上出来人
偽者と、見世物
別のスカウトがめげずに口を出す。
「でも、見た目だけじゃ足りないでしょ。そのギターは何? 歌だろうとギターだろうと出来が悪けりゃ……」
だが、すぐに地雷を踏んでしまったことに気付いた。
「あー、そうねー。どっかの誰かさんとこは坊やに大金注ぎ込んでやっとでデビューさせたのにCDが売れなくてよそに行っちゃって、さらにそこでも借金つくって挙げ句に蒸発したのよねー」
泣きそうな顔のスカウトに一瞥をくれてからアヤメはチラッと秋彦に視線を送る。秋彦は了解のジェスチャーをして、誠に合図を送った。
誠は練習した通りにシールドをつなぎながら頭の中でイメージを固めていく。
本来なら、ギターはステージに準備しておくのだがギターを持ったままステージを歩かせたい、というアヤメの希望でこの形がとられていた。
「じゃあ聞かせてあげようじゃないの。こっちも、もちろんそのつもりで呼んだんだから。百年、いえ千年に一度の歌声とギターを堪能してちょうだい」
“百年に一度”だとか“奇跡の歌声”なんて言う言葉は今やありふれていて何の有り難みもなくなってしまっている。百年に一度のはずが数年ごとに訪れるのだから当たり前のことだ。誠は自分が褒められている訳ではないので、しれっとしているが秋彦は仰々しい紹介にひとり気まずい思いをしていた。それでも顔に出さないように気を取り直し、誠と“音響係”にGOサインを出す。
誠は、サインにうなずいてネックを握り胸の辺りから流れるように優雅に腕を振り下ろした。
刹那……
空気が、色を変えた。
透き通ったギターサウンドが感覚のすべてを魅了する。
痛いほど切ない声は聞くものの胸に突き刺さり吸い込まれてゆく。
自分のかけらを切り取ったような重く偽りのない言葉が無数の星となって降り注ぐ。
それらは苦しみに似た衝撃を与え、その魂をかき乱してゆく。
珠玉のバラードだ。
(誠ぉーーー! おまえってやつはぁーー!)秋彦はこれが自分の歌であることなどすっかり忘れ、ただひたすらに感銘を受けていた。
二人の練習の成果はしっかりと出ている。どこからどう見ても誠本人が歌って演奏しているようにしか見えないのだから。
誠が持っているのは録音の時にも使われた秋彦秘蔵のギター。神の手を持つと言われたジン・ペイゼンモデルで、今では手に入らない代物だ。そんな貴重な一品だとはステージの上でギターを抱えている張本人は知るはずもなかった。
シールドをつないでいても音は出ていないので誠の出す僅かな音はスピーカーから聞こえてくる秋彦の音にかき消されている。
言うまでもないが誠の口元にあるマイクも意味を成してはいない。
アヤメは感動のあまりどうかなってしまいそうだ。
「あぁぁ誠ちゃん……」
ステージの上からでも観客が心奪われているというのがひしひしと感じられた。誠はここまでの歌がなぜストリートで通用しないのか全く理解できなかった。
そしてスカウトたちは歯ぎしりして誠が自分の所に来なかったことを心の底から恨んでいた。