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主力裏方

密やかな、楽しみ

 誠は、あれからすぐにいつも通りの生活に戻り、何かと心配していた静音も顔色をうかがうのは数日でやめていた。

 非日常的な一日を過ごした誠だが傍目には何の変化もない。それまでと同じように、ただ黙々と繰り返しの生活を送るだけだった。

 誠の主な仕事場である倉庫は種類ごとに分けられた段ボール箱がきれいに積まれている。もちろん人が通ることも考えられていて限られた面積をうまく利用して通路ができていた。すぐに出すものは出入り口近くに配置されているが直射日光が当たることのないように考えられている。

 もちろんこの日も発注した商品が入荷するまでに在庫の配置換えはきちんと終わっていた。

 フルルンっという音が聞こえるなり仕入れ台帳に目を通していた誠が嬉しそうに外に駆け出して行く。

「こんちゃー。カピバラ運送っすー。お世話になってまーっす!」

 運転手はトラックから降りるか降りないかのうちに声を張り上げ、そのまま荷台に向かった。

 入り口に横付けされた大型トラックのボディー全面で、もふっとデフォルメされたカピバラが片手にひとつずつ箱を抱えている。

 ここは社長がカピバラ好きで会社の名前にそのまま使ってしまったという運送会社だ。おまけに自宅で本物を二匹飼っているそうだが、その名前がそれぞれトラックの“トラ”と、荷物の“ニモ”だという。

 いつものように運転手の口は絶好調だ。もちろん誠たちに社長の話をしたのもこの男だった。

「いやー、まだまだ暑いね。さすが日の本、日本ってかー。この国の夏は終わることないんだろ? って、そんなわけねえってな。おー、おー、しっかし相変わらずここはいいね、きれいだねー。こっちも運んでて気持ちいいよ。これあんちゃんがやってんだろ? 主だね、倉庫のぬ・し。うちもいろんなとこ行くけどこんなのほかにないよー。春さんも喜んでんだろ? わかるよ、うん、わかる。あんちゃんちも同じぐらいきれいにしてんじゃないの? そんじゃ、かあちゃん大助かりだな。うちのかあちゃんなんかさー……」

 男の口は軽く体の三倍は働いている。

 うるさいのが好きではない誠だが、この男の話は不思議と嫌ではないらしく毎度言われていることに対し照れながらも笑顔を見せていた。

 二人で伝票と荷物を照らし合わせ、誠が深くうなずいたら“間違いない”の合図だ。男はサインをもらった伝票の控えを誠に渡して残りを助手席にポンと乗せる。

「はい、どーもね。じゃ、またくるよっ」

 男は、ひらりと運転席に飛び乗って片手を挙げた。走り出してすぐ、誠がいつものように見送っていることをバックミラーで確認して目を細めている。

「あぁ、健気だねぇ。うちのもんにも見習わせたいよ」

 トラックが角を曲がりニカッと笑ったカピバラが見えなくなったところで誠はようやく仕事場に戻り始めた。

(あぁ、今日もかわいかったなぁ、カピーちゃん……)誠はいい男台無しの顔で、にんまりと余韻を味わった。

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