現認継承
そして、受け継がれるもの
「春山くん、この子、今日面接の神田くん」
住平が、おとなしそうな若者を案内してきた。
「あぁ、ありがとう」
春山は事務所の自分の席から振り返った。見ていた雑誌を閉じて若者と向き合う。
「神田 護です。よろしくお願いします」
「はい、よろしく。それじゃそこに座って。いくつか質問をさせてもらうよ」
誠がいなくなってすぐに林は店にこなくなった。辞めたというより、いなくなったという表現がぴったりの去りかただった。誠がいないなら店にくることに意味はないというわけだ。
核爆弾が消えたおかげで春山も住平もそれは平和に過ごせるようになった。だが、いるほうが邪魔な林は別として、かなりの仕事をこなしていた誠の穴は今の今までぽっかり開いたままになっていた。
春山は人手が足りなくなっても新しく人を雇う気にはならなかった。誠が成功せずに帰ってくるだろう、と思っていたわけではない。誠のポジションは誠だけのもの、というような気がしていただけなのだ。
そんな頃、正がふらっと店に立ち寄り雑誌を置いていった。
知らない業界のこととはいえ、ひとりで表紙を飾るということがどういうことなのかわからない春山ではない。それから暇さえあれば雑誌を出して嬉しそうに、だが誠が帰ってこない現実を思い知って悲しそうに眺めていた。
そしてある日、住平に新しく人を雇いたいと相談した。その顔は今にも泣き出してしまいそうな笑顔で住平は春山の心が見えたような気がして同じように胸を痛めた。それでも二人は嬉しかった。身近で誠を見ていたものとしてこんなに嬉しいことはなかったのだから。
新しい倉庫の主は、誠とは違うやり方で箱をきれいに積み上げて並び替えた。仕事に慣れてくると春山のフォローもできるようになり、忙しい時には店に出て表の業務もこなした。
荷物の受け取りもきちんとこなし、教えられたわけではないのに見えなくなるまでトラックを見送った。もちろんこの上なく幸せそうな顔で……。
くるくるとよく動き、やわらかによく笑い、春山と住平は本当にいろいろな意味で護に救われたのだった。