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強烈不快

取り扱い、迷惑

「まーこーとーくーん、キャラ目覚ましの箱ってどれだっけー? レイカすーぐわかんなくなっちゃってー」

 いきなり、せっかくのほんわか気分をぶち壊しにする林の甘え声が背中越しに聞こえてきた。それと同時に十キロ離れていてもわかりそうな香水のにおいが漂ってくる。(出たな!)誠は振り返りもせずにひとつの箱を指さした。箱には“キャラクター目覚まし時計(うー太郎)”と大きく書かれている。

 林はどうにかして誠に近付こうとしているのだが、あからさまに避けられてばかり。それなのにめげることなくこうして付きまとい続けているのだ。

 自分を見てもくれないことが気に入らなかったのか林はいきなり誠の目の前に飛び出した。

「ごめーん。どれだかわかんなかったー。レイカ、おっバカさんだからー誠くんが箱取ってきてくれなーい?」

 林からは香水だけではなくタバコの臭いもする。共に誠が吐き気を催すほど大嫌いな臭いだ。誠は臭いの元凶が至近距離にきたせいで思いっきり眉をしかめ、とっさにギュッと鼻をつまんでしまった。しかも本人の顔を見ながら。

 誠のジェスチャーは効果絶大だった。

「んなっ、なにそれー! ちょーームカつくんですけど! それレイカが臭いってこと? どこが? レイカのどこが臭いって言うの? もー、やーだ、マジムカ! ちょー信じらんない!」

 金に近い茶髪を振り乱し大騒ぎしている林にかまうことなく誠は自分の仕事に戻った。酸欠になる前に離れた場所で早速新鮮な空気を吸っている。この様子なら連行されるのは時間の問題だとわかっていたし、こんなことにこれ以上時間を割くほど誠はバカではないのだ。

 騒ぎから数十秒で誠の待ち人はやってきた。

「林さん! 戻ってこないと思ったら、またなの? 何度言ったらわかるのよ誠くんは真面目に仕事してるの。あなたと違・って・ね! 箱ひとつ持ってくることもできないならここにくるんじゃないの!」

 それから誠のほうを向いてにーっこりと頬笑む。

「ごめんね誠くん。すぐに連れ出してあげるから」

 言い終わるなりギャーギャー文句を言っている林を引きずりながら反対の手に目覚ましの箱を抱えてさっさと店に戻っていった。

 誠は、ふっくらとした威勢のいいおばさんを感謝の気持ちいっぱいで見送った。

(あぁ、住平さん、あなたは本当にたくましいです)

 ここで働く住平と春山、そして正は仲良し三人組で高校からの付き合いだ。

 春山は高校時代を過ごしたこの街が気に入って実家から離れ、住平はこの街から出たことはなく、正は若い頃住んでいたこの街にまた戻ってきたのだった。

 住平は春山がこの場所で花屋を始めた頃からずっと手伝いにきている。花屋をつぶして“雑貨屋ハウシュルツ”になってからは春山に代わって店の表を仕切る重要な人物となり、その一環として林の監視係も務めていた。

 住平が林の面倒を見ていることは誠だけではなく春山にとっても、かなりのメリットとなっている。林はあまりに常識がなさすぎて、おとなしい春山の手には負えないのだ。

「林さん! そんな格好でくるなんてどういうつもりなの! ここはそういうお店じゃないのよ!」

「林さん! 携帯をしまいなさい! お客様の相手をするのに携帯は必要ないでしょ! 何百回同じことを言われればわかるの?」

「林さん! 床に座るのはやめなさい! ここは自分の部屋じゃないでしょ!」

「林さん! レジは化粧台じゃないでしょ! あなたはそんなことも言われないとわからないの?」

「林さん! 何勝手に商品開けて使ってるの? 店の物はあなたの私物じゃないっていうことまで説明しなくちゃいけないの?」 

 何をやらせてもいいかげんな上に暇さえあれば誠に付きまとってばかり。おまけに仕事らしい仕事は一切せず掃除さえできない給料泥棒の林に住平は連日怒鳴りっぱなしだ。

 林は面接の際、露出狂のような姿で来た上に平仮名ばかりの履歴書をもってきて「漢字は難しくてわかんないもん」と言い放った。自分の姓名さえ平仮名で書かれていたのだ。

 住平は、春山からそれを聞かされたときに、雇ったのも不思議だが日頃の様子も含めここまでひどいのになぜクビにしないのか尋ねたことがあった。

 それに対し春山は明らかに困った顔で遠くを見ながらつぶやいた。

「それがね『もしここで働けなかったら誠くん恋しさに何をするかわからない』って言うんだよ。それは怖い顔でね。そもそも誠くん目当てでバイト始めたらしいし。どこまで本気かわからないけど最近の子だからねぇ、こっちも誠くんを預かっている以上もし何かあったら正に会わせる顔がなくて。あー、本当に情けない話だよね」

 最近の子……二人は林の様子を思い描いてため息をつき、今すぐクビにするのはやめたほうがいいと判断したのだった。

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