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無難報告

途中経過は、穏やかに

 秋彦は目を開けた。帰る場所をなくした自分。こんなに売れても報告することのできない辛さが胸をえぐった。(でも誠は俺とは違う)

「そうだよ誠、送ったら喜ぶだろ。表紙一面が誠なんだからさ。ちゃんと言ってきてんだから大丈夫だろ?」

 誠はしばらく考えてからノートに返事を書いた。今では本当に二人っきりの時しか使わない方法だ。

『考えとく』

「何でだよ。CDだったらびっくりするだろうけど雑誌だぜ? あ、CDでもモデルとして使ってもらったって言えばいいだけじゃん。こっちにきてからかなりたってるし、電話で声聞かせられない分安心させてやった方がいいって、絶対。な?」  

『そういうもん?』

「そういうもん!」

 わかったの意味を込めて誠はうなずいたが複雑な気分だった。誠は両親に一週間に一回の頻度でメールをしていたが具体的なことは何も言っていないのだ。

 そして秋彦に至っては誰にも何の連絡もしていなかった。(あ、そうだラジオなら……店長に連絡しとこーっと)



 その日、桜田家では静音がじりじりしながら正の帰りを待っていた。

「おーい、帰ったぞ」

 待ってましたとばかりに静音が顔を出す。

「早く、こっち!」

 正はリビングに誘導され目標物を確認した。

「おー、ついたのか」

 テーブルの上には小包がひとつ。

 これのために誠が送ったメールは一言『荷物送った』だけ。誠が出発してから何ヶ月も経つがその間、内容のある連絡は一切なかった。それでいきなりこの荷物だ。何を送ったか聞いても答えなかったこともあり心配性の静音はひとりで開ける事ができなかったのだ。

「早く、早く開けてよお父さん」

「そんなに気になるなら自分で開ければいいだろ……」

 正がそう言いながら開けると雑誌が十冊出てきた。メモも何もない。若向けなのだろう。正も静音も聞いたことがないような名前のものだ。だが表紙の青年には見覚えがある。

「まこと!」

 雑誌をつかみ二人は同時に叫んだ。

「ほんとに誠だわー」

「何でこんなにあるのか知らんが、春山にも持っていってやろう。あいつ喜ぶぞー」

 静音は誠がこんな世界に行く事を反対していたがこうやって結果を目にするとやはり嬉しいのだろう。顔が緩みっぱなしだ。だがやはり、どうしても気になってしょうがない箇所があった。“CDリリース”この言葉に二人は悩んだ。

「誠が歌ったのかしら。いや、まさかそんな、ねぇ?」

 正も大きな文字だけでなく眼鏡をかけ直し隅々まで読んでみる。

「もしかして違う人のCDを宣伝するためにモデルとして使われたんじゃないのか? でもこれだと誠が出してるみたいだな。ま、こういう世界はわからんから俺たちの知らないことが出ててもおかしくないだろ」

「そうね。誠がかっこよく表紙に出てる、これだけで十分よね。まぁ、私は誠が歌っててくれるならそれでもいいんだけど……」

 それを聞いて正は遠くを見るような目をした。

「多くを望むのはよせ」

 二人とも誠に言いたいことや聞きたいことはたくさんあったが何もできなかった。今はまだ本当のことを知るのが怖い、そんな気がしたのだろう。静音が送ったメールもたった一言『荷物無事についたよ』だけだった。

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