落胆幻滅
待つ事の重さ
秋彦は真上を少しだけ過ぎた太陽の下をとぼとぼ歩き、いつもの三倍の時間をかけてやっとで目的地についていた。ふらついて見えるがそれは未だ残る熱さのせいではなかった。
「……お疲れーっす」
自動ドアが完全に開いてから落武者のように店に入って行く。ちょうど入り口付近にいた店長の中村が気付いて声をかけた。
「悪いねー寝てるとこ起こしちゃって。ちゃんと代休……って、おい大丈夫か?」
「あー、起きてたんで」
「いや、そうじゃなくて。電話でも元気ないとは思ってたけど、もしかして具合悪かった?」
「いやー、そんなことないです。ただ最近あんま寝らんないだけで……何でもないですよ」
秋彦は応募してすぐは結果をひたすら楽しみにしていた。ところが三週間過ぎたあたりから、それまでに持っていた自信が段々と不安に変化していき、二ヶ月以上たった今ではまともに睡眠も取っていないのだ。
いつ連絡がきてもいいように秋彦は、ずっと気を張っている。それなのに未だに何の連絡もこない。合格どころか不合格の通知さえきてはいなかった。
「もし何か悩んでるなら私が……」
中村の言葉を遮って秋彦は首を振る。
「いや、そういうんじゃない、と思います。でも仕事はちゃんとできますから。は、はは、は」
と、さらに心配度が増しそうな妙な笑いを残しスタッフルームに消えて行った。
秋彦がとろとろ着替えていると店に出ていた加藤が駆け込んできた。
「たぐっちゃん! 半死人みたいになってるって聞いたけど無事か? ま、俺にはわかるぜ。叶わぬ恋はすっぱり諦めた方が身のためだって! これ俺のおごり。飲んでから出てこぃょ……」
加藤は言い終わらないうちに店に駆け戻って行った。
秋彦の手には栄養ドリンク。それもこの店に置かれているドリンクの中で一番高いやつだ。とは言ってもコンビニなので医薬品部外品であり何千円もするような物ではない。
(こんなもん誰が飲むのかと思ってたけど……俺だったとは)ピキッと開けて早速飲んでみる。
「おー! こ、これは!」
体験したことのない味に“一番高い”というスパイスが利いて、ドリンクを飲んだだけだというのに単純な秋彦はコロッと元気になってしまった。一気に飲み干して気合いを入れ、そのまま売り場に飛び出していく。
「店長! これ今から出すやつですよね? 俺やっときますから!」
「えっ? あ、あぁ。もう出て来たのか? じゃあ、頼むよ」
中村は、しばらくの間ちょこまか動く秋彦を見てから加藤に耳打ちした。
「おい加藤、あいつはクスリでもやってるのか?」
加藤はその言葉に大爆笑。笑うだけ笑って涙を吹きながらやっとで答えた。
「いや、店長……違いますよ。俺にもそう見えるけど、要するにあいつは、バカだ、って事でしょう」
言い終わってもまだ息を切らせ肩を震わせている。
「? なんだそれ? まぁいい。あいつが来たから裏に行かせてもらうよ。今日中にデータ入力を終わらせたいからね」
中村は加藤と秋彦を怪しげに見つめてから歩いていった。