敏腕片割
以外に、頭脳派
「ところで二次審査は、どういう形で行われるんですか?」
秋彦はここに来た目的についてまだ詳細を聞いていないことを思い出した。
「あぁ、あれね。二次審査って言うのは言葉の綾でね。要するにあなたがさっき言った……大……手とやらに、お披露目しましょってことなのよ」
秋彦と誠は顔を見合わせた。
「私はね、この手で伝説をつくりたいのよ。そのために誠ちゃんのような子が必要だったというわけ。つまり……」
貫凪は長くなると判断して身振りで二人に椅子を勧める。
目の前ではアヤメによってミュージカルのような口調とステップを交えた説明が始まっていた。
並んでソファーに座った二人は、それぞれ違う意味でポカンと口を開けている。
「……だから誠ちゃんには下積みなしでトップに躍り出てもらいたいのよ! 今世間に出てるようなちゃっちい連中も年功序列もクソ食らえってんだ! って、あらやだ。私ったら、はしたない」
(マジか? スゴい事言ってるなこの人。見た目もスゴいけど)秋彦は驚きながらも、ここに応募した自分を褒め称えた。本当にそれが可能なら今までの努力も報われるというものだ。
一方、誠は聞いていても何がなんだかさっぱりわからないので、話が始まってからわずか十数秒で頭の中に違うことを展開させていた。(アヤメさんの眼鏡って何とかレンジャーの悪役がしてそうだなー。前、見難そう。あ、今日まだ糖分摂取してないな)
「あぁ、そうだ誠ちゃん。あのおばあちゃんの遺言って絶対なわけ?」
これにはさすがの誠も目が点だ。(え? 今、なんて?)
すかさず秋彦が口を開く。
「そりゃ、そうですよ。誠はおばあちゃんっ子なんで」
「本っ当にもったいないわねぇ。このルックスでテレビに出られないなんて。ねぇやっぱり考え直さない? おばあちゃんも誠ちゃんが活躍できるならあの世で賛成してくれるわよ。天下を取るにはテレビが一番早くて確実なんだから」
「そうですね。まぁ説得はしてみますけど……」
どうやら“誠のおばあちゃん”は遺言で誠をテレビに出すなと言ったらしい。
(いや、生きてるからーっ! 勝手に殺すなっつーの! 縁起でもない!)表面に微笑みを浮かべたままの誠が心の中で全力の突っ込みを入れる。本物は二人ともぴんぴんしていた。
誠は、秋彦が妙なことばかり言っているのでいいかげん疑われるんじゃないかと他人事のように様子をうかがっている。自分も当事者だというのに自覚は全くないのだ。
「あ、あと音を出すときはこっちに任せて欲しいんですけど、いいですか?」
「まぁ、自分たちで? こっちは別にかまわないわよ。こだわりがあるってことなのかしらね」
誠は秋彦が考えてきた設定をひとつひとつ思い出してみたが、自分では考えも及ばないことばかりなのでつい感心してしまう。
「ねぇ、ところで曲はほかにもあるの? 結構歌い込んでる感じだったけど」
「もちろんですよ! 六百くらいはありますね」
加藤にも聞かれたことだが今度は胸を張って言ってみる。
「ふーん。それだけあれば十分だわ。それじゃあとのことは貫凪から聞いてね。今日はゆっくりと休んでちょうだい」
「はい。ありがとうございます。じゃあ失礼しまーす」
誠も秋の横に並んで頭を下げる。
「んじゃー、二人ともこっちきてー」
貫凪がドアを開けて手招きしている。
三人がドアの向こうに消えるのと同時にアヤメの妄想モードのスイッチがオンになった。
「あぁあ、やっぱり実物はいいわぁ。あの体……たまらないわね」