危機接迫
過去は、無ではない
いきなり誠の前に肉付きのいい男が飛び出してきた。咄嗟に秋彦は誠を後ろにかばう。
「あのー、いきなりですみません。私、綾瀬と言います。怪しい物じゃありません。これ名刺です」
警戒しながら名刺を見た秋彦はアヤメから注意されていた事を思い出した。
“プライバシー無視の最低な週刊誌でネタのためなら平気で法を破る……”
当然のごとく全面拒否の姿勢で臨む。
「今すぐよそに行ってください。急ぐので失礼します」
綾瀬はあわてて二人を引き止めた。
「ちょ、ちょっと待って! 今からMAKOTOさんのお友達と一緒に取材受けて欲しいんですよ!」
「は?」
秋彦は意味がわからず誠を見る。誠の様子から、お互いに初耳であることを確認した。
「そんなこと何も聞いてません。こっちには予定もありますし迷惑です。しつこいようなら人を呼びますよ!」
秋彦は(警察よりこわいアヤメさんを!)と、心の中で言い放ち睨みつける。
そこにまた一人ずかずかと割り込んできた。
「やぁやぁ、待たせてすまなかったね。お友達を捕まえ……いや、迎えに行ってたもんで。私は茂木……」
言い終わらないうちに茂木の後ろから武史が顔を出した。
「よう、誠。久し振りだなー。会いたかったぜー! ものっすごくな」
さらに一哉も姿を現した。
「俺もいるぜー。誠。また昔みたいに楽しくやろーぜー」
「ちょっと君たち今、私が……」
茂木は完全に無視されている。
そして当の本人である誠はいきなり現れた人物が誰だかわからなくて固まってしまった。
「おいおい、誠ー。まさか俺たちのことわかんないとか言わねーよなー。あんなに仲良かったのにさー」
(仲、良かった……?)また奇妙な感覚を覚える誠。
暗闇の中、揺れる光が先を歩いていく。
「やだよ! やめてよ! 僕行きたくない」
「おい! お前の言葉はそれじゃねーだろ!」
「だって僕は……」
先頭から怒鳴り声が飛んでくる。
「うるせー! お前の言うことなんか聞いてねーんだよ!」
二人に両腕をつかまれ引きずられていく男の子。
「何でこんなことするの? 僕なにも……」
「だまれよ! 見つかったらお前のせいだぞ!」
「そうだよ、オカマやろうはだまって歩け」
腕をつかむ二人が両脇から小突く。
「言うこと聞いたらもういじわるしないって言った!」
三人が笑う。
「あぁ、あれ、嘘だよ。お前がこないと困るから」
「そうそう、俺たちいいこと考えたんだ」
月も出ていない夜。
「ちょっと待ってよ……ここってまさか……」
「あぁ、ここなら仲間がいてお前もうれしいだろ」
突き飛ばされて地面に転がる。
「ちょっと待って! やだよ! いやだ!」
立ち上がろうとしたところを容赦なく蹴り飛ばされる。
「いやじゃねーだろ。ここのやつらに仲良くしてもらえよ」
手から伝わる背筋まで凍りそうな石の冷たさ。
「じゃあな、オカマちゃん」
小さな光と笑い声が遠ざかっていく。
「やめて……待って! いやだ! 置いてかないでぇぇぇ!」