、どうしてっ? あなたはお母さんの大事な……」
そして答えにたどり着いた男の子。
(ソウカ。僕ハ、僕デイチャ、イケナインダ)
凍りついた冷酷な眼差し。
「……お人形なんでしょ?」
わなわなと震え絶句する母親。
歯ぎしりをする父親。
そしていろんなことを捨ててしまった男の子。
悪イノハ誰? 悪イノハ誰? 悪イノハ誰? 悪イノハ……
……誰でもない……
あぁ……僕……本当に、馬鹿だったな……
どのくらいそうしていただろう。
いきなり誠が何か閃いたように正気に戻った。それからひとつ小さなため息をつき、ゆっくりと遠くに目をやる。そのまま静かに目を閉じ、その顔に秋晴れのような頬笑みを浮かべた。
そこまで黙って見守っていた秋彦は大きなため息をついた。そして目の前のいい男は見た目だけではなく心身共に大きくなったのだろう、とひとりで納得した。