始発特急
上の空、そして出発点
アヤメはお披露目の結果に大満足だ。
「ここまでうまく行くなんて! 誠ちゃん、あっきーあなたも最高だわー。さあ! これから誠ちゃん旋風を巻き起こすのよ。短期間で一気に攻めるから覚悟してちょうだい」
誠は熱に浮かされたように、ぽーっとしていた。いきなり人に注目されたのだから無理もない。だが、それだけではなく曲に合わせて動いたことで自分が歌っているかのような錯覚を起こしたこともその原因になっていた。
初めてまともに人前で披露して大絶賛された。その現実に、もちろん秋彦もしっかりと手応えを感じていた。たとえそのすべてが自分に対しての評価ではないとわかっていても秋彦は満足だった。あのステージを見たときに決心したのだ。誠を全面的に表に出して自分は裏でサポートしていこう、と。
ステージに上がらなくても歌い続けることはできるし、今までのことを思えば自分の曲だけでも世間に出てくれることで十分に満足できると秋彦は思ったのだ。
そう決意するなり早速、頭をマネージャーモードに切り替える。
「喜んでもらえてよかったです。ところで、これからの予定は?」
「そーね。そろそろホテルから普通のマンション暮らしになってもらわないと不便でしょ? もちろんこっちで手配してるから心配しないで。費用もこっち持ち。あー、変な顔してるから先に言うけど、それも仕事のうちなのよ? 売れてもらう代わりに投資する。ギブ&テイク。ここはこういう世界なのよ」
あまりに急すぎる展開に秋彦の言う漫画的展開を超えている。二人は顔を見合わせてこの状況を喜ぶべきなのか迷っていた。
「それで? あっきーが連れてきたあの子たちがレコーディングも担当するってわけ?」
「あー、そうですね。誠はデリケートなもんでレコーディングはあいつらじゃなきゃダメなんですよ。違うやつの時は声が出なかったりするんで」
誠は何から何まで用意周到な秋彦にまたも感心しっぱなしだ。(よく思いつくな次から次に)
「あとテレビのことも説得したんでオールオッケーですよ。そのかわり音響は、完全にあいつらに任せてもらうことが条件です」
アヤメは、すこぶる機嫌がいいので何の異論も唱えない。
「んまぁー。信頼されたスタッフがいて何よりだわ。場所さえ提供すればいいってことかしらね。いいわよ、何でもしてちょうだい。さて明日から嵐のように駆け回ってもらうわよ。覚悟してね、お二人さん」
誠はいつものように笑顔で返し、秋彦は夢じゃないことを祈りながら快諾した。