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暴過芯隠

護られる者と、見えない事

 今の今まで堅牢な監獄に閉じ込めていた忌まわしい記憶が蘇ってしまった。(うそ、まさか? 相、原くんと村上……くん?)

 謎が解けた瞬間、誠は猛ダッシュでその場から消えた。

「えっ? 誠っ?」

 秋彦が振り返るのと武史と一哉の二人がスタートしたのは同時だった。

「待ちやがれ! 誠ー!」

「逃がさねーぞ! このヤローー!」

 綾瀬と茂木が喜んだのは言うまでもない。

「俺たちも追うぞ! 綾瀬、カメラ準備しろ!」

 出遅れた秋彦は何がなんだかわからないが、クソ週刊誌のネタになることだけは避けなければいけないと瞬間的に判断した。

「それは困るっての!」

 言うが早いか気合いの入った足払いで綾瀬を転ばせる。

いきなり天地がひっくり返り何が起こったのかわからない綾瀬。秋彦は、やわらかそうなその腹にすばやく飛び乗ると今度はカメラを引ったくって茂木の足に投げつけた。

上等なカメラは値段相応な働きを見せ、なんとも嫌な音をたてて茂木は地面に這いつくばった。そのままの姿勢で体験したことのない痛みに激しくもがいている。

 こういうときに警察より早くて頼りになると言えば……秋彦は携帯の短縮ダイヤルを押した。

「アヤメさん! 緊急事態です! 誠をとって食おうとしてるやつがいるんで、すぐ来てください! 三番通りの花壇付近!」

 こういう通報は初めてではない。アヤメ、ではなく貫凪が、あっという間に到着した。手慣れた貫凪は瞬時に状況を判断し、苦しんでいる茂木を……ぶちのめした。

 アヤメもすぐに来るだろう。安心した秋彦はマウントポジションから綾瀬の顔面にきれいな正拳突きを一発食らわせた。自分の力を配慮して、だいぶ力を抜いて打ったがそれでも綾瀬には相当なダメージだ。茂木に至ってはすでに痛い目にあっていたというのにこの有様。アヤメもそうだが貫凪と秋彦も誠を守るためなら容赦はないのである。

 秋彦は貫凪に後を任せ、急いで誠を追った。

 最近は誠にギターケースを持たせていない。身軽な分その長い足でひたすら逃げたのだろう。秋彦が周りを見回しても、すでに見える範囲にはいなかった。だが誠は目立つ。

秋彦は出遅れたにもかかわらず道行く人に聞きながら探し続け、走って走って走るだけ走って、頭にフルマラソンの距離が連想された頃……ビルの合間に追いつめられた誠を見つけた。

 出発地点から何キロか離れている上に表から見えない所にいることもあって“MAKOTOギャラリー”がいないのがせめてもの救いだった。

 かなり奥まった場所だ。隙間から見える表の通りでは忙しなく人が行き交っているのが見える。たまに話し声に気付きのぞきこむ人もいるがすぐに通り過ぎる。遠目には誰かもわからずただの喧嘩にしか見えないので巻き込まれないようにということだろう。当然の反応だ。

 喧嘩という物は、ほとんどが個人的なことであり周りが多大な被害を被るならともかくとして、むやみに正義感を振りかざしながら他人が首を突っ込むという方がどうかしているのだ。

「いいかげんほんとのこと言えよ! それとも詐欺だって世間に言いふらすか?」

 一哉の声が秋彦の耳にも届いた。

 奥の方が少し開けて明るくなっている。その空間に三人ともいた。誠は壁に追いつめられ、武史と一哉は誠を囲むように立っている。

 誠は無表情で少しうつむいたまま動かない。ずっとこんな調子で二人から攻められ続けていたのだろう。

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