若輩披露
無防備な、ステージ
誠がスタジオに入ると貫凪がすぐに駆け寄ってきた。
「ほらほら二人とも、すぐ出番だよっ」
アヤメは早く誠を見せたくてたまらないのだ。
「えっ? もう?」
秋彦が慌てて準備する。
「そう。もう、だよー。みんなお待ちかねだからさっ」
貫凪はギターを抱えた誠を舞台の袖に連れて行った。
「準備はいいかな? まぁ、ダメって言っても行ってもらうけどねー。ってことで、さぁ行こっか」
(うわ! 展開早っ!)
誠は本当に心の準備をする暇もないまま笑顔の貫凪に背中をぽんっと押されて、ゆっくりと歩き出した。
(眩し……)四方から降り注ぐ光の洪水。
誠は雲の上を歩いているような気分になりふわりふわりと一歩ずつ足を踏み出す。
自分のまわりだけ時間の流れがおかしくなっているようだ。アヤメの考えにより舞台に上がる練習は一切していなかった。
誠は歩きながら、自分に突き刺さる視線に気付く。当然これは誠にとって刺激が強すぎた。
いきなり人前に出て自分が注目を浴びているという事実を目の当たりにして、ハレーションを起こしたように焦点が定まらなくなり頭が真っ白になった。何がなんだかわからなくなり歩いている感覚さえ失われていた。
誠の様子がおかしいため観客はざわめき出した。カメラマンも顔がよく見えないため、いいショットを狙えずにいる。
ただ一人、アヤメだけが頬笑みながら落ち着いてその様子を見つめていた。
「誠っ!」
ふいに秋彦の鋭い声が舞台に向かって飛んできた。
(? 秋彦?)次第に視界が開けていく。
(あっ、いけない!)
意識がしっかりしてくるとステージの中央を通り過ぎていたことに気付き、改めて正面に立ち直した。
落ち着きを取り戻した誠は一呼吸おき、すっと顔を上げる。
その瞬間、ざわついていたスカウトたちが一斉に息を呑んだ。
陰湿で重苦しかった空気が一瞬で吹き飛ばされ誰もが言葉を失っている。
圧倒されているのだ。スポットライトの中、ただギターを抱えてステージに立っているだけの青年に。
その姿は誠を知っている秋彦でも絶句したほどだった。(なんだよこれ? ステージに上がるだけで人がここまで変わるか?)
アヤメは想像の範囲を軽く超える結果を前にして叫びたい衝動をなんとか押さえ込んでいた。
「どう? みんな。緊張した所もかわいいでしょ? これがうちの新人MAKOTOよ!」
正面を向いている誠からは見えなかったがアヤメの言葉と同時にステージのスクリーンに“MAKOTO”のロゴとポーズを決めた誠の姿が映し出された。
早速スカウトの一人がアヤメに抗議し始めた。
「ちょっとアヤメ……さん? せっかくあんな子がいても、あなたの所じゃ宝の持ち腐れでしょ。今までの子みたいに潰す気なの? その点うちなら全力でプロモートできる……」
誠は反射的に声のした方を見下ろした。それに気付いて目を合わせてしまったスカウトは思わず赤面する。
アヤメは思惑通りに事が進み、にやけ顔で反撃に出た。
「あらあらあら。何を言い出すかと思えば。そういえば最近あなたが見つけてきた子、デビューさせたって聞いたけど名前も見ないんじゃない? あ、そんなことなかったわ。確かランキング一位よね。あっという間に消えそうなやつランキングでねー」
スカウトはハッとして唇をかんだ。自然とまわりにも下手に口出しできないという空気が広がる。
この世界によくあることとはいえ、どのスカウトも自分が連れてきた子がたいして売れずに消えてしまうことをアヤメに指摘されるのだけは避けたかった。そのことで自分たちが散々アヤメを攻めバカにしてきたのだから。