変化双方
影として、思うもの
カメラマンの細かい指示が飛ぶ中、誠が表情を変えポーズをとる。この時ばかりは秋彦もアヤメも出番は無しだ。秋彦は毎度のことながら我が子の晴れ舞台を見るかのように目を輝かせている。
雑誌のインタビュー、写真撮影、CDジャケットの作成、PV制作……嵐のようなスケジュールだ。アヤメに前もって言われていたとはいえ信じられない早さで時間が過ぎ去っていく。
それでも二人は実に見事にこなしていった。インタビューには誠の横に座った秋彦が答え、誠はたまに首を縦や横に振って答えるだけ。PVにも歌っている姿はほとんどない。その場面があっても音をあとで合わせるからということで隠すことなく口パクでいられる。
喉を異常なまでに守る歌い手と至れり尽くせりで献身的なマネージャー、というのが周りから見た二人の印象だった。
だが新人だというのに尋常ではない詰め込みに貫凪が異論を唱える。 「アヤメさん、いくらなんでも詰め過ぎじゃないっすか? 誠くんがダウンしちゃったら元も子もないと思うんすけどね」
「貫凪ったらどこに目付けてんのよー。誠ちゃんはどう見ても元気じゃないの。それに一気に行くって最初に言ってあったでしょ。だいたいゆっくり手順を踏んでると時間がもったいないのよ!」
アヤメの言う通り、貫凪の心配は無用だった。二人とも、疲れても好きなものをたくさん食べてしっかり睡眠を取ればすぐに復活する体質なのだ。しかしこの業界にいながら夜にちゃんと寝られることには秋彦の頑張りがあった。“休まずに仕事をすることは誰でもできるが僕たちは人間らしく仕事をします”とアヤメに通告し、さらに、そうでなければ誠がどうなるかをじっくり説明した。健康優良児となった誠の体は非健康的な生活を受け入れられなかったのだ。
しかし貫凪が心配しているのは二人の体のことだけではない。
「アヤメさんって誠くんのこと何でそんなに早く一人前にしたいんすか? 一気に人気出るやつは一気に消えるーなんて聞きますよ? 誠くんに何かあるんすか?」
アヤメは貫凪の顔を見つめる。
「あんた、私と仕事して何年になるのよ。結構たつわよね」
言葉を切り窓際に向かう。
「あの子は大丈夫よ。あの子なら大丈夫。今度は間違いないわよ。そしてそのためには早く、とにかく早く、最短で歴史になってもらわなきゃいけないの。これは絶対よ。あんたも見てればわかるわよ」
誠が来てからアヤメが街を見下ろすことは、ほとんどなくなっていた。
アヤメの視線の先には……ゆっくりと流れている雲があった。